第8話 異世界アウトブレイク

 学校へ向かいミコトの少し後ろを歩いてついてゆく。

 ミコトはこのあたりでは有名人で赤い髪と洋服が目立って仕方ない。

 街中はダンジョンとは違って、ごくあたりまえの日常の景色がひろがっている。


「ちょっと来なさい」

「え?」


 ミコトは道路沿いで入口を広げて営業しているパン屋によった。

 

「アンタは何にするの?」

「え? え?」


 ミコトはトレイに塩パンをのせている。


「あ、じゃあ、カレーパンを」


 ミコトは会計まですぐにすませた。


「はい、おごりよ」

「あ、ありがとう」


 ミコトはあるきながら塩パンを取り出して食べだした。

 お嬢様なのに意外な面もあるものだ。

 普段、買い食いなんてしないが俺も歩きながらカレーパンをほおばった。

 う、うめえ。

 今までオシャレっぽいパン屋だから怖くて近づいたこともなかったが、普通にうまい。


「アンタ、はじめてダンジョンに入ったって言ってたけど授業でならわなかったの?」

「いやぁ、最下位クラスで先生もやる気がなくて自習ばかりで……」

「ったく、日本の学校の平均至上主義は変わらないわね」

「え? ミコトさんは特別クラスだし優遇されてるんじゃ?」

「アタシのレベルは40。アタシに教えられる教師が居ないから自習ばかり、だから1人でダンジョンにもぐってるのよ」


 底辺クラスの俺とは真逆の最上位クラスなのに待遇は同じなんて。


「ところでヒサシ」

「はい」

「アタシの事はミコトでいいわよ。それに敬語じゃなくてもいいわ」

「は、はい。わかったよ。ミ、ミコト」


 ちょっとぎこちなくなってしまった。

 女の子を呼び捨てにしてタメ口なんて幼馴染のミキぐらいしか居なかったし緊張してしまう。


「ほら、学校ついたわよ。それじゃあ、アタシは自分のクラスにもどるから」


 学校の入り口まで来ると、たくさんの生徒が俺たちを遠巻きに見ているのがわかった。


「なんでミコト様とあのヒサシが2人でいるの?」

「ヒサシの奴、ミコトって呼び捨てにしてたわよ」

「おいおい、あの2人に何が起きたんだ?」


 周囲でみな口々に噂話をしている。


「ヒサシ! どこ行ってたの? 心配したわよ」


 いつも落ち着いているミキが興奮気味だ。


「ごめん。ミキ、ちょっとダンジョンに行ったら長引いちゃって」

「それにミコトさんとなんで一緒に帰ってきたの?」


 いつもやさしいミキの目が怖い。


「いや、うん。ダンジョンの中で助けてもらって、それで」


 実際は助けたのは俺だが、1層から40層までトンネリングしてしまった所をミコトに助けてもらった事になっている。

 俺は一部始終を説明した。


 ミキの目に涙がたまっていた。

 本当に心配してくれているようだ。

 悪い事してしまった。

「ごめん」と謝ったが、俺のことをずっと心配しているようだった。


「きゃあ!」

「な、なんだ!?」


 突然、けたたましいサイレンの音が響いた。

 学校中で鳴り響いている。

 小学生の頃、誰かがイタズラで火災報知器ならしてしまった事があるが、その時の音よりも高く大きい。


「サーベイランス招集! アラート発令! アウトブレイク! アウトブレイク!」


 アナウンスが繰り返し流れている。

 頭の中に直接響いてくる。

 視界の左上に映像がうつしだされる。


「ワガハイは建御雷神(たけみかづちのかみ)である! 異世界アウトブレイク発生! 区立南池袋高校第三学年生は、校庭へ集まれ!」


 ヒゲモジャの軍服姿は相変わらず迫力がある。


「アウトブレイクって、何が起きたんだ?」


 俺がそういうとミキが真剣な表情をして答えた。


「異世界からの転移発生じゃないかしら。教科書によると私達高校3年生も救助や周辺警戒の任務があるわ」

「それって、昔聞いた事はあるけど、実際に起きるなんて」

「ええ……。15年前の異世界パンデミック第二波(セカンドウェーブ)以来じゃないかしら」



---



 校庭に集合すると3年が全員整列していた。

 校庭の上空に巨大なスクリーンが映し出される。

 建御雷神(たけみかづちのかみ)将軍が全員へ号令をかける。


「異世界の発生は完全に我々のコントロール下にあった。だが、17年ぶりにアウトブレイクが発生した。発生場所と任務は各々の視覚モニターへ発令する。健闘を祈る!」


 視界の左上にマップが表示され位置が示されている。

 

「周辺住民の誘導」


 と赤い文字で指示が来ている。


「ミキ、司令は?」

「私は、同じクラスのメンバー4人とサーベイランスチームを組んでアウトブレイク発生ポイントの警護」

「そうか、俺は周辺住民の誘導だ。アウトブレイク発生ポイントから500メートルほど離れている」


 ミキはAクラス。俺は∪クラスなので任務の危険度が違っている。

 行動開始のアラートが鳴り響いた。

 俺たちはアウトブレイク発生ポイントへ急いだ。



---



 俺の司令されたポイントは、いつもスライム討伐をしている公園だった。

 アウトブレイク発生ポイントは公園の先の墓地だ。

 先日、この公園で突如レッドドラゴンが現れた。

 何かこのあたりで異変が起きているのかもしれない。 


 俺は公園に居た人々を墓地とは反対側へ避難誘導した。

 自宅が発生ポイント近くの危険区域にある人々は近くのシェルターへと避難してもらった。

 公園には馴染みのある人々ばかりだったので、みなすぐに話しを聞いて避難してくれた。

 おかげで10分足らずで全て終わった。

 任務完了と視界に表示された。待機命令とある。


「この場で待機とは命令されていない。発生ポイントへ行ってみよう」


 先日のレッドドラゴンの出現といい一抹の不安が俺をアウトブレイク発生ポイントへと駆り立てた。



---



 発生ポイント周囲ではミキの居るチームやミコトの居るチームが連携して戦っていた。

 猿田の奴も黄金の鎧をまとい防衛している。



――――――――――――――――――――


【食人バエ】


 ・討伐推奨レベル:10


 ・スキル:高速飛行


――――――――――――――――――――



 カラスほどの大きさの黒い食人バエが大量に発生している。

 ミコトが次々と炎でやきつくし、取り逃がした食人バエを猿田が防衛し仲間を守っている。

 ミキはチームの中でコントロール役として機能している。

 全員レベルは20以上ある。

 これなら安心だろう。


 食人バエが次々と出てきている場所を見ると大きな穴があいていた。

 周囲は武装した自衛軍に囲まれている。

 空中には軍用ヘリがホバリングしている。

 おそらく、あの穴の中に食人バエの発生原因があるんだろう。

 将軍達はあの中に突入したんだろうか?


 次の瞬間。

 穴から大量の食人バエが飛び出してきた。

 空を黒く染める。

 軍用ヘリからミサイルが発射され食人バエをけちらしてゆく。

 武装した自衛軍も火炎放射器で応戦。

 

 轟音と共に巨大な食人バエが飛び出してきた。

 軍用ヘリほどの大きさだ。


――――――――――――――――――――


【クイーンフライ】


 ・討伐推奨レベル:35


 ・スキル:食人バエ召喚。


――――――――――――――――――――



「とらあああああああ!」


 建御雷神(たけみかづちのかみ)がクイーンフライを追いかけてゆく。

 相当なスピードで攻防を繰り返す。

 軍用ヘリでも追いつかないスピードだ。

 

 手負いとなったクイーンフライは逃亡しようと離れてゆく。

 しかし、建御雷神(たけみかづちのかみ)が追撃を加えていく。


 遠くへと離れていった。

 大量の食人バエと自衛軍もクイーンフライを追いかけ消えた。


「あのぶんだと墓場の先の広場で決着がつきそうだ。俺の出番はなさそうだな」


 辺りは静まりかえった。

 

「いや! まずい!」


 黒い穴から不気味な気配がただよっている。

 クイーンフライが出現した。

 それも5体。


「まずい、将軍や自衛軍はミキ達の反対側へ行ってしまった。あの5体が同時にせめてきたら、おそらくミコトでさえやられるかもしれない」

「リリース!」


 俺は剣を取り出しクイーンフライへとつっこんだ。

 一撃、二撃、三撃、四撃、五撃。

 全体真っ二つとなり青い光となり消えた。


「ふう。この程度の相手なら余裕だな」


 そう安堵した所。

 黒い穴の奥から落ち着き払った声が聞こえた。

 いや、頭の中に響いてきた。


「ほう。これほどまでの強者(きょうしゃ)がいるとは」


 黒い穴の中だ!

 敵のステータスが表示されない。

 もしかして、今の俺のレベル101よりも上?

 敵のステータスは自分のレベルより高いと表示されない。


 黒い穴から闇が漏れ出すように周囲が黒くそまってゆく


「先に出ていったクイーンフライも全て倒されたようですね」


 全身黒づくめの男?

 いや、女?

 どちらとも言えない美しい容姿。

 

「まあ、いいでしょう。今日のところはこれぐらいで引きましょう」


 いつの間にか冷たい瞳でこちらを見つめている。


「お前は何者だ!」


 恐怖を払いのけるように俺は叫んだ。


「わたくしの名前は蝿の王(ベルゼブブ)。フフッ。かわいいわね。また、そのうち会いましょう」


 周囲から闇が消え、夕日がさしていた。

 しばらく呆然と立ち尽くしてしまった。

 どれほど時間がたったんだろう。


「助かったのか……」


 今の俺のレベルでさえ敵わない者が存在するかもしれない。

 

「もっとレベルアップが必要だ」

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