第二章 戦火繚乱

環 進護のビデオ記録

20XX.4.11 20:13




 私だ。たまき進護しんごだ。


『インフィニット・X』と名乗る謎の存在によって異次元に閉じ込められた。




 そいつはどうやら、異なる並行世界から来た、様々な能力を持つ戦士達を戦わせる事が目的らしい。


 この中で、最強を決めたいようだ。試合は、明日に行われる。




 ここで、謝らなければならない事がある。




 私が、環進護が、『グレート・シルバー』の正体である事。そしてその事を、ひた隠しにしてきた事だ。




 今この異次元にいる者達は皆、一つ以上は超常能力を持つ『異能者』だ。


 私も、その異能者の一人。いや、グレート・シルバーと一体化して異能者になった男だ。




 その事を前提として、これから私が残そうとしている『異次元の記録』を見て貰いたい。












20XX.4.12 06:10




 おはよう。と言いたい所だが、この記録は夜に見られているかもしれないので、どう言えば良いのか。




 これから私を含め、戦士達が朝食を摂る。


 今日の武闘大会で優勝した者は、どんな願いでも『インフィニット・X』に叶えて貰えるそうだ。それ故に、戦士達は異なる思いを持って朝食を摂り、戦いに臨むだろう。




 さて、これを見ている人にはこんな疑問が浮かんだ事だろう。


『この武闘大会に敗れた者は、どうなるのか』。




 私にも分からない。そのまま元の世界に送還されるかもしれない。死ぬかもしれない。しかしこれはゲームだ、と『インフィニット・X』は言った。ヤツの話を信じるならば、前者の方が確率が高い。




 私はここで一旦食事にしようと思う。












20XX.4.12 09:45




 環進護だ。最後の準備を終え、出撃前最後の記録を撮っている。




 実を言えば、『怖ければ帰って良い』と、『インフィニット・X』は昨日そう言った。




 ここに集められているのはどうやら、各世界に『無くてはならない存在』だという。いわば小説や映画における『主人公』だというのだ。




 私は昨日、そう言われて悩んだ。願いの為に戦いに行くべきか、辞退して帰るべきなのか。




 しかし私の世界を、このままにはしておけなかった。




 私は戦いを選んだ。願いは、もちろん『禍ノ使イ』の全面排除。




 そろそろ時間だ。私は行く。




 この戦いに、全てをかける。












20XX.4.12 11:45




 他の戦士の急襲に遭い……重傷を、負ってしまった。


 頭部から血が流れている。だが、まだ……辛うじて戦える……。




 男の、異能者だった。私が金髪の女騎士王と戦っている最中、突風を私と相手の間に起こして乱入してきた。


 しかもその能力が奇妙だった。




 書物を銃のように持ち、引き金を引く動作で実際に銃弾を放つ、という能力。それだけならまだ良かった。


 しかし、彼の場合……その銃弾に、能力が付与されていた。




 私は障壁を展開して防ごうとしたが、地面に着弾した所で大爆発が起きた。そのまま、私は海に投げ飛ばされて……しまった。




 『死』を、実感した。ヴァーチャルな死ではない。現実の、死だ。




 これに負けたら、本当に死ぬ。死んだ状態で、元の世界に返される。いや、或いは単に『地に還る』だけなのか?この異次元の地に、遺体を還されるのか?




 そんな事にだけは……絶対になってたまるか。




 私は……何としても優勝する。そうして元の世界に生きて帰り、禍ノ使イを全滅させる……。




 次は、もう無いかもしれない。次の戦いで生き残れたら、また撮る事にする。

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