第12話 レベルアップ加速

 昨日の戦いが嘘のようにいつもどおり登校した。

 教室の席につくと昨日までと違い周囲の視線が気になる。


「ヒサシ君、よかったわね」


 隣の席に座るミキが話かけてきた。


「天野ヒサシ君。一応、前に出て来て挨拶しなさい」


 3年A組の担任がメガネをクイっとあげながら言った。

 黒いスーツに整えられた髪型、いかにもエリートと言った銀行員のような見た目。

 今までのヨレヨレスーツの担任とは大違いだ。

 

「えーっと、一応、はじめまして。天野ヒサシです。特別に1人だけクラス替えで今日からA組に入る事になりました」


 レベル35と正式に認められ最下位クラスから異例の移動となった。

 昨日の作戦の功労者を最下位クラスにおいておくのは世間体が悪いのだろう。


「では、戻りなさい」


 席につくと前に座っている猿田が振り返った。


「何かわからないことがあればオレに聞きな」


 それだけ言うとすぐに前を向いてしまった。

 猿田の奴、少しテレているのか?

 こいつ意外にいい奴なのかもな。


「では、今日はGCR測定の原理について数学的アプローチによる検知パラドックスについて解説する」


 メガネスーツの先生が淡々と説明をはじめた。

 今まで自習だった俺には新鮮だが、ちょっと難しくてついていけそうにない……。



---



 久しぶりに授業らしい授業を受け疲れた。

 しかし、日課のスライム退治はかかせない。

 一般的に聞いている最高到達レベルは40。

 もしかするとそれ以上の実力者もいるかもしれないがミコトでさえ40からレベルが上がらず停滞している。

 俺のレベル200は十分な気もする。

 しかし、ベルゼバブの存在が不安をかきたてる。

 そして、この街のどこからも見える巨大なタワー。


 『バベルの塔』


 周囲100メートル以内は完全に封鎖されている。

 噂ではレベル40でさえ塔の中に入ることさえ出来なかったと言われているのだ。

 元々は60階建てのビルだったのだが異世界パンデミック第二波(セカンドウェーブ)後に108階相当の塔にかわったらしい。


「もっとレベルをあげる方法は無いものだろうか?」


 スライムを効率よく倒す方法を見つけてレベルアップの速度はあがったが、それでもすぐにレベルアップ速度は鈍化しそうだ。

 『バベルの塔』に入ってみるというのも手だが、慎重には慎重を期したい。

 

 公園のスライムを倒し『びっくりダンジョン』のスライムを討伐しながら知恵をめぐらせる。

 もはやスライム討伐は息を吸うのとかわらないほどになっていた。

 

 リストリクトでレベル1のままなのに敵の攻撃パターンを読めるようになっている事や剣の使い方が熟練し、ほんの小さな労力でスライムを倒せるようになっているのだ。

 

「もしかして?」


 ふと、頭をあるアイディアがよぎった。

 スライムを次々と蹴散らしながらしばらく考えた。

 今までやったことは無いが最初の1回だけはハイリスク、しかし、出来てしまえば一気にレベルを上げられる可能性がある。


「やってみるか」


 ダンジョン2層に降りて来るとあたりはゴブリンであふれていた。


「リリース! レベル2(ツー)!」


 ゴブリンが棍棒をふりあげおそってくる。

 ヒラリとかわし後頭部あたりに剣をふりおろす。

 

「ぐぎゃあああ!」


 ゴブリンは真っ赤な鮮血を噴水のように吹き出し倒れた。

 飛び降り自殺をした人間のような光景は何度見ても気分がいいものではない。 

 しかし、数秒と立たずに飛び散った血と共に青い光となり消え去った。

 

「よし! ゴブリンも問題なく倒せる。もう少しこのまま戦って対ゴブリン戦に慣れよう」


 1体、2体、3体……。

 同時に2体、同時に3体……。

 ゴブリンを倒しまくる。


 ゴブリンはスライムと違って所持する武器が個体ごとに違っていたり体つきも違う。

 人間のように個性があるのだ。

 たまにやたらと強い個体もある。


「ゴブリン討伐のコツ、だいたいわかってきたぞ。いよいよやってみよう」


 俺は深呼吸して集中した。

 次は初めての試みだ。


「リリース! レベル1(ワン)!」


 俺のレベルは1に制限された。

 ゴブリンが一体向かってくるのが見えた。


「よし! こい!」


 ゴブリンのふりかぶってきた棍棒を剣で受ける。


「くっ!」


 スピードも速く、一撃が重い。

 試しに受けてみたが、ゴブリンの攻撃は受けるべきじゃないな。

 仮に一撃くらったら即死するレベルだろう。


「やはり、レベル1でレベル2の魔物と戦うのは無理があるな」


 ゴブリンの攻撃をかわし喉元に剣をつきさす。

 だが、剣はゴブリンの硬い皮膚にはじかれて決まりきらなかった。


「ゴブリンって、こんなに強いんだな。いや、俺が弱くなってるだけだが」


 10分ほど攻防を繰り返しただろうか?

 ゴブリンの喉元に俺の剣がつきささり絶命させることができた。



---



 レベル1でレベル2のゴブリンを倒すのは無茶があったが、数時間も戦うとだんだんと慣れてきてスライム相手では無いにしろ1体3分ほどで倒せるまで慣れてきた。


 頭の中で電子音が響いた。


「レベル201になりました」


 ステータスを意識すると視界の左上に一覧が表示された。



――――――――――――――――――――



 天野(あまの) ヒサシ 17歳 男 レベル:201


 HP:40085/40085 MP:36087/36087


 攻撃力:180


 耐久力:210


 速 度:220


 知 性:180


 精神力:139


 幸 運:150


 スキル:リストリクト 任意のレベルに制限するスキル

      リリース   リストリクトの効果を消して本来の力を発揮する


――――――――――――――――――――



「よし! 思ったとおりだ」


 レベル200からレベル201になるためにはスライムなら201体、次のレベル201の数字と同じだけの数を倒す必要がある。


 しかし、レベル1の状態でレベル2のゴブリンを倒すと100体でレベルがあがるのだ。

 今までの倍の速度でレベルアップができる。

 来週から夏休みもはじまる。

 パンデミックが起きない限りは一日中時間がある。

 夏休みはレベルアップに全てを費やすのだ。

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