第14話 悔み、それでも望む
まるで痛みを感じていないようだった。
疲れている俺とは違って、アイツはまだ涼しげだ。触手も支障なく動かせている。
俺はアイツにダメージを与えられていない。それは絶望の上塗りとしては十分だった。
「それに引き換え、貴方はとっくに疲れてる。そんな状態でボクにかなうとでも思ったのかい?」
俺を見たジェネシスが滑らかに言う。だが俺の耳には濁った水みてえに聞こえる。
「……命に代えても、じゃねえが……お前だけは倒してやるよ。いや、倒さなきゃいけねえ」
「それはボクのセリフだよ。ボクはまず貴方を殺して、そして優勝しなくちゃならない」
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「お前は誰だ?」
「すまないが、戦いの邪魔は慎んでくれないか。これは私とシルバーの戦いだ」
突然の闖入者に、二人は内心、嫌悪感を抱いていた。無礼にも二人の間に風を起こし、両者を吹き飛ばしてまで戦おうとする姿がそうさせたのだ。
「ふっ……確かにそうだな」闖入者は申し訳無さそうに軽く
瞬時に、闖入者は顔を上げた。そして言った。
「お前たちのような『体制の味方』に、そのような礼節など必要無い」
そして彼はローブの中に手を突っ込んだ。その2秒後、彼の手に、それは握られていた。その長方形の一角を、彼は握っていた。
――それは本だった。何の変哲も無い、一冊の本だった。
「その本で私達を攻撃するつもりか?」
シルバーが問う。嘲笑を堪えていたのか、その声は小刻みに震えていた。
「……油断するな、シルバー。あれは魔導書の類かもしれない」
アーサーがシルバーに注意を促す。彼女の顔には、薄く汗が染み出ていた。
「いや、これは何の変哲も無いただの本だよ」闖入者は穏やかな口調を崩さず言う。「……私が持っていなければ、だがな!」
次の瞬間、二人はその出来事に絶句した。
本を握る手の対角から、弾丸が発射された。
その赤い弾丸はシルバー目掛けて飛翔した。燃え盛る炎のような軌跡が、シルバーの目に焼き付く。
「クッ……」
シルバーは光の壁を展開した。
弾丸が、光の壁に衝突。無駄に放たれたその弾丸は、シルバーの足元へ向かって光の壁を滑り――。
「ッ――!」
――滑り始めた瞬間、途端に爆発した。
グレート・シルバーの体が海へと飛んでいく。そのまま見えなくなってしまった。
「な、何を……した……?」
アーサーが汗の厚くなった顔で問う。
「『爆弾魔の咆哮』」闖入者が本の表紙をアーサーに見せる。「この小説のタイトルなのだが、さて、私は何をしたか。当ててみるが良い」
「……お前、まさか『異能者』か?」
「ご名答」闖入者が微笑む。「私の異能は『小説を銃として扱い、内容に合わせて銃の効果が変わる』という物だ。どうだ、自己紹介は必要か?」
「……物語を『人の命を奪う道具』として使ってきたようだな」アーサーがエクスカリバーの切っ先を闖入者に向ける。「お前の名を聞こう。いずれ祖国に帰った時、大悪人として語り継げるからな」
「分かった。それでは改めて名前を言おう」
「私の名は賀任 謙哉。腐りきった全ての現体制を消す為にこの大会に参加させて貰った次第だ」
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触手が、ナイフとぶつかり合う。
刺された箇所から血が流れ、店の外観を恐怖の世界へ引きずり込んだ。その壁に、刺されていない触手に薙ぎ払われた男が激突する。トドメを刺そうと触手が男に迫るが、男は必死に腕と足を使い紙一重の差で避ける。男がいた壁に穴が開いた。
「いい加減鬱陶しいですね、地球人の分際で!」
「鬱陶しいのはお前だろうがこの触手ストーカー野郎!」
両者の罵声が部屋に響く。
触手、触手、触手、触手、触手。その猛打をナイフで凌ぐジョン。
突撃、突撃、突撃、突撃、突撃。その作戦を触手で妨害するジェネシス。
触手が切れ、男の体が軋む。その応酬が、部屋にヒビを走らせる。
「ジョンさん、貴方がここまでやるとは思ってもいなかったよ」
数秒後という所で、触手の一本がジョンを捉えた。
「ぐおっ!?」
凄まじい重力値の負荷がジョンを襲う。
「だけどボクの世界の為に、どうしても貴方だけは殺さなくちゃ……!」
そのままジョンが投げ飛ばされた。軍人の体がアリーナの方向、フェンスの彼方へ消えていく。
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「おっ」
仙理が何か声を漏らした。
「どうかしたの仙理」
「おう、何か音聞こえへんか?」
「どこから?」
「六本木ヒルズの方から」
耳を澄まして聞いてみる。何やら戦っているような轟音だ。ここからは小さく聞こえるけど。
「ここは戦いに行こか?」
「えっ?」
「敵がおるかもしれへんから、二人で最初のバトルや」
そういうと、仙理は人差し指を空中でスライドした。
「おっ、せや、これこれ」
仙理の前に何やら薄い板みたいな何かが現れた。
なるほど、それが『固有ウィンドウ』ね。
などと感心してる間に、今度は仙理の側にホウキが現れた。
「えっ……?」
「な~にポカンと口開けとんのや」
気が付いたら、仙理はホウキにまたがって空中にいた。
「早よせんと置いてくで」
そのまま六本木ヒルズ方面へ飛んで行ってしまった。どうやら煽ってるらしい。
おのれ仙理。いや、それ以上におのれ大会運営。
「ちょっと仙理!いつもそうでしょ、待ってったらぁ!」
私は慌てて能力を発動し、仙理を追った。
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「ふぅ……」
アリーナの方向へ、ジェネシスの溜息が漏れた。
ジョンは生きてはいないだろう。アリーナ方面へ投げ飛ばされ、そこに落ちている屋根に体をぶつけているか、或いは床に叩きつけられているか。どの道、彼が生存するなど考えつかない。
「さて」
元の姿に戻ろうとした。
だが。
「痛っ」
触手の一本に不快感が走った。
ジェネシスは反射的に触手を見た。そして冷たい戦慄に襲われた。
その触手の先端から一メートルが消失していた。
先端から薄い青の血がボタボタと流れ落ちていく。切り離された先端は、この部屋のどこにも無い。
最悪の予感に襲われ、ジェネシスは急いでアリーナを見た。
どこにもジョンの死体は無い。
ただ、触手だけが放置されていた。
「よお」
声に反応し、振り向いた。
ジェネシスの後ろに、放り出されたはずのジョンが立っていた。
「お前はもう、ここで脱落だ」
「な、何を言ってるんだい?そもそも、貴方は死んだはずじゃ」
「下を向いてみろよ」
言われた通りに、ジェネシスは下を見る。
M16に装着された銃剣が、ジェネシスの胴体、装甲の隙間を破っていた。
「ぐうっ!?、な、な……ぜ……」
「触手にしがみついて先端だけ切り取っといて助かったぜ」ジョンは口から一筋の血を流しながら言う。「お前の触手、ホントにクッションとしてピッタリだ。売れば儲かるぞ」
ジェネシスの装甲を、薄青の血が伝う、それを見て、ジョンは銃剣をさらに深く刺す。
「ぐああっ」
「流石に内臓がダメージを受け続けりゃ、回復も出来なくなると思ってな」
ジョンが引き金に指を掛ける。「このままやったら、倒せるんじゃねえかな」
装甲の内側からライトブルーの血飛沫が舞い散る。
最後の余力を振り絞り、触手をもたげた。だが、その為の力を無くし、触手は倒れてしまった。
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「やっと、終わった、か……うっ」
肺に急激な刺激が走った。だがこれはいい刺激だ。
強敵を倒した後に、一息を吸えたという刺激なのだから。
「俺は、勝ったんだな……っ」
俺の目から涙が出てきた。俺が生きてる事っていう事が、相当嬉しかったんだろう。
だが、本当に俺は心全体でそう考えているのか。
「……ぅ……」
微かな呻き声が聞こえる。誰かは、もう分かっていた。
「っ……ボ……が……負け……なんて……」
波のような罪悪感が俺を襲った。
俺は触手の先端を取りに行った。そして両手にそれを担ぎ、間に合うように走る。
「おい、おい」
「……ジ……ン……さ……?」
ジェネシスの切れた触手の側に、触手の先端を置く。
「さっきはごめんな。触手、返してやるよ」
「……」
「戦いが終われば次の戦いまでノーサイド、だろ?もう俺達は戦ってない、助けたって問題ないはずだ」
「……フ……フ……」
ジェネシスが、無理して笑ってるような息を出した。
「ジョン…さん……っぱり……ひとよしで……すね」
ジェネシスが虫の息なので、ハッキリと聞こえない。それでも、何かを必死に伝えようともがいている。そんな気がした。
「貴方……に、話が……ある」
「何だ」
「ボクの……戦う、目的……は……侵略、じゃない」
俺は耳を疑った。さっきから本気で俺を殺しに来たヤツが、あれだけ「自分は侵略者だ」と言っといて今更そんな事を言うとは思えねえ。
「お前……じゃあさっきから本気で戦ってたの、何だったんだよ」
「……ただ、優勝……する為、に」
「ホントか?ホントだって言うなら、お前のホントの願いを言え。今すぐに」
「フフッ……」ジェネシスは天井を向いて、息だけで微笑みを表した。「ボクがいつも……助けてる、あの子……の為、さ」
「……亜輝太か?」
「ああ、その……亜輝太、くん……だよ」
ジェネシスが俺に目を向ける。
「ボクは……侵略が目的、じゃ……なかった……。地球っていう、綺麗な、星に……惹かれた、って訳で……」
言い終わらずに、ジェネシスが血を吐いた。
「だ……大丈夫かよ」
俺はジェネシスをどうにか起こそうとしたが、重くて出来なかった。
「……ありが、とう……」ジェネシスが、消えかけの蝋燭のような優しい声を絞り出す。「貴方みたいな、人が……いる、のは良い事……だったよ……。実は、ジョンさん……に似た……人、をボク……は一人……知って、いる」
「誰だよ」
「亜輝太、くん……」
「そう、なのか……?」
「あの子……は、何も……満足に……出来や……しない。だけど……それに、見合わず……危険な状況、でも……他の命は……助けよう、って信念……貴方も、そう、だよね……?」
ジェネシスの目から光が消えかけていた。だが、それでもジェネシスは続けた。
「そんな、貴方、だから、こそ……殺し、たく……なかっ、た……。貴方、には……優勝、して……ほしい……。それで、参加者、全員……生き返……らせる、事が……できる」
俺の目からは既に涙が出ていた。
「それから、もう……一つ」
「?」
「賀任……謙哉、には……気を付け、て……」
そう言い残すと、ジェネシスの目から光が完全に消えた。
コイツも『
一見、敵を気取っても、心まで敵という訳ではない、典型的なダークヒーローだった。見た目がどれだけ敵だと思えても、コイツは最後まで『味方』であり続けた、のだろう。どこかにいる黒幕に、バレないように、『敵』として振る舞いながら。
だが俺はコイツを殺してしまった。一つの世界の『
ふと、あのモニターの言葉を思い出した。
『――敗れた参加者は、カエる』。
この言葉の意味が、『敗れた参加者は、土に還る』って事だったなんて。
「うっ……ううっ……」
俺の口から嗚咽が漏れた。俺の前に横たわる死者に対する悔みと、こんな大会に参加しちまった俺自身に対する悔み。二倍の悔みが、俺の胸を押さえ、涙腺を震わせた。
「えっ……」
少女の声を耳にする。
振り返ってみると、二人の少女が茫然と立っていた。巫女服とゴス服。昨晩に『ネコポン』と仲良くなって間もない、あの二人だった。
「……ど……どないしたん……?まさか、ジョンはん……!」
ゴス服の少女はこちらに走り寄り、俺の胸倉を掴んだ。
「おい……こいつはどういう事やねん、この死体……このゲームで死人は出ない、そう言うたハズやろ!?あとそのタコは何や!」
「お、落ち着いて聞いてくれ」俺はゴス服――仙理に胸倉を掴まれたまま、抵抗せず、声を荒げずにに言った。
「まず、このゲームは遊びでも武闘会でもなんでもなかった。ここで致命傷を負って死んだら、もう元の世界には帰れない」
「う……そでしょ……?」「う……そだろ……」早夢と仙理の顔が歪みかけた。
「その証拠がコイツだ」
俺はジェネシスを指差して言った。
「このタコはお前らの好きだった『ネコポン』の、本当の姿だった」
「おい、このタコが『ネコポンのホンマの姿』って言うたか……?」
「ああ」俺はジェネシスの装甲を指差し、言った。「ネコポンの色の名残を残してる」
「こ……このアホンダラ!!」
仙理が大声で叫びながら俺を殴った。0.1秒の間に、その痛みは俺の心の傷にまで響いた。
「お前の後ろで死んどるタコが『ネコポン』やと?しかもお前にやられて死んだ、ってか?」
「ああ」
「……許さへん」仙理が俺の胸倉を掴む。「よくもウチらの友達をあんな姿にして殺したな!この大会がただの殺し合いだ、って気付いといて、何でそんなにも冷静でいられる!!ひょっとしてお前があのモニターの部下か?だったらお前を殺して主人の仕事を増や――」
「俺は別に冷静じゃない」
「だったら何や!」
俺は一呼吸おいてから、短く、小さく吐き捨てた。
「……俺もお前みたいに絶望してるんだ」
「……へ?」
俺の胸倉を掴む手が若干緩んだ。俺は続ける。
「この大会が殺し合いだって、俺も思ってなかった。全部聞くまではな――コイツに」
俺はかつてネコポンだったものを指差す。
「ネコポン……が、気づいてた……ん?」
「ああ」もう一度一呼吸。「誰から聞いたかは分からなかった。だが、アイツはそれを承知で俺を殺しにかかった」
「ちょっと待って」早夢が口を挟む。「アンタの事を、ネコポンが……?」
「多分殺しやすかったから、だろうな……。だが、結局、返り討ちだった」
「……じゃあ説得すりゃよかったんとちゃうん!?」
胸倉を掴む手が再び強くなった。
「いや、もう説得どころじゃなかった。もはや殺すか殺されるか、だった」
「……」
仙理はもう片方の腕に、握り拳を作っていた。
仕方ない、と思う。
『最強決定戦』が『殺し合い』の被った皮だ、という事に気が付かないまま参加しちまった。それだけだ。だがそれは人を殴る理由として、取り返しのつかないくらいに十分だった。
だが。
「……ネコポンから二つ言われた」
俺は震える声でそう言った。
「一つは、『優勝しろ』、との事だった」
「はっ……!?」
「アイツは俺に、『優勝しろ』と言った」
「ちょっと待って、それどういう――」
早夢が口を開いたが、俺は遮った。
「『優勝すれば、何でも願いが叶う』。そうだろ……?」
「っ……!」
胸倉を掴む手が再び緩んだ。
「つまり俺達の誰かが優勝して、ネコポンを、いや脱落者全員を生き返らせてくれ、って頼めばいい」
「だったら今お前を」
仙理が俺を殴りかけた。俺は手でそれを止める。
「言っておくがお前らには人殺しにはなってほしくねえ」心なしか、頬が濡れているのを感じた。「だがこんな状況じゃ、そうするしかねえよな。だがその必要はねえ」
「だったら?どうすりゃいいん……?」
「俺は一般人、この大会で一番弱いハズの参加者さ」俺は必死だった。「他の連中が俺を殺してくれるだろう……それを逆手にとってくれ」
「……?」
「少しでも殺す人数を減らせばいい。俺か、それ以外の誰でもいい。人数が少なくなるまで待てば、必然的に誰かを殺す数も減る」
「「そ、それは……」」
二人が同時に言った。
「だからここで俺を殺す体力を、少しでも後に残しといてくれ。それからもう一つ、お前らにも重要な事だ」
「な、何や……?」
仙理の顔から、少し怒りが引いたような気がした。
俺はそれを見て安堵し、深呼吸をして、言った。
「『賀任 謙哉には気をつけろ』」
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「賀任 謙哉、やと……?あのフード被ってた奴か?」
「ああ」ジョンさんは否定しなかった。「ネコポンが何を知っていたかは知らねえが、アイツはこの大会について知ってるくらいだからな……」
「あの、じゃあネコポンはあのフード被ってた男が何者なのか、知ってるって訳ですか」
私は勇気を出して尋ねた。
「間違いなさそうだ。途轍もない戦闘力を持ってるかもな」ジョンさんはすんなり言った。「だがネコポンがもう死んじまった。俺達に知る方法はもう無えだろう」
「それは残念な事やな」仙理の腕はいつの間にか、ジョンさんの胸倉から離れていた。「危なさげな奴がいる、って情報だけでも助かるわ。それに免じてここは助けたる」
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「……いいのか?」
「ああ、今後お前がウチらに手を出さない事を約束してくれるならな」
「誰が好き好んでお前らに手を出すんだよ」
とりあえず命ばかりは助けてくれるようだ。気づいたら胸倉から手も離れていたし。
「ま、最後に残ったのがお前らだけなら遠慮なく攻撃するけどな。それまで二人の間で戦うような真似はすんなよ」
「ははっ」仙理の顔に笑みが灯った。「当たり前やで。ウチらは親友同士、争う理由も無いやろ!」
「ふふっ、まあそうね」側にいた早夢も笑顔になっている。「この人の言う通り、争うのはこの人を倒してからね」
「一段飛んでねえかお前」
「ぷっ……」突然、仙理が吹き出した。「ははははははっ!なんや、お前お笑いの才能あるんか!?」
「何でこんな重いシチュエーションでそんな事……」
「ええやないか、辛気臭くなってきたからこれくらいやないと」
「ふふっ」早夢も共に笑っていた。
「ふっ……あははははは!」気づいたら俺も笑っていた。
「ネコポンは死んじまったけど、ここからは弔い合戦、いや、現世引き戻し合戦や!」
「「おーーーーーー!!」」
……ネコポンも、笑ってくれているだろうか。
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「全参加者に、大切な話があります。
……この大会は殺し合いでした。最強決定戦という皮を被って、殺し合わせようとしてます。
これを聞いた皆さんが絶望するかもしれないと考えると、心が痛みます。
しかし、やる事は変わりません。
多分もう死者が出ていると思いますが、死んでしまった参加者の分まで戦って下さい。
優勝すれば願いが叶う。それを利用して、死んだ参加者を生き返らせられます。
強要はしません。繰り返します……」
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「ふぅん……」
これ、殺し合いだったの……?噓でしょ……?
……と思ったが。
「……な~んだ」
これはむしろチャンス。
「あの憎いチート勇者をこの手でブチ殺せるチャンスじゃん!やった!マジで神!」
願いは後から考えよう。チート勇者を殺した後で。
ま、チート勇者を殺せればどうでもいいんですけどね。
少なくともチート勇者を生き返らせような奴が出ないように祈るだけだっつーの。
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「ホントなの、これ……?」
「ああ、大マジの話だろう。そうでなきゃ、わざわざこんな連絡なんて寄越さない」
俺はにじかと共に連絡を聞いていた。
にじかは怯えていた。まるで彼女が、運命を知った時のように。
たった今、俺にもその気持ちが理解できた気がする。
「でも俺がにじかを守ってみせる。二人で生き残って、最後に戦おう」
「でも……」
「人を殺すのが嫌だったら、最後に俺が死んでお前に願いを叶えさせる。デストルドー・グレイの運命を変えるのでも、脱落者を復活させるのでもいい」
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「……」
ユーリは固有ウィンドウを見つめ、息を吐いた。
「殺し合い、ね……僕も実際、不本意ながら何度もやってるもんな……」
ユーリは空を仰いだ。
「そうだ、美少女だけは殺さないでおこうかな」
その瞬間だった。
「お前が、『ユーリ・ピーターズ』か?」
「誰かな?」
ユーリが起き上がって声の方向を見ると、そこには黒いツンツンヘアーの少年が立っていた。
「俺の名はルーカス!王に選ばれ、魔王を倒す使命を背負った勇者だ!」
「ふ~ん、勇者、ねぇ……」
ユーリは気だるげに吐き捨てると、立ち上がって固有ウィンドウを開いた。
「その為に僕を殺しに来たのかい?連絡はどうしたの?」
「見たさ」
ルーカスの目は黒々としていたが、燃えているという言葉が似合うほど熱気を宿していた。
「もう後戻りはできない……なら、他の参加者を全員倒して、元の世界に帰るのみ!俺は俺の世界の為、生きて帰るしかないんだ!」
「成程ね、それじゃあ」
ユーリの手に、白銀の剣が現れた。
「いっちょ派手にいきますか。死にたくないし、ハーレム王国作りたいし、それに他の世界の剣士と手合わせするチャンスは他に無いし」
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「こいつぁヘヴィだぜ……」
ボビーはしばらく、自分のウィンドウを見つめていた。
「……でも、俺はもう同じような事してばっかだからな……」
ウィンドウを閉じ、足を踏み出す。
「こうなりゃ、やっぱ優勝するまでだな」
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「おいアッシュ、見たか?」
「ああ光昭。これはマズい事になったな」
「そりゃマズいでしょ。普通の最強決定ゲームかと思ったらガチの殺し合いだなんてよぉ、絶望しかないじゃん」
「フン。だがこうなってからでは仕方がない、二人で最後まで残ってみせよう」
「そ、そうだな。二人で残って……で最後殺し合うのか?」
「安心しろ、願いがあるだろう」
「……そっか」
「全然分かっていなかっただろお前」
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「ドピェーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーッ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
あまりの絶叫に、周辺の窓ガラス全てにヒビが入った。
「嫌じゃ嫌じゃ!死にたくない!」
誰も見ていないのが唯一の幸いだった。
70歳は絶対に超えているであろう老爺が、5歳児の如く駄々をこねている様は、こんな状況でなかったら狂気としか形容のできないものだった。
「こんな大会に出るんじゃなかった!ワシ、こんなに弱いのに!ワシは、ワシはもうお終いじゃ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
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ッッ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
二度目の絶叫で、周辺の窓ガラス全てが割れた。
「ギャーーーーーッ!ギャーーーーーーッ!……ハッ」
老爺が我に返った。
「……そうじゃ、アイツらがまだおったじゃろが」
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