俺だけがVRMMO~プレーヤーとNPC2足の草鞋でお気楽スローライフ~

まーくん

第1章 はじまり

第1話 始まりは突然に

「貴方は死にました」


ふわぁ?


「死んだ?」


「ええ、死んだのです」


「えーっと、でも生きてる?生きてるけど?」


「でも、死んだのです。死んだのに生きてる。

禅問答じゃないですよ」


「うーーん、分かりません。

あんた誰だ?」


駅前にあるコンビニの前、確かに剣で斬られたのは間違って無いんだよな。


でも、俺は確かに生きてる。


周りにいる野次馬の声も聞こえるし、斬られた感触も残ってるんだけど、痛くも痒くも無い。


花粉症で鼻はムズムズするけど、それは斬られたのとは関係ないよね。


だけどそのムズムズが、俺は生きてるって証明してるんだよ。


「それで、俺が死んだって、どういうことなの?」


「そのままですよ。貴方は死んだのです。でも生き返った。

死の直後、自分が死んだとさえ気付かないスピードでね」


「意味分からないし…」


「わたしの役目はこれで終わりです。では失礼」


軽く会釈をして、そいつは消えてしまった。


そこに残ったのは、一部始終を見ていた小学生のガキ共数人と、いつの間にか集まった野次馬達、そしてコンビニのバイト君。







「それで、刀であなたを斬った男性は、どこに逃亡したのですか?」


「だから、一瞬で消えたんですって!アイツが誰かなんて知らないですよ」


警察官に事情聴取を受けている。


バイト君が連絡したみたいだ。


駅前だけあって、すぐに駆けつけて来たよ。


買ったばかりのコンビニの袋を抱えて、呆然と立ち尽くす俺は、全くの無傷。


でも、ガキ共は興奮して「斬られた!斬られた!」って叫んでるし、コンビニの店長も出て来て、録画してある防犯映像を一緒に見たら、確かに俺は斬られてた。


傷は無いけど。


何の外傷も無いんだけど、これだけ状況証拠が残ってたら、警察も捜査しなきゃならないんだろうな。


そして今俺が居るのは県警本部の取調室。


最初は交番で話してたんだけど、奇々怪々な顛末にお巡りさんも困って、警察本部に移動してきた。


たまたま交番から近かった警察署がここだったつう話なんだけど。


それで会議室に案内されたんだけど、なんだか取り込み中みたいで騒がしかったから、この取調室に移動させられたんだ。


俺は無傷だし、犯人もいないから、「家に帰りたい」って言ったんだよ。


でもさ、外は結構大騒ぎになってて、マスコミとかも集まってるみたいだ。


今は家に帰らない方が良いだろうって判断された。





カツ丼を食ってる。


いやね、取調室と言えばカツ丼でしょう。


正確には刑事さんが取ってくれた出前じゃなくて、事件前に俺がコンビニで買っていたコンビニカツ丼なんだけどね。


婦警さんがレンジで温め直してくれたやつ。


最近上げ底になったよね。


ちょっともの足りない。




「あのぉ、そろそろ家に帰りたいんですけど」


「いやいや、それは困るよ。まだ新聞記者も居るし、テレビ局も来てるし。

それに犯人も見つかっていないじゃないか。


もし、ここからは出て犯人に狙われたらどうするのさ。警察の失態になるじゃないか」


たぶん偉いさんなんだと思うおじさんが、汗を拭き拭き、説明してくれる。

いや言い訳かな。


とにかく、マスコミが居なくなって、犯人が現れないことが保証されないと、ここから帰ることは出来ないみたいだ。


「森下さん…でしたっけ、あのぉ、俺を斬った犯人って『わたしの役目はこれで終わりです』って言ってますよね。


それで消えたんだから、もう襲われることは無いんじゃないですかねぇ」


「…………うーーん、それも一利あるけどねぇ、でも、マスコミがいるから、まだ駄目だよ」


「ほら、裏口から出るとか、何かマスコミを逃れる方法もあるんじゃ…」


「でも、たぶん君の家もマスコミでいっぱいだよ。そこに帰る?」


「………留置所以外でお願いします……」


案内されたのは宿直室。テレビドラマなんかでよくある徹夜で捜査する刑事達が仮眠するような汚いベッドの部屋じゃないよ。


どうやら、家出少年や何らかの理由で保護した人達を泊めるところみたい。


さすがに風呂は無かったけど、シャワーは付いていた。


「ふうーーー、とにかく疲れたな」


なにがなんだか分からないまま、婦警さんが用意してくれた布団に横になると、そのまますぐに眠ってしまった。




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