第20話 討伐①

 聖龍と一緒に作った魔法ステッキのおかげで今までできなかった魔法が効率的にできる様になった。


 ミュゼァの力で作った空間の中では壊れたものが再生する魔法が展開されていて、今日は外の演習場を使わせてもらった。距離が離れている相手にも聖魔法が使えるかの訓練らしい。周囲を塀で囲まれていて、プール二個分くらいの広さの場所だろうか。十個ほどの人型の的が並んでおり、私はそれに向かって魔法を繰り出す練習をしていた。


 キラキラと輝く魔法ステッキは私が作り出した聖遺物せいいぶつということで、普段は見当たらないのだが右手に魔力を集中させると現れる仕組みになっていた。三日月型みかづきがたの杖の先端を人型のまとに向ける。距離はとりあえずと言うことで10メートルくらいの距離。


「聖女によって力の使い方は様々だ。美麗様の場合は力を杖の先端に集中させてそれをあのまとめがけてぶつけるイメージで」


 そう言って隣に立つミュゼァが見本として手に小さな炎の塊を出したかと思うと、ヒョイっと的に目掛けて投げる。

 人間の形をしている的の頭部分が吹っ飛ぶが、一分も経たないうちにそれは修復される。


「こんな感じで当てていく。邪気が動物に宿り暴れることもあるから、魔力を外に飛ばすことも覚える必要があるんだ。大人数相手にするときは面倒だからと、地面に手をついて波を起こすイメージで魔力を広げて攻撃する聖女もいるから人それぞれ、つかみやすいイメージを大切にしてほしい」


「はい」


 最初の訓練の時に教えてもらった体の中の魔力のめぐりを思い出す。私にある力をちゃんと使わないと召喚された意味がなくなってしまう。何より世界の危機だと言っていた。国ごとに聖獣と聖女がいるのは、国ごとに守れという神からの試練と聞いている。人は堕落だらくする生き物だから、自分たちでなんとかすることを覚えさせたかったらしい。


 それなら、異世界から召喚するのも無しにして欲しかった。今後神様に会う機会があったら絶対に文句を言ってやると心に決めている。


「____っ」


 杖に集中する。魔法ステッキを作った時の感覚を思い出す。あの時は聖龍がアシストしてくれたけど、今は自分で頑張らないといけない。


 もしララが、ミュゼァ様がオリビア様が襲われていたら……。

 絶対に嫌だ。訳のわからなくて混乱している私に優しくしてくれている皆んなのためにできることをしたい。


「いっけぇぇぇぇ」


 私は体の中を巡る力を杖のに向けると、先ほど手のひらに炎のかたまりを出したミュゼァのものよりも大きな炎、サッカーボールくらいの大きさの物が現れ一直線に人型の的に向かって飛んでいく。ちょうど人間の腹部あたりに当たり、的は真っ二つに割れる。


「できた」


 後ろに立っていたミュゼァに振り返ると、目が点になっている。


「的が治らないんだが、というかそうか。美麗様には聖魔法以外でほのおの魔法の適性が強かったのか」


 何かぶつぶつ言いながら的に近づいていくミュゼァ。私も一緒に近づくと、割れた的は復活する様子が見られない。


「ミュゼァ様、これは一体」


 魔法を発動する直前でミュゼァの火の魔法を見たからか聖魔法を使おうと思ったのに違うものが発動した。


 でもなんとなく分かった。私の力、こちらの世界では音の響きなんてないだろうけど「炎谷ぬくたに」の意味は炎の谷。


 私の得意魔法は炎を扱うものなのかもしれない。

 直らない的の破片はへんを拾いながらミュゼァはあごに手を当てる。


「この的を作った者の魔法を断絶させているな。美麗様の潜在能力はやはり高かった。召喚されてすぐに結界のことを見破ったりと。俺が知っている限りの術は全部教えます」


 いつもの穏やかな雰囲気とは一変、ミュゼァの雰囲気が鋭く感じる。


「魔法の断絶だんぜつってなんですか」


「俺が的を壊した時は元に戻ったが、今回は戻らない。かけられていた修復魔法を破壊しているんだ」


「わわわ、じゃぁこの的は戻らないってことですか」


 私は慌てて壊れた的に近づく。動く様子など一切なくただの破片となっていた。


「いや、俺が直す。じゃなくて、断絶する魔法は煉獄の炎。さばきの炎と言われている。聖女の持つ魔力が人を救うものだとしたらその反対ってイメージ」


「それっていいことなんですか」


 言っている意味が分からない。聖女としてあるべき姿なら多分この力じゃダメなんだと思うけど、ミュゼァは興奮している気がする。


「魔物によっては何度も復活する物がいるんだ。だがこの魔力があればそれを防げる」


 今、魔物の力について聞きたくないことがさらっと言われた様な気がする。邪気に吸い寄せられるように集まる習性を持っていると言っていた。


「では美麗様、今度はこの壊れた的を直せるか挑戦してみてください」


「いきなりできません」


 私はブンブン音がなりそうなほど首を横に振る。やっと魔法が使えるようになって、試した結果は器物破損きぶつはそん。直せる自信なんてない。


「大丈夫です。聖女の癒しの力って人の怪我を治すだけじゃなくて物にも効くんです。母さんがよくやっていました。攻撃力には劣りますが、それ以外の力であれば有力です」


 さぁ、と立ち上がると三メートルほど離れた場所に立つミュゼァに、私は大きなため息をつく。こうなるとミュゼァは私がやるまで多分今日の訓練は終わらない。

 私は壊れた的の周辺に縁を書く。自分の力をこれ以上周囲に広げないイメージを作りたかったのだ。地面に手を置き先ほど杖に集中させた力とは別の力をイメージする。


 元の姿に戻るように、優しく穏やかな気持ちになると金の光が私の描いた縁の中に広がり一瞬のうちに的が元の形に戻る。


「できた……」


 今まで全然魔法が使えていなかったのに、魔法ステッキすごい。


「まさかここまでとは」


 座り込んでいる私の横にミュゼァは同じく座り込んだ。


「力の使い方に悩んでいたから手助けをしたかったんだが、まさかここまですぐに使いこなせるようになるとは思わなかった。聖獣と心を通わせれば力の使い方の糸口になると思ったんだが正解だったみたいだ」


 ミュゼァの表情が優しくて私の胸も温かくなる。


 体の中に力が溢れる。滞ることなく流れる力。


「みゅ、ミュゼァ様急ぎの連絡がございます‼︎」


 城の中で何度か見たことのある、見習い騎士姿の男の子がミュゼァ目掛けて走ってきた。


「今は聖女様の訓練中なんだが」


 明らかに不機嫌そうにミュゼァが立ち上がる。


「申し訳ありません、至急の伝達にまいりました。王都より北に五十キロメートルのところに魔物の大群が現れました‼︎オズワルド殿下がお二人に閲覧の間に来て欲しいですとのことです」





 見習い騎士が立ち去った後、私とミュゼァはそのまま閲覧の間に走る。

 そこにはオズワルドとミーク、見たことのない男性が二名ほどいる。部屋の中央には大人十人ほどで囲めるテーブルが置いてあり、机の上には地図が見えた。


「お待たせしました」


 挨拶をしながらはいるミュゼァの後ろにくっついていく形で部屋にはいる。オズワルドに向かい合うようにミュゼァは机の前に立つ。


「聖女様とは初めましてだな、俺はラウル・ウィザード。この国の騎士団長をしている」


ラウルと名乗った男性は顎に髭を蓄え、腰に剣を携えている。髪色が茶色で、私に向ける視線が少し鋭い感じがした。


「美麗様、お久しぶりです。こいつはワシの孫でもあるラヴァです。今回わたしは城から離れられませんので、代わりに同行することになります」


 もう1人の人はミークと同じ服装で、年齢は私と同じくらいろうか。ミュゼァと私に会釈をする。

 簡単な挨拶に対してオズワルドは申し訳なさそうに私にお辞儀をした。


「今回は挨拶はそこそこで、急ぎで話し合う必要があるんだ」

 オズワルドから見て右側にミークとラヴァが立ち、左側にはラウルが立つ。私は地図が見える位置ではあるが、ミュゼァの左後ろ側の位置をとった。


「これまでの歴史を見ても魔物がやってくることは少なかった。まだ邪気を払えて無いからかもしれない」


 オズワルドが私の方をチラリとみる。

 力が使えるようになったのは数日前。召喚された時すでに邪悪な気配がしたのに。ミークは地図を指差しながらオズワルドに意見をしている。先程走ってきた見習い騎士はどこに魔物がいると言っていた?


「先代の聖女の遺言は世界の危機とあった。美麗様だけが悪いわけじゃ無いてわしょう。具体的な事は誰も知らない。美麗様は先日聖龍様に認められたのです。邪気を払いにいけていないのを非難するのは間違ってるかと」


「すまない。言葉に語弊があった。彼女を非難したつもりは無かったんだ、ただ時間がもうないんだ。力を使えるようになったと聞いている。今から討伐に向かってくれ」


 オズワルドはミュゼァに隠れるように立っていた私に視線を向ける。

 その瞳には“お前には覚悟ができているか”と問いかけられている気がしてしまった。


 今までいた世界と違うから仕方が無いのかもしれない。魔力の使い方を覚えたのだって最近だったのに。それなのに私が先陣を切って戦いに行かないといけない。

 ラウルはミュゼァと私を見比べる。試されているような、そんな表情。


「時間がありません。聖女様の力を信じていないわけでは無いです。誰もが初めてを経験しますから。不安を煽るような真似をする殿下辞めてください。ミュゼァ様が睨んでいますよ」


「すまん、俺は前線に行くことができないからな。ミュゼァ、聖女を頼んだ。今回はラヴァもいる。お前だけが背負う事もない」


 ラヴァがチラッと私に視線を向ける。目元がラウルにも似ている気がする。

 ミュゼァが後ろに立つ私に視線を向けた。


「十分な訓練の時間も取れなくて申し訳ない。何かあったら命に変えても俺がお前を守るから」


「いや、ミュゼァ様に教えていただいたことを全力で出し切ります」


 ミークがうんうん頷く。魔法ステッキもあるし、さっき魔法を出すことができたからきっと大丈夫。

 ラヴァが申し訳なさそうに手を挙げる。


「まだ聖女の正装が出来上がっていません。力が最大限に引き出せないかもしれません」


 私は思わずラヴァを見つめてしまう。あんな恥ずかしい物を着て行く方が私はメンタルが落ちてしまうのよ。

 オズワルドがしまったと言う顔をする。

 ミークやラウルもまた私を見た。


「私はあの服装を着ていかなくても頑張れます」


 国を守る事に対して頑張るとまとめてしまうのは駄目な気がしてしまうけど。

 私は手に力を込めて魔法ステッキを取り出す。


「正装は無くても私にはこのステッキが有ります」


 ミュゼァ以外の人から驚きの声が上がった。この世界で魔法を使う時に杖などは特別使わないらしい。

 ミュゼァが私の肩に手を置いた。


「美麗様は大丈夫です。必ず魔物を撃退してきます」


 オズワルドが右手を前に突き出す。


「魔物から街を守ってくれ」


「「「「「御意」」」」」

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