実験結果

第34話 結果報告

 さて、ここからは結果報告をしていこう。

 3カ月の貯蔵の後、遂にそれぞれの出来具合を確認した。どれも梅の傷みや砂糖の溶け残りといった物は見当たらず、基本的には上手にできているように感じられた。

 面白いこと、同じように元の色が無色透明の酒でも、種類ごとに微妙に色の出方が違っていたり、意外と色が変わっていなかったりと、見た目だけでも面白い違いが見受けられた。

 後は1つ1つ開封して、ショットグラスに入れてストレートで味見していく。

 ここからは、それぞれの味と香りの感想を記していく。ただし、私はそれほどグルメでも繊細な鼻や舌を持っているわけでもないので、おおよその物であると思ってもらいたい。

 また、梅酒は長く漬けていると味わいも変化してくるので、これは3カ月経過時点での風味であると考えてほしい。もしかすると、長期間漬けることで酒の個性が薄れてきたり、飲みやすくなってきたりするかもしれない。


 なお、梅酒は飲みやすい酒ではあるが、蒸留酒と砂糖をたっぷり使って作られていることを忘れてはいけない。

 度数は高いし、シロップとアルコールのカクテルも同然なので、カロリーは高い上に、うかつに飲むとかなり酔っぱらう。注意しよう。


麦焼酎

 梅の風味、酸味、甘みが良く出ている。ライトな優等生的印象だが、後味に梅のえぐみや苦みが出ている気がする。

 元の酒がドライで癖がないために、梅のそうした部分までが表に出ていることが理由だろう。元の酒の穀物っぽい部分は感じられない。

 お湯割りにするとえぐみが強く感じられてしまうかもしれない。全体的にストレート向けかと思われる。

 漬ける時間が長くなればえぐみや苦みが覆い隠されていくかもしれない。


芋焼酎

 香りは元の黒霧島のままで、味が梅酒という結果になった。味の方は麦焼酎で作った物より甘みが強く、そちらで感じた梅のえぐみはない。

 ただ、香りは芋焼酎のポテト感がある。梅の甘い匂いより、そちらの方が識別できる。知っている人なら、原酒が芋焼酎だと分かりそうだ。

 香りに抵抗を感じなければ、味としては麦焼酎ベースよりも濃厚で甘い感じに仕上がった。


泡盛

 味わいは麦焼酎と芋焼酎の中間といったところ。泡盛の麹っぽい香りは、梅の香りに隠れて消えている。後味の苦味はわずかにあるが、麦焼酎のときよりは感じにくい。これも時間が経てば消えていくと思われる。

 昔の梅酒が事前にあく抜きをしていたのは、漬ける期間がもっと短いことからえぐみが感じられやすいためだったのだろうか。

 芋の香りの様な梅の要素を抑える部分が無いので、全体的に「梅酒らしい」仕上がりとなった。梅酒を作る場合、焼酎は米が原料の物が一番いいのかもしれない。


ウイスキー

 甘みと梅の香りはやや控えめだが、ウィスキーの樽や煙っぽい香りは隠されている。元々の香ばしさと梅の苦味が合わさって、口に含んだ後半に苦さや味わい深さが生じる。ただ、それほどはっきりと特徴的な味が出ているわけではない。

 ホワイトリカーで作った物よりも味わいが濃いが、ウイスキーらしい部分はあまり残っていないといえる。おそらくだが、元のブラックニッカがライトユーザー向けのブレンドなので香りや味が、梅と糖で隠されてしまっているのだろう。

 どんなウイスキーでも梅に負けてしまうのか、他の種類で検証する必要があるかもしれない。


ブランデー

 梅の香りはやや抑え気味だが、だからといって全く感じないわけでもない。香りの中にわずかな果実らしい酸味が含まれているような気もする。

 飲んで見ると前半は落ち着いた甘み、後半は酸味とブランデー特有の腰のある味が合わさった刺激がある。ブランデーの香り高さに梅の風味を加え、スピリッツの飲みにくさを抑えた雰囲気だ。

 ブランデーは果実酒を漬けるのによく使われるが、やはりそれだけの理由があることを実感する。

 非常に優等生的だが、逆に言えば満たされてしまっていてこれ以上〝面白さ〟を追求する余地があまりないと言えるかもしれない。梅酒づくりで失敗したくなかったら、とりあえずブランデーを使えば大丈夫な気がする。


ジン

 ふたを開けて香りを嗅いだ瞬間から衝撃。超が付くほど薬っぽい。梅酒にしたことで、逆にジンのハーブの香りが強調されている。元のスピリッツの刺激が抑えられた結果、ジュニパーベリーをはじめとするボタニカルの香りがよりはっきりと感じられるようになっているようだ。

 梅酒らしい香りがほとんどしない。何の酒か分からないかもしれない。

 味見をすると、ジンのきつさが砂糖の甘みで飲みでやわらげられて飲みやすくなっている。味の面では梅の酸味や風味を感じられるが、やはりジンの香りが勝っている。とにかく強い。強いので苦みやえぐみは感じられない点は利点か。

 ジンを梅酒にするというよりも、ジンに梅の味と砂糖を加えて飲みやすくした飲み物という感じ。梅酒にしてもジンはジンだった。酒のパワーが強く、梅を取り込んでしまったのだ。

 これが全てのジンに共通するのかどうかを検証したい。ジンはそれぞれでボタニカルが異なっているので、違う製品であれば違う結果が得られる可能性がある。


ウォッカ

 こちらは正統派の梅酒といった仕上がり。元の酒に匂いや味が付けられていないので、梅の香りや味がしっかり感じられる。麦焼酎と違ってえぐみや苦みは出ていない。アルコールの強さで抑えられているのだろうか。

 焼酎よりも度数が高い酒で作ったので、それらよりもドライな仕上がりになっている。甘すぎない感じが非常にいい。ブランデーで芳醇な梅酒が作れるとすれば、ウォッカではドライな梅酒を作れると言える。

 ウォッカは銘柄ごとに、品質に違いはあれども味に大きな違いがあるわけではないタイプの酒だ。ブランデーと同様に優等生なのでここから大きく違ってくる部分がないと言えるだろう。こちらも失敗したくない場合に適しているかもしれない。


テキーラ

 香りは梅酒だが、同時にテキーラらしい「青い」香りが届いてくる。どう表現すればいいか分からないが、「青い」のだ。

 飲むと、テキーラのきつさが梅と糖の味で抑えられているが、消えているわけではない。特に後味にスモーキーな辛さが感じられる。

 テキーラとしての要素が消えておらず、全体的に言えばテキーラに梅の香りと砂糖の甘さを追加して飲みやすくした物という感じ。

 ジンほどではないが、似たような結果が得られた。


ホワイトラム

 蓋を開けても梅の香りが届いてこない。鼻を近づけても届いてこない。何か失敗したのかとも思ったが、色はちゃんと付いているし、梅もしわが入っている。ただ梅酒の香りがしない。

 何か失敗したのかと思ったが、飲んでみると梅酒の風味がするし、ちゃんと甘い。だが、何か梅酒らしさが希薄だ。マズいわけでもないのだが……。

 ラムは香りや味がきつい方ではなく、比較的飲みやすい酒なのだが、大人しそうに見えて梅の香りも味も抑え込んでしまっている。正直なところ、これは予想外。

 もっと梅と調和してくれるかと期待していたのだが、まさかラムが梅を圧倒してしまうことになるとは思わなかった。


ダークラム

 こちらもホワイトラムと同様に、原酒が梅の香りを抑え込んでしまっている。蓋を開けてもあの梅の香りが届いてこない。ホワイトラムとダークラムの両方で同じ結果が得られたということは、熟成による濃さは梅の香りを封殺することに関係がないことが分かる。

 味は悪くなく、元々が柔らかいラムの口当たりに甘さと少しの酸味がプラスされて飲みやすく、後味の辛さも抑えられている。ただ、やはり基本はラムのままで、梅はあくまで添え物という雰囲気だった。

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