第16話 突然の訪問者 前編

 聖龍に認められたことは直ぐに情報として広められた。聖女の魔力も魔法ステッキを作ったから少しだけでも使えるようになってきた。


 国ごとに浄化をする慣わしになっている。そのために各国を守る聖獣が存在している。聖龍に任せているだけでなく、異世界に呼ばれた理由をちゃんと守らないと。

 出ないと私がこの国に居ていい理由がなくなってしまう。


「流石美麗みれい様です」


 聖龍の元から帰った翌朝、いつも以上に上機嫌なララが私の髪を拭いている。

 こちらの世界に来てすぐの時は身の回りの世話をしてもらう事に違和感しか感じて無かった。1人ぼっちの世界に不安しか無かった私に対して暖かく迎え入れてくれたララがいたから、私は今寂しさをあまり感じないでいられた。


「ララ、聖龍は私が未熟だから支えるために、認めてくれただけなんです」


 鏡に写る自分の顔は自信無さげに笑っている。勘違いをしちゃいけなくて、私は力が無くて仕方なく主人にしてもらえただけ。


「いいえ。美麗様の魅力が伝わったからですわ」


 鼻歌でも歌いそうな勢いのララ。


 コンコンと部屋の窓に水色の鳥が顔を出と、慌ててララは窓を開けに行く。ミュゼアが情報伝達の時に使う魔法の一つだと教えてもらっている。


 動物の姿などは人によって変わる事があるらしい。


 開けた窓から入ってきた青い鳥はドレッサーの前に座る私の前に降り立った。


「美麗様、昨日の事で疲れているところ悪いんだが、面談の希望が来ているんだ」


 鳥からミュゼアの声がするのがとても不思議だった。前回のオリビアは当日朝にいきなりお茶会の話を持ってきたのに、今回は事前のお知らせがある。


「一体誰から来ているんですか?前回は突然押しかけられたんですけど?」


 一応文句を言っておく。私が何も言い返さないと思われても困ると思ってしまった。

 表情を変えるはずはないのに、鳥が申し訳なさそうにしている気がする。


「オリビア様の時は止める間もなくて申し訳なかった。今回は他国から正式に面談の申し入れがあったんだ。南を守護する国の聖女様が、面談したいと知らせがきた」


「基本的に聖女の交流ってなかったんじゃ?」


 この国のことを勉強している時、一番最初に他国の聖女に話を聞くことを考えたんだけど、基本的に交流がないと聞いていた。


 だから聖女の力のことを聞きたくても聞けないと落ち込んでいたのに。他の国の聖女様に会えるならもっと早くしりたかった。聖龍との距離なども知りたいし。


「希望があればできなくない。美麗様の場合異世界からの召喚という事もあり要らぬ衝突を避けるためにも他国と距離を置いていたのは申し訳ない。そのせいで思い悩ませてしまったから」


「そうだったんですね」


 異界を渡す事により力を増すと言われている聖女。どういう原理かは分からないけど私が今回呼ばれたのは世界の危機があるからと、先代聖女の遺言がある。


 その危機についても聞ける事があるなら知りたい。


「面談の件、逆に私からもよろしくお願いします。聞きたいことがありますし」


「分かった。最短で日程を組む事になると思うから、よろしく頼む」


 言い終わるとすぐに青い鳥はふわりと姿を消した。



***


 面談の申し入れの後、2日後に南国の聖女が訪問する話を聞いた。


 早朝ミュゼアからの連絡がきて、その日の昼には最終決定の連絡と、急遽きゅうきょ午後にオリビア様のお茶会兼マナー確認をしてくれるという連絡がきた。


 久しぶりに会うオリビアはとても嬉しそうにしていて、前回は突然やって来たのに、今回は事前に連絡をくれた。


美麗みれい様とは最近お話が出来ていなかったので、とても残念でした」


「ごめんなさい。でもこちらの世界で仲良くしてくれている人が少ないから、これからもよろしくお願いします」


 ララは基本的に護衛と言う距離を保っているから、オリビアくらいしか砕けて相談が出来ない。本来ならば王族の婚約者の立場なのでそんなに気軽に接してはいけないのかもしれないけど。


「南の国の聖女様に会うことになったんですkど、どういった方かご存じですか?」


「基本的に自国から出ない方が多いので、ごめんなさい。とても美しい方だとは聞いています。王様が聖女様が就任されるときに、少し揉めて綺麗な人が好きな南国の聖獣である朱雀すざくが彼女じゃなきゃ国を出てってやるって暴れた話だけは聞いていますけど」


 リュー国の聖獣とは性格が違うみたいだ。聖龍は生まれてまだ数年しか生きていなくて、先代の聖女に色々助けてもらっていたと本人も言っていた。だからミュゼァが聖女の子どもだったことも覚えていて、聖龍の方がミュゼァに対して少しよそよそしかった。自分のせいで先代の聖女様の寿命を早くさせてしまった事を悔やんでいると言っていた。


「まだ聖女としても未熟なのにいきなり外交だなんて、不安でしかない」


 お行儀が悪いと分かりながらも私はテーブルの上に顔を伏せる。聖女同士の話と言うことで誰も控えられないと言っていた。


「美麗様はとても可愛らしいですから、大丈夫ですわぁ」


と何故かとても嬉しそうにオリビアはララの用意してくれた紅茶を口にする。その優雅ゆうがな動きの一つでも私が出来ていればこれほど不安になることは無いのに。


「そう言えば、後以前聖女の正装の話をしていたと思うのですが……」


 確かオリビアのお茶会の時に話題が出ていたような気がしたけど、あれから力が使いこなせない事で頭がいっぱいでしっかり忘れていた。


 外交の場であれば、聖女の正装をするのが基本だよね。日本に居た時も何かあればスーツを着るとか色々あったからそういう決まりもありそうよね。


 オリビアは飲んでいたカップを置くと、残念そうに顔に手を当てて言う。とても可愛らしい姿に、私は癒される。この国の人は顔面偏差値がんめんへんさちが高い。護衛として傍に居るララもとても可愛い。可愛い洋服を着て欲しいとお願いをした時に「身分不相応なので、それよりも美麗様を着飾りたいです」と言われたのを思い出す。


「素材の入手に手間取っているらしくて、まだ出来上がらないみたいなの。美麗みれい様の正装はさぞ魅力的だと思うのが残念ですわ。我が国の新しい聖女の愛らしい姿を他国に見せたかったのに。わたくしもオズワルド様に素材の入手の件を伝えてみますわ。なので、明日はドレスで問題ないと思いますわ」


「ありがとうございます。私が可愛いかどうかは分かりませんけど、聖女として未熟なのに他国の人に会うだなんて心配です」


「何を言っていますの?ミュゼァ様も美麗様の事を褒めておりました。聖龍もお認めになった方なのです、自信を持ってください」


 テーブル越しに手を握るオリビア。瞳はとてもキラキラと輝いている。


「聖龍に認められたけど、まだちゃんと力をしっかり使いこなせていないです」


「……ミュゼァ様も言ってましたけど、魔力の無い世界に居たから仕方のないことだと伺っています。でも、他国の聖女様に会えるなら力の使い方とかも聞いてみてもいいかもしれないのでは?」


 確かに滅多にない機会なら聞いてみてもいいかもしれない。


「ありがとう、オリビア様。不安に考えるのはやめてみる」


 相手がどんな目的で来るか分からないけど、やるべきことはやってみよう。

 

 

オリビアが帰った後ララが「明日1日は美容に費やすので覚悟してくださいね」と言われてしまった。


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