異世界召喚されたら【聖女様】って呼ばれたんですけど、正装がバニーガールなんですけど!!??

綾瀬 りょう

第1話 自信のない聖女です

「ボクの主人として君を認めるよ、宜しくね、異世界から来た聖女様」


 異世界から召喚された私は、自分の中に流れる膨大な魔力を使いこなせることができなかった。情けなくて寂しくて、胸の内は誰にも相談していなかった。


 そんな私を心配してくれたミュゼァが聖龍の住む北の森に連れてきてくれた。


 聖龍に手伝ってもらったことで、体の中を流れる魔力を上手く扱えるようになり、『聖女』として国にいることを自分自身で許せるようになった。


《クルシイ、クルシイヨ》


 聖龍が住んでいる森は普段は明るく清らかなのに、今の森は禍々まがまがしい。動物たちの声が聞こえず、今までの森と同じでいいのかと思ってしまった。


 強大な邪気の塊を体の中に取り込んだ聖龍の姿は、夜の闇よりも深い黒へと変貌へんぼうしていた。元々の白銀のうろこの姿からは想像のできない邪悪さ。瞳の色だけは変わらず金のままで、いつのもの優しい眼差しの面影は残っていない。

 聖龍の体から漏れ出る邪悪な雰囲気に足が震える。


 目の前で苦しんでいる大切な友達。

 逃げ出したいけど、私が逃げたら誰が聖龍を救うというの?


 目の前で世界を守ろうと邪気を取り込んでくれている聖龍を助け出すことができるのは、他でもない私。

 頭の中に直接彼の苦しむ声が聞こえてくる。


《オネエチャン、ボクモウ、イヤダヨ》


 周囲に被害を与えないように必死にその場にしゃがみ込んでいる聖龍はそれでも我慢できなくて、尻尾だけはブンブン振り回している。


 近くに生えてきた木々は薙ぎ倒される。


 私は聖遺物せいいぶつである魔法少女ステッキを握りしめる。杖の先は三日月をモチーフで、棒の部分は群青色ぐんじょういろ。闇に浮かぶ月のをイメージして作り出した聖遺物である。

 体の中を巡る魔力の使い方に悩んでいた時に「聖女様の住んでいたところで、どういうイメージで魔法を使っていた?」と聖龍に質問をされて思いついたものになっている。魔法と言えば『杖』が存在しており、幼少期魔法少女にも憧れていたから思いついたデザインだ。折角なら衣装も魔法少女風なミニスカートでフリルをふんだんに使った物にしたかったけど、正装が決まっていると言われたので今回は諦めることにした。いずれは私の希望の正装をしたいと狙っている。


 目の前にいる聖龍が更に苦しそうに尻尾を振り回すのをみて、魔法ステッキを握る手に力が入る。


「今、助けてあげるから」


 私は羽織っていたコートをと脱ぎ去る。胸元が大きく開き、お尻には可愛い尻尾が付いおり、頭にはウサギの耳のカチューシャ。絶対に着ないと駄々をこねて、渋々後ろの部分だけフリルのスカートをつけてもらった。


 私が生まれ育った世界では、“バニーガール”と呼ばれた服が異世界召喚された世界では、聖女の正装。


 冗談であって欲しかったのに、誰もが口を揃えて聖なる装いって言うの。


 鼻の下を伸ばしている人が居ることくらい分かってるんだからね!


 教育係も勤めていたミュゼァ様がその服でなければならない理由を教えてくれたけど、信じられなかった。


 過去に聖女の力を使いこなせなかった人に、狭間から流れてきた「賢者」と呼ばれていた若い男性がこの衣装を着れば力が使いこなせる、って言って本当に使えるようになるとか、何の冗談なのよ。


 聖女の正装がバニーガールなのは、どの国の聖女も同じだと聞いている。どうして露出も多くて恥ずかしいものを、正装にしたのよ。


《クルシイヨ…》


 魔力を自家製の魔法ステッキに集中させる。バニーガールの服を着て、魔法ステッキを持っているとか、結構シュールじゃない?それでいて呼び名は聖女様だもの。


 苦しそうに身を縮める聖龍に視線を戻す。


「今助けて、あげるから」


 力の制御が上手くできなかったら、運が悪いと殺してしまう。今までは聖龍が力の使い方が下手な私のサポートをしてくれたから、邪気に取り憑かれていた人を助けるとき命を奪わずに済んだ。


《クルシ…イ、コロシテ》


「殺せるはずないじゃない」


 私を救ってくれた存在を、そんな風に扱える訳がない。ミュゼァはここに来られない。万が一私に何かあったとしても、きっとこの国最強おの魔術師の彼が助けてくれると思う。


「大丈夫、絶対に助けるから」


 私は聖龍に教えてもらった聖なる讃美歌の歌を口ずさみ始めた。

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