不思議

肉まん

 ガタンゴトン……ガタンゴトン……


 今日も変わらず電車に揺られる僕。見ず知らずの人に四方八方からぎゅうぎゅうに押し込まれながら30分ほど吊環に捕まって立ち続ける、これが僕のルーティンだ。


「あぁ……退屈だ」


 はっきり言って、この時間は苦痛だ。それにこの時間を終えたとて、楽しい時間が待っているワケではない。何故かって? 目的地に着けば上司から詰められるだけだからだ……


「コラ、ここ間違ってるじゃないか! 何度言えば分かるんだ!」


「もぉ、アナタまたノルマ達成できないの? いい加減にしてよ……」


「オイ、今日こんだけしか仕事終えてないのか! どうなってるんだ!」


 ああ、もう嫌だ……


 そしてやっとそこから解放されたかと思えば待っているのは再びあの満員電車。1日中僕は何かしらのストレスを受けている。ああもう嫌だ、さっさと逃げ出してしまいたい……


 だけど、僕には1つ、毎日の楽しみがある。それはコンビニに売ってる肉まん。幸い、僕は独身でお金には余裕がある、いわゆる独身貴族ってやつだ。だから、仕事終わりに毎日1つ、肉まんを買っても全くノープロブレムなのだ。


 あぁ、ふわふわ生地にたっぷりのお肉、そしてジューシーな肉汁。これがたまんないんだ、いっただっきまぁ――


「ンギャー!ナンダアレー!」


「バケモノガイルヨー!」


 ん、今何か声が聞こえたような? まぁいいや、いただきまーす!



 あぁ、美味しかった……それにしても、今日は眠い……な、別に寝不足では、ないはず、なのに……

 



 むにゃむにゃ……バタン。




 ……あれ、ここはどこだろう? 僕が目覚めると、そこは小さく、そして薄暗く、そしてほのかに暖かい不思議な空間だった。

 目を凝らして辺りを見渡すとカプセルホテルのように無数の小さな空間が上下左右に広がっており、各部屋には1人ずつ、見知らぬサラリーマンや主婦、学生や老人達がポツンと座っている。


 こ、ここはどこなんだろう……? 何だか分からないけど、ただならぬ不安を感じるぞ? それにしても暑い……


 僕が手で体を扇ぎながらもう片方の腕で額の汗を拭った、その瞬間だった。

 突然、エレベーターのような部屋そのものが持ち上がる感覚がしたのだ。最初はめまいか何かだと思ったが、周りの人も異変を感じていたようで、空間がざわめき出す。


「オイ、何だアレ! 何かいるぞ!」


「えっ、何よ、怖い!」


 何だと思って僕も周りを見回すと、そこには巨大な1つの襖越しに見える人影のようなものがぽっかりと浮かんでいた。


 そしてその人影は、ついにガブリとこの空間にかぶりついた。当然、周りはパニック状態だ。


「んぎゃー、何だアレ!」


「化け物がいるよー!」


 もはやカプセルホテルはその形状を保っていない。僕の目に見えるのは、得体もしれぬ大きな存在。口をぱっくりと開けた、見知らぬなにかだ。


 う、うわぁああああああああああ!




 ……ンゴッ!?


 僕が目を覚ますと、そこは森の中だった。どうやら眠ってしまっていたらしい。

 あぁ、今日も仕事が面倒だ。それにしても何で僕、人間の夢なんて見てたんだろ? 僕は森に住まう巨大なドラゴンなのに。


 ……まぁ、いいや。仕事を終えたら、今日もメシにお肉、食べるとするか。


 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る