第8話「深山」

 神代歴1278年11月頭。

 セイリュウ国のとある山中。既に日は暮れ始め、辺りは鬱蒼と茂った山間の闇に包まれつつあった。太く伸びた大木は手招きするように旅人を招き、更に深い闇の中に誘われていった。

 そんな中、一台の力車が不自然なほどの勢いで、道なき獣道を駆け抜けていた。岸壁に乗り上げ、藪を引きちぎり、それは明らかに本道からは逸れた、普通の旅人からすれば決してあり得ない行程だった。

 力車を引く大柄の女性レイは、きょろきょろと辺りを眺めながら、1人大きく舌打ちをした。

(くそ! なんでこうなっちまうんだ!)

 どこにいるのか見当も付かぬ入り組んだ山道、刻々と訪れる闇の時間、つまりは最悪に近付きつつある状況だった。今日一日、レイは勘だけを頼りに進み続けた結果、そのツケが最悪の形で返ってきたのだった。

(たぶん20キロくれえ前の二叉路だ。あそこまでは問題なかったんだ。俺の読みじゃバイメンは目と鼻の先のはずだが……マジでここはどこなんだ?)

 内心で何度も自分に問いかけるレイだったが、勿論何一つ具体的な答えなど示されるはずもない。静まり返る闇の中で遂に足を止めたレイに、すかさず力車内から藤兵衛の低いダミ声が投げかけられた。

「お、おい! 大丈夫かの? 先程から不自然に揺れておるぞ!」

「うるせえ! だまってろ! きっと道は合ってんだ。俺に任せて闇術ごっこでもなんでもしてろや!」

 イラつきを隠せずに、レイは感情のまま怒鳴りつけた。間違いなく引き返すべきだった。例え恥であったとしても、然るべき地点で皆に相談すべきだったのだ。しかしそんな冷静な判断は、今のレイに出来るはずもなかった。とにかく進む、そう決めていた。この森を抜けさえすれば、きっとバイメンに着く。そうした希望的憶測に縋っているだけだった。

 だが、やっとのことで森を抜けた先は、高い高い崖の上だった。下に視線をやると、絶望的な唸りを上げる大海が広がっていた。遥か遠くに島の灯りがぼんやりと見えた。明白に、言い訳のしようもなく、ここはただの行き止まりであった。

(ふ……ふざけんじゃねえぞ!)

 苛立ち紛れにレイは急ぎ力車の舵を切った。だがその瞬間、バキッと不吉な音を立てて右後方の車輪が外れた。

「あっ!」

 気づけば車輪は崖下にゆっくりと落ちていった。バランスを失い、ガタンと地に着き横転する力車。その衝撃で外に転がり落ちた藤兵衛は、周囲の様子を眺め素っ頓狂な声を上げた。

「今の音は何じゃ?  ……?! こ、ここは……海じゃと? 貴様……一体何処まで走って来たのじゃ!」

「知らねえよ。たぶん道は合ってる。もうちょいで着くんじゃねえか?」

「ふざけるでない! 明らかにまともな道ではなかったろうが! 海の向こうに見える光は秋津国のものぞ! 貴様……あれ程申したのに、東海岸まで突き抜けおったな!」

「あ? ちったあ遠回りかもしんねえけど、いずれ着くだろ。ガタガタ抜かしてんじゃねえよ」

「痴れ者が! セイリュウ国の東海岸は近年最大の戦場じゃ! 5年前にセイリュウと東海の秋津国が、血を血で洗う死闘を繰り広げた場所じゃぞ! こんなところで夜を迎えたら絶対に身が保たぬわ! しかも力車まで壊しおって!」

「ああ、うるせえ! 知識自慢はそれくれえにしとけや! なんとかすりゃいいんだろ! 俺がぜんぶやっからよ。壊れた力車だって俺が担いでく。それなら文句ねえだろ!」

 しん、と静まり返る場。呆れたように立ち尽くす藤兵衛。そんな中、シャーロットがスッと車内から降り立った。

「レイ……」

 哀しそうな、何かを求めるような顔で、彼女はレイに近付こうとした。レイは反射的に顔を逸らし、くるりと後ろを向いて呟いた。

「……すみません、お嬢様。でも……俺がなんとかしますから。だって今までも、ずっとこうやって……」

「!? 危ない! レイ!」

 突然響くシャーロットの絶叫。咄嗟に反応する藤兵衛とレイ。だがその時はもう既に遅かった。レイの前に立ちはだかったシャーロットの首筋に、一本の小さな矢が突き刺さっていた。

「お、お嬢様ああああ!」

 発狂したように叫ぶレイ。木蔭からガサと微かな音が聞こえ、何者かが去っていった。気配は瞬時に消え失せ、追跡するのは不可能と思われた。何より今のレイには、そんな発想など起こる筈もなかった。

 シャーロットはその場に倒れ込み、荒い呼吸で何事かを呟いていた。びっしょりと全身に汗をかき、白い肌は病的な青みを帯び、目はきつく閉じられ口は半開きになっていた。どう見ても正常と呼べる状態ではない。レイは必死でシャーロットを揺さぶり、無理矢理に処置しようとした。

「お嬢様! 大丈夫ですか! こんな矢なんてすぐに引っこ抜いて……」

「落ち着けい!」

 だがその時、金蛇屋藤兵衛の一喝。凄まじい声量、気迫に震え上がる空気。その迫力に鳥は飛び去り、森の木々がバサバサと揺れ動いた。レイの心臓の鼓動が瞬時に早まり、一心にシャーロットに向き合いながらも、激しい怒りを込めて彼をきっと睨み付けてた。

「こんな時に落ち着いてなんかられっか! さ、お嬢様。今俺が助けて差し上げますからね」

 再び力づくで矢を引き抜こうとするレイ。だがその瞬間、レイの頰に強烈なビンタが放たれた。張ったのは無論、金蛇屋藤兵衛。ぐらりと揺れるレイの身体に見向きもせず、彼は一心に矢の刺さった部分を注視していた。

「グッ! て、てめえなにしやがる! お嬢様を殺してえのか!」

「それは儂の台詞じゃ! これは近辺を縄張りとする、戦士の部族の毒矢ぞ。無理に引き抜こうとすれば、先端の返しで毒は余計に全身を回ろうて。初期処置を間違えば命取りじゃ。とにかくそこを退けい!」

 藤兵衛の気迫に押され、不満を顔一杯に示しながらも、少しだけ後ろに下がったレイ。彼は素早く力車の道具箱から調理用の小刀を取り出すと、苦しそうに呻くシャーロットに気をやることなく、一切躊躇わずに周囲の肉ごと矢尻をずるりと削り取った。首筋からは血が吹き出し、瞬く間に彼の手元を赤黒く染めた。

「……ふう。何とか上手くいったわ。おい、虫。何でもいいから傷を塞げい。出血が多すぎるわ」

「あ、ああ。包帯があったはず。ちょっと待ってろ」

 レイは言われるがまま、手早く包帯を取りシャーロットに縛り付けた。時折苦しそうに呻き声を上げるシャーロットを見て、レイは涙を流して嗚咽した。

「俺のせいだ! 俺がつまんねえ意地を張っちまったから……俺が道を間違えたから、俺のせいでこんなことになっちまったんだ! 俺のせいでお嬢様が……」

「そうじゃ。全ては貴様の責任ぞ。じゃが、今そんな事を詮議しても意味はなかろう。儂らは今、やるべき事を全力で果たさねばなるまい」

 レイは一転して顔を真っ赤にしてギロリと藤兵衛を睨み付けると、丸太のような太い腕で勢いよく彼の胸倉を掴み上げた。

「てめえ! よくもそんなに冷静でいられるな! お嬢様が死ぬかもしれねえんだぞ! そしたらてめえだって死んじまうんだぞ!」

「だから何じゃ? 焦れば事態が好転するのか? 奇跡が起きてシャーロットが復活するのか? 儂の経験上、焦って上手くいった事例など一つ足りとも無かったわ。もう一度言うぞ。まず貴様は落ち着けい。シャーロットの命は、儂と貴様の判断と行動に委ねられておる。予断は許さぬが、熱くなっては救えるものも救えまいて」

「……ぐっ!」

 藤兵衛の揺らがぬ言葉と態度を何とか受け入れ、レイの荒い息は徐々に収まっていった。涙でグチャグチャになった顔を手で擦り、ようやく覚悟を決めたレイは、その場にどかりと腰を下ろして彼に頭を下げた。

「……悪かった。てめえのおかげで目が覚めた。……で、この先どうするんだ?」

「先ずは状況の整理じゃ。シャーロットは見ての通り瀕死。このままでは恐らく明日まで保たぬ。しかもここは、人々の怨嗟の声積もる東海岸じゃ。夜になれば忌まわしき眷属どもが来る可能性が極めて高かろう。やるべきことはシャーロットの治癒と、此奴を朝まで守り抜くこと。ここまではよいな?」

 こくりと無言で頷くレイ。満足気に手早くキセルに火を付けると、藤兵衛は言い聞かせるような口調で更に続けた。

「第一に優先すべきは解毒じゃ。儂にはこの毒の種類は分からんが、何としてでも解毒剤を手に入れねばならぬ」

「解毒剤だ? んなもんどこにあるんだよ! そもそも眷属の毒なら……」

「手短に根拠を話す故、よう聞けい。まず眷属の仕業では断じてない。貴様が言っておったであろう? 理由は分からぬが、何やら敵はシャーロットを殺さぬとのこと。相違ないな?」

「あ、ああ。こまけえ話は置いといて、敵はお嬢様の身柄を求めてる。だからぜってえ殺しはしねえ。……!! て、てえこたあ……」

「その通りじゃ。敵はシャーロットを殺そうとした、この事実を以て判断する他なかろう。無論、不確定要素は大きい。まず貴様を狙ったのも、無力化して彼奴を攫う算段とも考えられよう。そこでもう一つの根拠じゃ。この山中は戦士の部族の縄張りで、警告の意味で放った矢と想定出来る。羽の部分の紋章から、恐らくはセイリュウ国随一の戦闘部族にして、セイリュウ国連合部族会議長のサンジ族じゃな」

「じ、じゃあそいつらがお嬢様を! なら俺がぶん殴ってでも……」

「だから落ち着けと言っておる! 場所は? 誰が? 毒の判別は? 貴様が暴れている間に、確実にシャーロットは死ぬぞ。よいか。連中は戦の際に必ず交渉の余地を残す。必ず解毒剤は存在しよう」

「……」

「一筋縄ではいかぬ連中じゃ。貴様には交渉は出来まい。じゃが、儂ならば出来る。集落の位置も、連中の風習や性質も知る儂ならばの。故に儂が行くしかない。反論があるなら手短に述べい」

「認めたくねえが……その通りだ。俺にゃそんなことはできねえ」

 血が出る程に拳を握り締め、深く項垂れながらレイは答えた。藤兵衛はキセルを更に深く吸い込み、夜の闇の中に煙を放ち切ると、目を見開いて勢いよく立ち上がった。

「逆も然りよ。儂にはシャーロットを守れぬ。貴様の力が必要じゃ。儂は儂にしか出来ん事を、命を懸けてやり遂げてみせようて。かなりの綱渡りじゃが、蛇の如き諦めの悪さが儂の1番の取り柄ぞ。貴様も貴様にしか出来ん事を、その身を賭してやり遂げてみせい! 術だか技だか知らぬが、使える物は何でも使い、全身が消し飛んでもシャーロットを守れい! これは儂と貴様の『契約』じゃ! 何か疑問点はあるか? 無いなら儂は行くぞ」

「……ねえよ。ぜんぶてめえの言う通りだ。そっちは……任せた。こっちは俺に任せろ。お嬢様には指一本触れさせねえ」

 藤兵衛は満足そうに頷き、レイに向かって高く手を差し出した。レイは戸惑いながらも、ほんの少しだけ微笑んで、その手に強く自身の掌を叩き付けた。バチンと大きな音が響くと、藤兵衛は振り返らずに山中に消えていった。レイはその場に座り込み、シャーロットの顔を深々と見つめて言った。

「俺にしかできねえこと、か。……そうだよな。最初から決まってらあ。やるしか……ねえよな!」

 闇が少しずつ山中に訪れていた。レイは深呼吸をし、粟毛立つ眷属の感覚にぺっと唾を吐き捨て、確実に訪れつつある危機に怯むことなく、凛とした視線を向けていた。


 藤兵衛は駆けた。闇が深まりつつある山野の中を、ただひたすらに駆け巡った。

(よりによってサンジ族とはの。連中は金では動かぬ。中々に剣呑な事態じゃの)

 藤兵衛は考えた。これはかなりの危機である、と。しかし同時に思う。いついかなる事態においても、どんな危機の中においても、必ず突破口は存在すると。死中にこそ活路はある、それは彼の信念の柱だった。

(こんなところで死ぬのは御免じゃ。まだ儂にはやるべきことがあるわ。この世の富を全て喰らい尽くすまで、儂は止まる訳にはいかんのじゃ!)

 金蛇屋藤兵衛という男の脳内に、東大陸の地図で白紙の部分はない。少ない情報から現在地を認識し、サンジ族の集落も完全に特定出来ていた。しかし彼らの用心深さは尋常ではない。元の老人の姿ならさておき、今の彼がすんなり潜入出来るとは思えなかった。

 だが、藤兵衛には勝算があった。賭けには違いないが、1つだけ彼には光明が見えていた。例えどんなにか細い光であったとしても、そこに向けて懸命に如何なる手段を使ってでも進むのみ。それが金蛇屋藤兵衛という男の生き方だった。

(さて、やるしかあるまいて。刺客が直接関係するかどうかに関わらず、縄張り内でうろつく阿呆を放っておく緩い連中ではないわ。必ず何らかの接触をしてくる筈じゃ。そこを見逃さぬ。この儂は、伊達に蛇の名を冠しておる訳ではない。必ず尻尾を掴んでくれるわ!)

 藤兵衛は駆けた。夜の闇の中を駆け足で、深い山を掻き分けて、がさつで無遠慮な態度を装いながら。いずれ必ずやってくるその手を待ちながら。そしてそれは、彼の予想より幾分早くにやって来た。

「手を上げろ。そのままだ」

 森の中から冷徹な響きの声がした。藤兵衛は逆らわず、心底驚いた振りをして素直に手を上げた。鋭い敵意の視線が森中から刺し貫いた。数は10を下らない、手練れの一行だ。彼は冷静に観察を続けながら、無知を装い呑気に話しかけた。

「おお、すみませんの。ここは戦士の方の縄張りでありましたか。ちと道に迷ってしまいましての。儂は旅の行商人、南海屋藤吉と申しますじゃ」

「知らんな。お前1人か? どちらにせよ、次に虚偽を放った瞬間に殺す。全て吐け」

 一団の長らしき逞しい男が、冷たく端的に言い放った。この時、藤兵衛は彼の目の奥を見据えながら、その脳裏には1つの疑問が浮かんでいた。

(儂らの存在を認識しておらぬ? 連中にブラフは通用せぬが、逆もまた然りじゃ。だとすれば……あの矢は一体? やはり……虎穴に踏み入らねばならんようじゃの。やれやれ、随分とややこしくなりそうじゃて)

 藤兵衛は下卑た笑みを絶やさずに、懐に手を突っ込んだ。その瞬間、戦士たちは風のように静かに、それでいて烈火の如き勢いで彼を囲むと、腕を掴んで地面に押さえつけた。そのまま男は彼の腕をひねり上げて、懐から何かを取り出した。それは漆塗りの黒檀に、大きな金字でうねる蛇の絵が特徴的な、絢爛豪華たる飾りキセルだった。男の顔色が僅かに変わったのを見逃さず、藤兵衛は柔和な作り笑いを浮かべたまま告げた。

「ホッホッホ。これは儂の主の持ち物にして、この身を証明するものとなりましょうぞ。金蛇屋藤兵衛様から、サンジ族次期族長ホムラ様への伝言を預かっておりましてな。案内して貰えますかな?」

 ざわ、と一気に沸き立つ戦士たちを、男は手を上げて制止し、無言でじっと様々な角度から蛇の印を眺め始めた。幾ばくかの時間が流れた後、彼は冷静な表情のまま再び無機質に告げた。

「この印は本物だ。我らと金蛇屋には協定がある。お前が実際に何者であれ、蛇の印を持つ者は我らの客だ。連れて行ってやるが、捕縛させて貰うぞ」

「答えるまでもないわ。好きにせい。お主らの賢明な判断に感謝するわい」

 戦士たちに手足を縛られ、担がれながら山中を進む藤兵衛。その頭の中には、これからの策が多層に複合しながら渦巻いていた。火のないキセルを口に咥えながら、彼は自らの人差し指に嵌った指輪をそっと見つめ、心中で深く呟いた。

(生きるも死ぬも所詮は紙一重よ。じゃが儂は死にはせぬ。儂は救いようの無い嘘吐きじゃが、自分の発した言葉を裏切らったことはない。必ずや解毒薬を手にし、シャーロットを救ってみせるわい!)


 一方、レイとシャーロット。

 レイは何度目かのタオルを取り替え、シャーロットの額にそっと置いた。何度確認しても彼女の熱は下がらず、呼吸は荒く、うわ言が続いていた。

「お嬢様……生きてください。おい! 神でもなんでもいいからよ、とりあえずなんとかしろや!」

 レイは自分なりに天に祈り続けていた。無論、そんなものなど今まで一度も信じたことはなかったが、それでも思いつく限りの言葉と思いを天に向けて放ち続けていた。

「聞いてんのかクソ野郎! 俺の命なんざいらねえ! だからよ……早くなんとかしやがれってんだ!」

 必死で叫ぶレイ。怒りと苛立ち、それと同じ位の自責の念を込めて。しかし無情にも、シャーロットの心音が急速に弱まっていった。レイは涙を流しながら、何度も何度も心臓を押し続けた。

「お嬢様! お嬢様! おい……ふざけんじゃねえぞ!!」

 怒りと焦りが入り混じったレイの叫びに、答える声はなかった。シャーロットの心臓は、やがてゆっくりと鼓動を止め、遂には完全に停止した。

「あ、あ、あ、あああああああああ!! お、お嬢様あああああ!!」

 レイの絶叫が闇深い山中にこだました。絶望と崩壊を告げる漆黒の悲鳴。だが次の瞬間、シャーロットの纏う漆黒のドレスが彼女の身から剥がれ、まるで意思を持つかのように、空中で不思議な紋様を描き出した。

「これは……『自動術式』!? まさか!」

 ドレスは複雑な印を多重に描き続け、一糸纏わぬシャーロットの体の上で鈍い闇の煌めきを放って消え失せた。と同時に、シャーロットの心臓が微かな音を立て始めた。

「う……レイ? ……おはようございます」

「お、お嬢様! ご無事で……ご無事でなによりです!!」

 弱々しいシャーロットの声が届き、レイは涙を流して彼女を抱き締めた。事態をうまく掴めずぽかんとしながらも、シャーロットは嬉しそうに美しく微笑んで、レイの大きく分厚い身体を優しく抱き締めた。

「ふふ。レイこそ無事で何よりです。よもやこんな形で『ベール・グランデ』が自動発動するとは。御祖父様の遺品が役に立ちましたね。この術は私の肉体を強制的に補強させるようですが、効果はもって数時間でしょう。ですが、それを過ぎれば確実に私は死にます。満月の夜ならば何も問題ありませんけれど。……心配かけて申し訳ありません、レイ」

「そんなの……俺が勝手に……お嬢様が助かれば俺なんて……」

 シャーロットは僅かに微笑み、レイの顔に手を伸ばしてそっと涙を拭いた。それでも止まらぬ涙、弱々しく手を握り締め震えるレイに、彼女は青白い顔のままはっきりと言った。

「そういうところですよ、レイ。貴女は昔からずっと変わりませんね。私が野犬に襲われた時も、火事に巻き込まれそうになった時も、そして……“あの時”も。貴女は自分が傷付く事で、いつも私を助けてくれましたね」

「……」

「私は……ずっとお礼を言いたかったのです。でも、貴女はいつもそう。私の為に死のうと、自分が全てを被ろうとする。私はね、レイ。貴女と一緒だったから、今迄生きて来れたのです。こうして旅を続けて来れたのです。だから……私たちはいつも対等で……これからもずっと…………」

「お、お嬢様! わかりました! 俺たちはずっと一緒です! ただ、これ以上は危険です! どうか安静に!」

「嫌です。貴女には言っておかねばなりません。こんな風に仲違いしたまま死ぬなんて、私はまっぴら御免ですから」

「当たり前です! 仲違いなんてそんな……俺はただ……」

「ありがとう、レイ。貴女は決して“人形”なんかではありません。貴女は……誰ですか? 私の目を見て、はっきりおっしゃいなさい」

 半死半生ながらも、毅然とした光を放つシャーロットの目。レイは逡巡しながらも、やがてゆっくりと彼女の目をまっすぐに見つめて、微笑を浮かべて叫んだ。

「正直……俺は自分がなんなのかなんざ、今でもちっともわかりやせんや。お嬢様の言ってる意味もさっぱりでね。けど俺は……今向かうべき道くれえはわかってますぜ」

「ふふ。方向音痴の貴女がよく言いますね。でも今は……それで十分です。必ずや私たちの……私とレイ、そして藤兵衛の進む先に答えは……」

「お嬢様! しっかりしてください! もう少しだけ待ってください! きっとあのクソ商人が……必ずお嬢様をお救いします! あのクソは普段はどうしようもねえゲス野郎だけど、チンカス以下の品性しかねえクズの極みだけど、あの野郎は自分の言葉にだけは命を懸ける男です! こんなことぜってえ言いたくねえが……あいつなら必ずなんとかしてくれるはずです! だから、そんな弱気なこと言わないでください! 俺たちを信じてください!」

「……そうですね。彼はそういう方です。私も彼を信じていますよ。でも……もし万が一私が死んだ場合は、彼も一緒に……本当に申し訳ないことを……その時は貴女に全てを……託し……どうか“あの人”を……止め……」

「お嬢様ああああ!!」

 弱々しく呻き続けるシャーロット。そして、本格的に訪れる闇。大地から強大な闇の波動を感じる。しかも、レイの鼻に漂うは、今までとは異なるひり付いた気配。

 レイはそっとシャーロットを力車内に寝かせると、間も無く確実に訪れる脅威に対し、拳を裂けんばかりに握り締めた。

「どうやら本命のお出ましか。“俺にできること”……ね。そうだな、クソ商人。やるしかねえよな。おたがい、よ」

 レイの目がみるみる真紅に染まっていった。闇が体幹を貫き、身体中に染み渡るように広がっていった。溢れ返る敵意に身1つで臨む、レイの長い長い闘いが始まった。


「いやあ、者共! 踊れい、歌えい!」

 藤兵衛の賑やかな声が集落中に広がっていた。広場中央の篝火の周りには、部族の女衆が独特の音楽に鳴らし、それに合わせ老若男女問わず楽しそうに踊っていた。藤兵衛は来賓席の中央からそれを眺めながら、並々と注がれた白濁酒を一気に飲み干した。

「ささ、どうぞ。オウリュウの人間と言えば、勧められた酒も碌に飲めぬ腑抜けばかりと聞いていましたが、どうやらあなたは違うようですな」

「ほんにほんに。お客人はまだまだ足りなそうですぞ。ほれ、何をしておる。早く酒を追加せよ」

 列を成して一杯を注ぎにくる部族の男たち。藤兵衛は下卑た笑いを浮かべつつ、彼らに手を上げて答えた。

(……くう! 流石に効くわい。セイリュウの酒は荒すぎるわ。いかに蟒蛇の儂とはいえ、この調子では多少なりとも明日に響くのう。じゃが……ダメ元でちいとばかし金をばら撒いた結果が、驚くべきはこの歓待ぶりか。どうやら噂は真と見える。だが何としても早目に切り上げねばならぬわ)

 藤兵衛が酒を胃に注ぎ込みながら、内心で幾重にも思考を練っている所に、突然どしりと横に座る男がいた。周囲とは明らかに気配の異なる、右側頭部を刈り上げて左側のみから燃えるような赤髪を垂らした、全身くまなく鍛え上げられた巨漢。服の間から見える漆黒の肌に刺青を余すことなく入れ、戦傷で一杯の顔を僅かに緩ませて、彼は藤兵衛のグラスになみなみと酒を注ぎ込んできた。気付けば戦士たちの顔色も一変しており、場には渦巻くような緊張感が走っていた。

「どうだ、客人。飲んでるか? 金蛇屋の遣いだそうだな」

(くっ! 音も気配もなく! 相変わらず厄介な男じゃな。さて、ここからが本番かの)

 藤兵衛は、この男の顔をよく知っていた。サンジ族の時期族長、つまりはこの集落の最高責任者の1人である、ホムラという男だった。一見すると穏やかな印象さえ与える整った顔をしているが、いざ面と向かえば誰しもが恐れを抱くこととなった。貫くような鋭い眼光も、黒光りする艶やかな肌から醸し出す暴と強に満ちた雰囲気も、通常の人間のそれからは程遠かった。間違いなく現セイリュウ国最高の戦士、それが東大陸の誰もが認める彼への評価だった。

「いやあ、実に美味い酒ですの。こういう男ぶりのある酒は、軟弱なオウリュウ国では飲めませぬからな。しかもこの歓待ぶり。いやはや、この南海屋藤吉。遣いとはいえとんだ僥倖ですわい」

 不自然を悟られぬよう、訓練された温和な笑顔を作って藤兵衛は答えた。ホムラはそれを聞くと口を僅かに曲げ、ことりと静かにグラスを置くと、腰から小刀をゆっくりと抜き払った。まるで空気が止まったかのように、全ての者の視線が彼に集中する中、目だけに冷徹な色を滲ませてホムラは短く尋ねた。

「で、何が狙いだ? 俺に偽りは通じん。答えによっては即座に始末する」

 冷静な声、殺意を帯びた何処か狂的な表情。ずんと場に緊張が走り、ホムラはそれをただ1人、目の前の藤兵衛だけに集中して向けていた。

(やはり此奴には何も通じぬか。サンジ族の秘技は『魂の色を見る』……げに厄介な男じゃのう。儂からすればそこらの化け物なぞより、此奴の方がよっぽど怖いわい。さて、ここからが真の正念場じゃのう)

 藤兵衛は心中で呟くと、下卑た笑いを絶やさずに酒を一気に飲み干した。背後の天幕の裏に微かな気配がした。もし合図さえあれば、彼は一瞬で肉片に変えられることだろう。藤兵衛はグラスをことりと地面に置くと、垂れた目を細く鋭く光らせ、にやけた表情を一変させた。

「ほう。尾を出したか。いい面構えだな」

 藤兵衛は無言で、蛇の如き異様な迫力を放った。急変する状況に危機を感じ、反射的に矢を射ろうとする戦士たちを、ホムラは鋭く腕を突き上げて止めた。

「不要だ。この程度で俺が遅れを取るとでも? まずは話だ。先に手を出しては負けを認めると同じ。まだまだお前らも未熟だな」

「は! 申し訳ありません! 全てはホムラ様のお心のままに!」

(相変わらずまあ……出来がよいのう。曲者揃いの戦士たちを完全に掌握しておるわ)

 完璧に統制の取れた動きに内心舌を巻きながらも、藤兵衛は余裕の表情を崩さずに、悠然とキセルに火を付けた。深々と吐き出される煙が、天を目指す龍のように空にたなびき立った。

「相変わらずの大器じゃな。お主に搦め手は通用しそうもないの。正直に話そうぞ。先ほど連れがお主らに射られた。助けるために解毒剤が欲しい。儂の目的はそれだけじゃ」

「虚。そんな報告は受けていない。あいつらが俺に伝えぬ事は一つたりとてない。違う部族の仕業だろう」

 平穏な話し方だが、根底には剣呑な響きが込められていた。ホムラの放つ高密度な闘気でぐにゃりと捻じ曲がる空間。近付くだけで心臓が止まりそうになる重圧の中、歴戦の戦士たちですら意識が飛びそうになる中、ただ1人藤兵衛だけは動じない。この男は動じない。

「よせい。無駄な圧力は儂に不要じゃ。件の矢尻に禿鷲の印が為されておった。これは其方らの祖先が、禿鷲の導きでこの地に入ったことに由来しておるのじゃろう? 矢羽にも確かに同じ羽を使っておる。儂が知る限り、これを象徴とする部族はセイリュウ中に其方らしかおらん筈じゃ。ほれ、実際に確かめてみるがよい」

 藤兵衛は胸元を漁り、血のついた矢を取り出した。ホムラは一切の隙を見せずにそれを受け取ると、油断なき目でそれをつぶさに観察した。あらゆる角度から、匂いや色も確かめて、彼はグラスを空にしながら1つの結論を告げた。

「是。これは間違いなく我が部族の矢だ。血と肉の感覚からも、つい先程放たれたのは明白だ。それは認めよう。だが、この毒は違う。マンドラゴラと腐り根ユリの混合物だ。これは即死を目的とした強力な神経毒で、かすり傷1つで巨象とて仕留められよう。我々が警告を行う際には、一時的な麻痺毒を使う。部族の中でも秘伝であり、有事の際にしか使用を許可されん」

「では一体誰が使ったというのか? 其方らの他にこの矢を使う者が、この毒を使える者がこの縄張り内におるというのか? そんな虫のいい話があるとでも?」

 藤兵衛は一切怯むことなく、グラスに酒を注いで一気に飲み干した。ホムラはピクリと眉を動かし、ほんの僅かの沈黙を経て、臓腑から吐き出すように重苦しく口を開いた。

「是。部族の裏切者。奴しか考えられん。凄腕の殺し屋だ。しかし、そうだとするならば、なぜ奴が狙う? お前たちはそもそも何者だ?」

 言い終わるとホムラは無表情でグラスを空にした。再び沈黙が訪れた。藤兵衛は自ら注ぎ入れたグラスを飲み干すと、同じく無表情のまま紫煙を吐き出した

「儂らが何者であるか、そんなことはどうでもよかろう。儂が聞きたいのは一つ。お主らが誠の戦士であるかどうか、ただそれだけじゃて」

「言葉に気を付けろ。ここはセイリュウ国一の戦士の集団、サンジ族の集落だ」

 ホムラが怒気を込めて放つは、今までとは比較にならぬ超高密度の圧力。広場中にこの上ない緊張が走り、幕間の戦士たち殺気も強まっていった。だが藤兵衛は顔色一つ変えずに酒樽ごと一気に飲み干すと、負けぬ程の圧を放ちながら言い切った。

「ふん。そんなことは重々承知じゃ。貴様らの誇りも知っておる。『受けた恩も恥も情けも恨みも10倍にして返せ』じゃろう? 偶然にも儂は同じ信条で生きておる。じゃがな、今の貴様らは……果たしてその通りに生きておるのかの?」

「……返答によってはこれが最後の質問だ。お前の言葉の意味を示せ」

「よいか。この件は貴様らに非がある。儂の連れはお主らの縄張り内で、お主らの部族の矢に傷付けられたのじゃ。例え他の誰がやったとしても、かつてのお主らならば、先ずは素直に頭を下げた筈じゃ。そして相応の償いを行った後、即座に部族の誇りを傷付けた者を仕留めたじゃろう」

「……」

「情け無い話じゃ。あれ程誇り高きお主らは、5年前の戦で壊滅してしもうたのか? 何故その者を放置する? 何故自分たちと無関係と力で証明せぬ? はっきり言ってやろうぞ。今のお主らは舐められておるのじゃ。その者はの、自分がどれほど暴れたところで、貴様らが何も出来ぬと高を括っておるのじゃ。儂が知るサンジ族は、誠に誇り高い男たちじゃった。誇りの為ならば命を喜んで捨てる、本物の男たちの集まりじゃった。故に儂もそこに惚れ、側近として迎え入れたのじゃ。それなのに……この醜態は一体何じゃ! 儂の惚れた東大陸最強の戦士サンジ族は、斯くの如き状況下で自分には非が無いなど、口が裂けても申す筈がないわ!」

 凄まじい勢いで捲し立てられた口上。人の心を撃ち抜く口調、声質、視線、雰囲気。いつの間にか、藤兵衛の圧力に戦士たちは呑まれていた。ただ1人ホムラだけは身じろぎ一つせずに、真正面から藤兵衛を射抜くほどに鋭く見つめていた。

 時間が流れた。永遠にも感じる沈黙の中、ホムラはぷっと急に噴き出した。藤兵衛も含め一同がきょとんとする中、彼の笑い声はどんどん大きくなっていき、やがて巨大な酒樽を軽々と持ち上げると、そのまま一気に喉に流し込んだ。

「わっはっはっはっは! ああ、笑えるよ。流石だ。変わらんな。……金蛇屋藤兵衛」

「な! お主……まさか気付いておったのか!?」

「セイリュウの戦士を、ってか俺を舐めるなよ。俺は一度見た人間の“魂の形”は絶対に忘れん。何やら随分と姿形は変わっているが、お前の穢れきった魂は隠せんさ。それにあんな下品なキセル、この世でお前しか持っていないだろう?」

「喧しいわ! 儂のお気に入りを笑うでない! そもそもあの彫金はお主らに依頼した物じゃろうて!」

「わかったわかった。“世界の富を喰らい尽くす金色の蛇”だろ? 何度も聞いたよ。実はつい最近、エダの奴が戻って来てな。いろいろ話は聞いてたんだ。ほれ、とりあえず飲めよ。お前が本物ならまだ飲める筈だ」

 打って変わって和かな雰囲気を出し、並々と酒を注ぐホムラ。藤兵衛はふんと鼻を鳴らすと、そのままグラスを一気に空にした。

「言いたいことは分かった。一理どころか、此度の件は全面的にこちらに非がある。奴を放置しているのは俺たちの汚点だ。言い訳になるが、秋津との戦が崩壊の始まりだった。国を守るために戦うのは戦士の道理。しかしだ、何も得ない戦いは我ら戦士たちから力を、やがて誇りすらも失わせた。その際に裏切ったのが件の男、クロガネだ。我らの誇りにかけて奴は許さん。そして、お前にも償いをせねばならん」

「そんなものは後で構わぬ。今はとにかく解毒剤を寄越せい! 早急に連れを救わねばならんのじゃ」

「否。残念ながら無駄だ。今からでは間に合うまい。この毒は本当に危険だ。即死していないのが奇跡と言える」

「生憎、今の儂らは普通の人間ではない。……これを見よ」

 藤兵衛は右手の指輪を軽く掲げると、何も無い空間から火球を生み出した。ふわりと漂う火球はすぐ近くの篝火にぶつかると、音を立てて一気に燃え上がった。流石のホムラも目の前の光景を理解出来ず、ぽかんとした顔で見つめるだけだった。

「これで分かったかの(ふう。予め溜めておいてよかったわい)。我らにはやるべきことがあるのじゃ。どうか頼む、解毒剤を分けてくれい!」

 藤兵衛はその場で勢いよく額を地面に擦り付けた。ホムラは暫し黙った後、指を鳴らし部下に合図を出した。すぐにてきぱきと動き出す戦士たち、そして差し出される鈍い色の軟膏。

「ブアイガの毒汁を固めたものだ。これを患部の内側に直接塗り込め。この矢の解毒は不可能だが、何故か別の毒と反応し、効果が弱まる傾向がある。運がよければ助かるかもしれん。だが責任は取れんぞ。時間との勝負だ」

「ふん! なら早く渡せばよかろうが! ……ホムラよ。心より感謝するわい。久々にお主と話せてよかったわ。それでは失礼するぞ」

「待て。一つだけ言っておく。クロガネがなぜ貴様の連れを狙ったかは知らんが、あいつは確実な殺ししかせん。奴はもうこの場を後にしているだろうが、標的が生きてるのを知れば、蛇蝎の如く付きまとうはず。重々気を付けることだ」

「忠告痛み入るが、儂らには頭と性格は壊滅的に悪いが、腕だけはお主にも負けぬ優秀な戦士がおっての。心配はご無用じゃて」

「……そうか。ではさらばだ、金蛇屋藤兵衛よ。また会おう」

「うむ。親父殿にも宜しく伝えておいてくれい。貸した金を返す前に冥土へ行くな、ともの。エダにも宜しく伝えておけい。ではの!」

 藤兵衛はばっと翻ると、後ろを振り向くことなく走り去っていった。その背を穏やかな眼差しで見つめるホムラ。

 男の一生は交差の連続。そして此度の邂逅が何を意味するのか、暗殺者の矢の指し示す意味とは、それを知る術は今の藤兵衛には存在しなかった。秋の夜長の涼しい風だけが、やがて訪れる厳しい風を予感させていた。


 山中。レイの体は漆黒に染まっていた。

 地中から無数に湧き出す骸骨の戦士達。剥き出しの骨を無機質に組み上げ、自在に夜を動き回るスケルトンと呼ばれる眷属は、生前の戦士としての記憶を頼りに的確に攻撃してきた。だがレイは全身に大小様々な傷を負いながらも、流れる風のように次々と骸骨を粉砕していった。しかしいくらレイであっても、闇の肉体と歴戦の技を併せ持つ彼ら50体以上に囲まれては、無傷で切り抜けることは不可能だった。

(こいつがセイリュウの戦士の力かよ。想像以上だぜ。だが……まだいける。問題は俺の背を伝う、ヒリつくような別の感覚だ)

 そんな思考の最中、背後の死角から剣撃。だがレイは感覚で紙一重で避けると、そのままの勢いを込めて強力な拳を見舞った。粉々になりながら吹き飛ぶスケルトン。だが新手が幾らでも幾らでも地中から湧き出し、レイは身体に流れる熱い血潮を感じながら肩で息をした。

(へっ。まだだ。俺はまだやれらあ。お嬢様を守り、旅を続けるんだ。そうでなきゃよ……あの世界最低のクソ商人に笑われちまうぜ!)

 レイの目の前で、3体のスケルトンが示し合わせたかのように、連携して波状攻撃を仕掛けてくるのが見えた。仮に1体ずつ相手にしていては、残りの2体に為すすべもなく切り刻まれるのは明白だった。レイは深々と腰を落として拳を構え、ニッと歯を見せて叫んだ。

「スカスカのバカの考えなんざお見通しだ。食らいやがれ! 『滅閃』!!」

 レイの拳から強力な闘気の塊が、波動のように前方へ勢いよく飛び出した。レイの怒りをそのまま表現したかのような圧倒的速度と破壊の密度は、瞬く間に敵を3体とも粉々にしていった。

「ったく、疲れさせやがるぜ。てめえらも災難だな。マジでキレた俺の前に現れるとはよ!」

 レイは撃ち終わりの反動を利用し、敢えて地面に大きくへたり込んだ。同時に背後から死角を伺う攻撃。空を切った攻撃をちらりと眺め、レイはそこから逆立ちをしながら、回転する蹴りの一撃を敵の群れに叩き込んだ。

 周囲の敵を粗方粉砕したのを確認すると、レイはシャーロットの様子を確認した。先程より明らかに闇の膜が薄くなっている。もう彼女の時間が多く残されてはいないのは明白だっま。

(……クソ商人め! まだ来ねえのかよ!)

 レイの心に僅かに浮かんだ焦りの色。それを読んでいたかのように、前方遥か彼方から眩い閃光が突き刺さった。

「くっ! こりゃ……『術式』!?」

 レイの左腕は根元から吹き飛び、鮮血が雨のように周囲に巻き散った。耐え難い激痛、脳を貫く危機の信号。しかしレイは臆すことはない。初めから想定していたかのように、残った右腕で群がる敵を粉砕しつつ、油断なく周囲を伺うレイ。

(腕を探してる時間はねえ。どこぞのアホがいやがるみてえだな。……このまま押し切るぜ)

「おい、人形。そこで止まれ。シャーロット様のお命の話だ」

「その声は……ジェイク! てめえが来てやがったのか!」

 森の陰から現れたのは、狩人の姿をした痩身の男だった。周囲の植物に擬態したコートを羽織り、フードに隠された目の奥から突き刺すような殺気を放ち、闇力を全身に滾らせていた。彼は警戒し距離を保ちながらも、弓を引くような姿勢を崩そうとしなかった。

「俺が来てるってことは、意味が分かるよな? 面倒極まる話だが、こちらにも事情があってな。シャーロット様に撃ち込んだ毒、あれは俺達の手による者じゃない。もっと邪悪な意思が込められている。俺はその後始末をしに来た。拳を下ろせ」

「はっ! 確かにお嬢様が死んだら、てめえらだってタダじゃすまねえだろうからな。話だけは聞いてやるぜ」

「お前ごときがよくも偉そうに……まあいい。では条件だ。シャーロット様をこちらに寄越し、お前はその場で自害しろ。そうすれば“お嬢様”は助けてやる。こちらには方法がある。今は選択肢は他にない。お前の頭でも分かるだろう?」

「……」

 レイは何も言えなかった。彼の言葉を脳内で反芻し、何度も何度も考えた。確かに言う通りだった。シャーロットを救うには、大人しく引き渡す事が一番の正解に思えた。敵は決して彼女を殺す事が出来ない。根本の利害は一致している。そしてレイは、自分が死ぬ事など屁とも思っていなかった。だが……。

「無駄な時間を使うな。お前のような馬鹿が何を考えても意味などない。あと10秒で決めろ。さもなくば、お前をこの手で始末する」

「……へえ。てめえが? ずいぶんとチョーシこいてやがんな」

 ゆらり、と新たに闘気を全身に纏わせるレイ。理屈ではなかった。そんなものはレイには関係ないし、理解も出来ない。レイが思い浮かんだのは2つの言葉だった。あの2人から放たれた、渾身の言葉。

(貴女は決して“人形”なんかではありません。貴女は誰ですか? 私の目を見てはっきり言いなさい)

(貴様の力が必要じゃ。儂は儂にしか出来ん事を、命を懸けてやり遂げる。貴様も貴様にしか出来ん事を、その身を賭してやり遂げてみせい! これは儂と貴様の『契約』じゃ!)

 声が、レイの神経の中央を熱く焦がす。銀色の髪が輝きを増す。月夜に照らされた片腕の彼女の姿は、思わず息を飲むほど美しく、途方もなく気高く見えた。ジェイクは臨戦態勢を取るレイの姿を確認すると、ふうと呆れ返ったようにため息をつき、術式を周囲に構築した。

「これだから下級眷属との対話などできん。面倒極まる。すぐに微塵に吹き飛ばしてやる。……術式発動『ソル』!!」

「へっ。よくもまあその程度でエラそうによ。あいにくてめえの粗チンじゃ俺は満足できねえよ。さっさとおっ死ね! ……『降魔・フェンリル』!!」

 ジェイクから放たれた閃光が、一直線にレイに向かって突き刺さらんとしたその瞬間、内側から吐き出された巨大な闇がレイの体を包み込み、漆黒がどろりと肉を溶かしたように見えた。そしてその場から現れたのは、1匹の獣だった。全身を銀色の体毛で覆った、巨大な狼の如き四足獣。だがよく見れば、顔形はレイの面影を映し出していた。そう、この術は異形の“生物”を身に宿し、自身の力とするものだった。

「『降魔』だと!? ま、まさかお前如きが……だが高速の閃光術から逃れることは出来ん!」

「くだらねえな。なにより……遅すぎるぜ!」

 レイは目の前に迫る閃光を、目にも留まらぬ速度で回避した。焦るジェイクが次々と放つ光の矢を、地を這う四足で駆け抜け、風を纏い瞬時に距離を詰めていく。もっと早く、もっと力強く。その想いに引き起こされるように筋肉は躍動し、四足に込められた力が更に地を穿った。

「くっ! 何故当たらん!? こんな話は聞いていないぞ! このままでは……ええい、やるしかない! ……術式『イエーロ』!!」

「てめえじゃ俺の相手はつとまらねえ。俺を殺したきゃガンジでも連れてくるんだな。『紫電』!!」

 氷の術式を眼前に展開し、壁を作って防御に徹しようとするジェイク。だが、そんなものでレイを止める事は出来ない。レイは全ての力を速度へと転化し、漆黒の矢へと自らを変え、術壁ごと彼を真正面から撃ち抜いた。鋼の拳はジェイクの首から下を容易に吹き飛ばし、頭部のみが勢いよく吹き飛んでいった。彼は己の避けられぬ運命を悟ると、憎しみで顔を引攣らせながら呪詛の叫びを放った。

「お前が……お前如き人形が……バラム様、申し訳ありません。お預かりした眷属指揮権を無駄に……」

「終いだな。クソ野郎が。最後に言っとくぜ。俺は……人形なんかじゃねえ!」

 断末魔を放つ首に風の如く飛び掛かり、踏み付けた一撃が彼の全てを終わらせた。訪れたのは静寂。とても静かな夜の森。眷属の気配はすっかり消え失せていた。レイは高く跳躍し、隣の樹木に飛び移った。

「なるほどね。そういうカラクリかよ。バラムのクソがからんでやがるとはね。こりゃお嬢様に報告だな。しかし……まあた使っちまったぜ。ちとやりすぎたか。身体が……動かねえ」

 ぐらりとバランスを崩し、木からどすんと落ちるレイ。仰向けになったまま獣のように息を荒げ、レイは疲労感と充足感を全身で味わっていた。徐々に獣の姿は風と共に消え去り、元の美しい女性の姿へと変化していったレイは必死で喘ぎながらも、周囲の様子を油断なく観察し続けていた。

(マジで終わったのか? たしかに眷属の気配はねえ。だが、俺の肌を刺すこの闇力の気配は……!?)

 そう、戦慄の夜は終わらない。疲れ果て漠とした視線の先には、禍々しき血文字の術式。ジェイクの果てた場所に描かれた、強力な悪意の結晶。“それ”は周囲の闇力を吸収し、ボロボロと形を崩し初めていた。

「まじい! 『固定術式』かよ!? しかもこの気配は……」

 止めようと突っ込むレイの目の前で、弾け飛ぶ妖の術。周囲の空気は一瞬で変化し、大地が腐り落ち瘴気が吹き荒れ、再びスケルトンが大量に沸き出していった。その数はざっと見ても100体以上! レイは舌打ちをしてぐっと唸るも、限界の近い全身に再び闘気を込め、不敵に微笑みながら立ち上がった。

「さて、んじゃやるとすっかね。まともに闘えんのは……よくて5分ってとこか。ま、“約束”しちまったからな。あのクソに借りを作るのもシャクだ。指一本でも動くかぎり、いっちょあがいてみるとすっかね」

 レイは独り言を呟き、迷うことなく敵に向かう。スケルトン達は群れを成し、先程とは異なる本能的な殺意を、その場で唯一動く者に向けた。半死半生のレイは、敵の攻撃を最小限の動きで避けつつ、鋭く洗練された拳で敵の群れを粉砕していった。

 だが明らかに先程に比べて動きは鈍い。身体は思うように動かず、敵の刃は容易にレイの体を切り裂いていった。それでも、レイは戦う。その意思は鋼の如く強固で、どんな苦境にも怯みはしない。

「まだだ! 『百鬼』!!」

 闘気と風を高密度に纏い、暴風を思わせる連打を試みるレイ。血飛沫を雨のように振り撒きながら、残った片手で次々と敵を蹂躙していった。

 それから一体どれくらい戦ったのか分からない。とうに闇力は尽きている。それでもレイは戦う。レイは諦めはしない。文字通り死ぬ迄、レイは闘志を捨てる事はない。

 だが現実は無情であった。残る敵はまだ多数。前面に展開する敵の群れを破壊したその隙を突かれ、背後を取られたレイは背中から剣を突き立てられた。臓器を貫かれ口から激しく吐血するも、右手でスケルトンの頭部を握り潰し、闘気を込めて剣を肘で砕いた。だが、そこに更なる一撃。残った右腕を根元から切断され、限界以上の血溜まりを作り膝を付くレイ。

(へっ。まだだ。腕がねえくれえじゃ……まだ終わらねえ! 『草薙』!!)

 残された両足に闘気を宿し、レイは近くのスケルトンを2体まとめて回し蹴りで粉砕した。しかし、それが最後。突進してきた別のスケルトンの一撃で、レイの体は正面から串刺しにされた。

(ま、まだ……俺は……)

 遂に意識が朦朧としてきた。体が、もう終わりだと告げていた。圧倒的に血が足りない。闇力が枯渇している。薄れ行く意識の中に、過去の漠とした記憶が溢れ出す。だが、それを否定するように目をがばりと見開いたレイは、口を大きく開くと、強力な顎の力でスケルトンの首を噛み砕いた。

(終わり、か。どうやら俺はここまでだな。あのクソは間に合わなかった。終わりだ。……ま、しゃあねえな。すべては俺が……)

 脳内を流れる幾つかの記憶。微笑むシャーロット、手を差し出すレイ。戦いの日々、燃える炎、失われる居城。彼女の言葉、全てに意味を成す言葉、始まる探求の日々。

 そして、闇。ぷつりと閉じる記憶、包み込む闇の渦。終わり行く世界、その中央で跪くレイ。彼女の視界には闇だけが、螺旋を描いていた。綺麗な形を成す、一閃の闇の螺旋。

(螺旋? ……こ、こりゃまさか!!)

 そう、夢でも幻でもなかった。確かに目の前を漆黒の螺旋が通過した。これは……あのクソの……鈍い紫色に輝く銃撃!

 唸りを上げる螺旋の弾丸は、空気を切り裂き周囲の敵を次々と粉砕していった。粉々になるスケルトンの背後で響き渡る、下品で下卑たあの笑い声。

「ケヒョーッヒョッヒョッヒョ! 何じゃ虫めが! 貴様、偉そうにぬかしておきながら、情け無い様を晒しおって。やはり貴様は儂がおらねば何もできん便所虫じゃの。グワッハッハッハッハ!」

「へっ! ……てめえが遅えからだよ、このクソ野郎が!」

 響き渡る低いダミ声に呼応し、肺から空気を振り絞るレイ。その表情には、暖かく穏やかな色が微かに含まれていた。次々と狙撃をする藤兵衛に狙いを定めるスケルトン。だが、そんな彼らの動きを読み切っていたかのように、彼は指を鳴らし背後をちらりと向いた。視線を向けるレイの瞳が涙で溢れる中、桁違いの闇力が一点に集約され、敵軍全てに向けて放たれた。

「よくも……私の大切な仲間を傷付けましたね。このシャーロット=ハイドウォーク、決して許しはしません。……上級術式『マグナ・グランデ』!!」

 凄まじい規模の術式によって忽然と誕生した大輪の炎は、まるで意思を持つかのように、レイのみを避けて大地を紅蓮に染めた。一瞬で蒸発するスケルトン、そして穢れた大地もまた同様に浄化されていった。

(あ、あれも術式?! 何じゃこの規模は! 儂の炎など子供の遊びではないか!)

 ぽかんと口を開ける藤兵衛をよそに、シャーロットはボロボロになったレイに駆け寄ると、満面の笑みを浮かべて強く強く抱き締めた、

「……お嬢様。ご無事なのは心底嬉しいですが、ちと……痛えんですが」

「ふふ。我慢なさい。今、私はこうしたくて堪らないのです。少し……目を瞑ってなさい」

「え?! な、なにを……ええええええ!!」

 シャーロットがレイに行ったのは、強くて深く、そして熱い口付けだった。唇と唇を貝のように合わせ、温かい体温と共に行き来する闇力。急速に注ぎ込まれる力はレイの身体を瞬時に再生させ、同時に炎の如き活力を生んだ。

「……ふう。これで十分でしょう。腕もすぐにくっ付きますよ。では私は休みます。残りの掃除は任せましたよ」

「へへ。ありがとうございやした。んじゃ、ちっと暴れてきますわ。お話はその後で」

 そう言うと、堰を切ったように暴れ始めるレイ。殆どの敵は殲滅されていたが、僅かに残る敵を物ともせずに粉砕していった。気付けば腕も元通りになり、心底愉快そうに暴れ回るレイを見て、後方で様子を伺っていた藤兵衛も呆れて銃を下ろした。

「ふん。虫1匹で事足りるではないか。気合いを入れて損したわい。それよりシャーロットよ。貴様は本当に大丈夫なのかの? 解毒剤を注入した瞬間に覚醒しおって。それにあんな原始人と接吻など交わしては、余計に症状が悪化するのではないか?」

「ふふ。私はへっちゃらです。ありがとう、藤兵衛。私の身体を包む『ベール』には、特殊な治癒効果がありますからね。薬用成分も増大させますし、毒さえ無ければあの程度の傷など瞬時に回復します。いったん発動させるとちょっと寒いのが難点ですけど」

「そうじゃ! 貴様いつまで裸でおるのじゃ! 目のやり場に困るわい!」

 一糸纏わぬシャーロットをちらりと見つつ、藤兵衛は気まずさを発散するように大声で叫んだ。だが彼女はぽかんと不思議そうな表情で、微動だにせぬまま彼の目を見つめていた。

「はい? いけませんか? 私はいつも実質的に裸なのでよく分かりません。藤兵衛は服を着た方がお好きなのですか?」

(そ、そういう問題ではないわ! この狂人めが!)

 やがて空が白み始めた。スケルトン達はそれを合図にしたかのように崩壊し、大地に音も無く染み込んでいった。激戦を終えたレイは、シャーロットの方を振り向くと、全力で駆け寄りその足元で跪いた。

「お嬢様……この度は、大変申し訳ございませんでした。俺の不覚のせいでお命の危機まで招いてしまい、申し開きする言葉もありません。さらにはお嬢様に対する暴言の数々、どんな罰でもお受けします」

 地面に擦り付けんばかりに頭を下げて、レイは目を閉じて大声で叫んだ。シャーロットは美しい微笑みを浮かべ、地面に膝をつきレイをゆっくりと抱き締めた。

「いいのです。ここが、この場所が、私たちの旅の再出発ですよ。またここから始めましょう。私の迂闊も原因の1つです。どうか許してください、レイ」

「……もったいないお言葉です。俺は改めて忠誠を誓います。お嬢様の夢のため、この身をあますことなく捧げますぜ」

 美しい光景だった。2人の旅はまたここから始まるのだ。いや……正確には3人目がすぐ側に。

「うむ、うむ。此度の事は水に流して進ぜよう。これからは己の愚を認め、心を入れ替えて励むのじゃぞ。この金蛇屋藤兵衛が見届けてやる故、安心して事に当たれい。ホッホッホッホ」

 悠然とキセルをふかしながら、藤兵衛は高笑いをこれでもかと浮かべ、2人の前で踏ん反り返った。それを見てくすくすと微笑むシャーロットと、露骨に不機嫌な表情を浮かべるレイ。

「なんだてめえ、まだいたのかよ? 用がねえならさっさと準備しろ。そろそろ出んぞ」

「き、貴様! この危機を乗り越えられたのは誰のお陰だと思うておるか! 調子に乗るのも大概にいたせ!」

「おミソのてめえには関係ねえよ。そもそもてめえ、ほんとになんかやったのか?」

「こ、この下等生物めが! 儂が解毒剤を調達し、瀕死のシャーロットを復活させたのじゃぞ! 儂がいなければ貴様は今頃肉片じゃて! まったく……弱い癖に口は減らぬ虫じゃな!」

「んだと! 口の聞き方に気をつけろ! ……てかてめえよ、どうやって解毒剤をお嬢様に?」

「それは決まっておろう。儂が丹念に傷口に塗り込んでじゃな……」

「てめえ! お嬢様の肌に触れたのか! 守銭奴に加えてエロ野郎たあ、ほんと最低最悪のクソだな! 覚悟しやがれ!」

「そ、そりゃ仕方のないことじゃろうが……グェパアアアアアア!!!」

 いつもの風景、いつもの旅。3人の旅はまだまだ続く。行く手に広がる闇も雲も吹き飛ばし、彼らは最初の目的地点のバイメンを目指す。風が、3人の進む方向になだらかに吹き続いていた。

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