004 自称マスコット(キモイ)

『いやいや、夢じゃないですよ? 現実ですよ、全部?』


 声がした。

 あたしを触手に変身させ、訳の分からないことをさせた謎の声が。


「あ、あはは……、げ、幻聴が聞こえるなんて……」


『だから、現実なのですよー! ほら、僕はちゃんとあなたの肩に乗ってるですよ!』


「えっ、肩って……、なっ!?」


 視線を向けると、手のひら大の細い触手の塊が蠢いていた。思わず払い落としてしまう。


『ぎゃんっ!?』


 べちゃ、と地面に落ちて潰れる塊。すぐに起き上がり、怒ったように触手を蠢かせる。


『いきなり、なにするんです! なんです、助けたのにこの仕打ちは!』


「あー、うん、ごめん、つい」


 無茶苦茶キモかったので反射的に。というか、今までの声ってコレが発してたのか……。


『これから苦楽を共にするパートナーなんですから、もっと大切に扱ってほしいのです』


「……ちょっと、パートナーってどういうこと」


『どういうことって、そのままの意味ですよ? 契約したじゃないですか、さっき』


 何を言っている、というように、当然といった様子でのたまう謎生物。もしかして、あの魔法少女に襲われたときに言ってたあれのことか。


『というか、説明の前に自己紹介がまだだったのです。僕の名前はクゥリルトル、気軽にクゥと呼んでくださいなのです。あなたのお名前も教えてくださいですよ』


「あ、うん。あたしは佐鳥愛。で、結局さっきのは一体何なの? 色々説明してもらうわよ」


『はいです。さっき愛さんを襲ったのは見てのとおり、魔法少女なのですよ。彼女達は、もとは普通の人間だったんですが唆されて魔法少女にされているのですよ』


「唆すって、一体誰が? それに、何のためにあたしは襲われたのよ?」


『誰がかは分からないです。けど、愛さんが襲われたのは魔力を狙われたんだと思うですよ。思春期の女の子は一番魔力が高いですし、快感によって魔力は漏れ出てしまうものですから。彼女達が魔力を集めて何をしようとしているかは分からないですけど』


 快感で魔力って……。

 けれど、あたしがあんなふうに百合的に襲われた理由も一応分かりはした。単に、あの魔法少女の趣味的な意味合いも大きかった気もするが。


「それで、あんたはなんなの? どうみても魔法少女って、姿じゃないけれど」


『僕はあの魔法少女達に捕らわれている主様の使いなのです。主様が封印の弱まった際に、力を振りしぼって僕をこの世界に召還してくれたのです。だけど僕は潜在魔力を引き出し変身を促がすことしかできないので、一緒に戦ってくれる人を探してたのですよ』


「潜在魔力ねぇ。まぁそれであたしを選んだってわけ。というか、なんで触手なのよ。あんたもあの変身した姿も。あれじゃ、どっちが悪役だか分かったもんじゃないわよ」


 せめてこいつが普通の小動物的マスコットで、変身後も普通の魔法少女なら。それはそれで恥ずかしいことこの上ないが、まだ受け入れやすい内容ではある。


『そんなこと言われましても、姿は変えられないですし。それに、さっき愛さんが魔法少女に教われてたのを助けたのは僕じゃないですか。どうか信じて欲しいのですよ』


「信じてって、言われてもね……。まぁけど、信じるだけならいいけど、それ以上は……」


『やったですよ! 愛さんが一緒なら、これはもう百人力なのです! これならきっと、主様を助け出すこともできると思うのですよ!』


 喜色の声を響かせ、うねうねと全身の触手をくねらせ喜びを表現するクゥ。とても気持ち悪い光景である。というか、喜んでいるところ悪いが、待って欲しい。


「えっと、そのことなんだけど、あのときはあたしも切羽詰ってたし、やっぱ契約は取り消しってことには……。助けてくれたのは感謝してるけどあたしには荷が重くて……」


『駄目です! もう契約は完了してるんですから、そんなことできないのです!』


「さっきは緊急事態だったし。それに、魔法少女ならまだしも、触手はちょっと……」


『駄目なものは駄目なのです! 契約は絶対なのですよ!』


 そんな風に、あたし達が言い争っていると、一人の少女がやってきた。


「おーい、美奈ー、まだ終わらないの――、って、どうしたの一体!?」


 正確には、一人の魔法少女が飛んできた、と言うべきか。彼女もまた、フリフリの服に身を包んだ、典型的な魔法少女姿をしている。

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