EPISODE 2

 時々変化を与えてあげないと、長い寿命の中質のいい仕事は続かないからね。



「源星っていうのは死神の誕生と共に出来るもの。宇宙の中に源星はいくつかあって、それを取り巻くように源星の主である死神が自身を取り巻くテリトリーを創る。いってしまえば死神の数だけ源星があるってことだよ」


「ではこのような世界はここだけではないと仰るんですか」



死神によって源星付近の作りが違う。ここは源星、宇宙、深海、地、といったように層状に創ったけど、他は結構違ったりする。そこら辺を説明すると質問攻めになりそうだから適当に頷いておく。



「そんな馬鹿な…」



人間の神の欠点は頭が固いことだ。彼を神にした時も、源星を中心としたこの世界の仕組みについて説明するのには骨が折れた。



「興味深いですね。テリトリーはどのようにして決まるのでしょうか」



それに比べて果実の神は物事をすんなり受け入れる。けど、自分の正義に反すると思うことに関してはなかなか首を縦に振らない節がある。

 例えばバクの監視とか、ね。

 説得するのに時間がかかってしまったけど、バクのためだと言ったら了承してくれた。



「そこは解くに決められていなかったけど、拾い世界を創るとその分運営が難しくなる」



人間の神が爪を噛みながらキリキリしている。



「テリトリーに侵入されることはないのでしょうか。最悪死神様同士の戦争になることも…」


「人間じゃあるまいし。お前が考えてるほど殺伐としてないよ。テリトリーはいわばパーソナルスペース見たいなもので、自分が拒めば他の死神は足を踏み入れられないし、相手が拒めばこちらも訪れることは出来ない」



まだ安堵できないようだから人間の神を落ち着かせるためにネクターを勧めた。



「僕は誰のことも受け入れないし、これから先受け入れるつもりもない。観賞されることはないから安心しなさい」



ネクターを一度に煽った彼はジト目でこちらを見て来る。疑り深いのはこの神のいいところだ。

 実際、僕にはサミエドロとバクを死神にしている。他の死神を招かないとも限らないと疑われているのだろう。

 彼らは僕の源星を取り巻く宇宙の中で生まれた僕のおもちゃであって、一切干渉の出来ない死神じゃない。他所から別の死神を招くのと、彼らを死神として傍においておくのとでは天と地ほどの差がある。



「そもそも死神の集会にもずっと顔を出してないから、存在すら忘れられているかもしれないね」



 感心していた果実の神は持っていた輪に視線を落とす。



「話を元に戻してしまうのですが、結局のところ感情は自分でどうにかコントロールしなければいけないのでしょうか。いえ、コントロールすること自体が難しいのでしょうか…」


「そうだね。気づかぬうちに感情は芽生えているし、それを上手く操作出来ないのはこの宇宙に生きる命みんなそうさ」


「神であっても、ですか?」



真摯な瞳でこちらに回答を求める神にこちらも真摯に答える。



「そうだよ、神は完全無欠じゃない。それに死神だってあの二人は君たちと同じさ。長生きしたければ感情を殺すんだね」



死神にも感情がないわけではないが、上手にコントロール出来てしまう。

 死神に近い存在で蟻ながら、人と同じように豊かな感情を持ってしまう神。彼らの立場が一番感情に苦しめられるだろう。それによって大切な寿命が減ってしまうのだから。

 まあ、神をそういう作りにしたのは僕なんだけど。

 果実の神に休息を取るように指示してから、人間の神が僕に見せるために持って来ていたという報告書に目を通す。



「例に倣って先月バクさんが刈り取った命と同じ数だけの命を各星に誕生させました。役五割は人間、残りの五割の詳細は他の神の報告で上がってくるかと」


「ご苦労様。…ああ、またか」


「ええ。ご覧いただいた通り、命と命が衝突してこちらの意図せず失われた命の数がここ数百年で増加傾向にあります。補填はどうなさいますか」


「これからはその手の仕事はサミエドロがやるから。補填が追い付かないと予測される部分は今から僕が片付けてくるよ。君はこのまま仕事に戻りなさい」


「畏まりました」


「ああそれから、果実の神は一時間もしないうちに仕事に戻ると言い出すだろう。その時は僕の命令だと言って強制的に休ませろ。今はあの子の輪にこれ以上の負荷はかけない方がいい」


「お優しいのですね」


「過労死でもされればこっちも優秀な紙を失うことになるからね。お前も適度に休みなさい。輪廻転生の道から外れた君はもう次の生がないんだから、寿命は大事にしないとね」


「お気遣いありがとうございます」


「じゃあ留守を頼んだよ」

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