Act.1 花嫁救出・1

 漆黒の宇宙空間と、青く輝く空の境界。

 2隻の宇宙艦が、成層圏を抜けて惑星スピノザの気象圏へ降下する。

 先行するのは、四つん這いになったしなやかな女性を、もしくは伏せる獅子を思わせる小型外用宇宙船だ。伸ばした両腕のように舳先が二股に別れており、その間に首をもたげたような艦橋ブリッジが造形され、通常宙空間航行用主機である対粒子転換推進アクシオン・アナイアレートのエンジン・ノズルへと流れるエクステリアが実に優美だ。

 その後から見守るようにゆっくりと降下している宇宙艦が、傭われ宇宙艦乗りドラグゥン・エトランジェと呼ばれる、宇宙空間での仕事を生業なりわいとしている宇宙生活者の編団レギオの1つ、グリフィンウッドマックの機艦アモンだ。

 先行する小型宇宙船のほぼ倍の大きさのアモンは全長225メートル、半円錐ハーフコーンシルエットを基本に、艦首部が喉袋を膨らませたペリカンの頭部のような形状をした翼胴連滑艦殻ブレンディッド・ハルで、黒檀色エボニーブラック亜麻色シャンパンゴールドのアクセント・ラインが入っている。

「動力システムの大気圏航行モードへの変更完了、外部環境データをリンク。電波索探警戒システム起動、火器管制を大気圏モードに移行、艦内環境のキャリブレーション実行中。大気圏内航行への変更シークエンスを終了、現時点において異状なしオール・グリーン

 そのアモンの艦首先端部ステム・ブロックに位置する艦橋ブリッジの中に、可愛らしいが妙に乾いて抑揚のない声が上がる。

「スピノザ航空管制からの指定航路を確認。現状の降下速度を維持」

 艦橋ブリッジ内の最前部、半円形に一段下がった中央で、シートに座る1人の乗艦員クルーだった。目を引くのはその容姿で、どう見ても10歳前後の地球人テラン女の子にしか見えない。瑠璃色の瞳に白磁色の肌、スキンヘッドも可愛らしく、1世代前の気密服ようなスーツ姿で、忙しく手を動かすわけでもなく、じっと正面を見つめている。その視線の先には惑星スピノザの立体画像が浮かんでいて、現在の位置情報を映し出し、その背後のスクリーン・ビジョンには、先行降下する伏せる獅子を思わせる宇宙船が映っていた。

「管制監理ラジオ通信帯域に、アルケラオス宙航管制通信を受信。電離層下中央管制通信域の指示を受信。通信域を確保します。通信プロトコルをダウンロード、リンクして開放します。ローカル・コミュニケーション用の専用使用帯域を申請、許可エリア確認、許諾、確保します」

「良い子ね、ベアトリーチェ。いつもの通り、猥談専用に使えそうな帯域を設定して頂戴」

 そつのない古参ヴェテランのようなベアトリーチェの報告に、後ろから声が掛かった。

 ベアトリーチェの左後ろ、操艦担当パイロットシートに腰を落としている、胡桃くるみ色の肌をした女性だった。顎周りの髭のような柔らかい産毛と尖った耳の形は、キュラソ人の典型的特徴だ。

「ネルガレーテ、編団内通話インカムにはホッピング・プログラムを掛けますか?」

「勿論よ。何処かのペロリンガ人のお上品な会話が当局に筒抜けになったら、グリフィンウッドマックの評判がまた落ちるもの」

白橡しろつるばみ色もふんわりしたハイレイヤーのセミロング・ヘアを軽く掻き上げ、ネルガレーテは鰾膠にべもなく言い放った。

「待て待て待て」声を上げたのは、見た目にもハンサムな、紺青こんじょうの長い髪をしたペロリンガ人だった。「俺がいつ落とした? それに、また、って何だよ? 品行方正を絵に描いたようなこの俺が」

「ジィク、あんた、それ本気で言ってる?」ネルガレーテが、キュラソ人独得の尖った耳をぴくぴくさせた。「あんたって不埒な下半身を、脳みそが押さえられないでしょうに」

「何を言う、ネルガレーテ」ジィクが、何故か当然と言わんばかりに言い切った。「脳みそも下半身も、常に真摯だぞ」

「若く麗しいご婦人方に、でしょ」

「違う。優しくて献身的で、誰かみたいに毒舌をはかない、若く麗しいご婦人方に、だ」

「あら、ベアトリーチェ、あんたのことを言われてるわよ」

「はい、ネルガレーテ」振られたベアトリーチェは、一向に意に介さない。「編団内通話インター・コミュニケーション用回線を確保、ホッピング・プログラムを設定しました」

「よかったわね、ジィク」

 たしなめるような口調のネルガレーテと、憮然とした顔付きのジィクが着込んでいるフィジカル・ガーメントの、右袖プロテクション・ガードに仕込まれた通信用ディスプレイ内に、小さなサインが浮き出すように2度明滅し、ホッピング通信設定が終了したことを告げる。

 ホッピング・プログラムは、周波数を頻繁に自動変更することで、通信に対する妨害や傍受を忌避し秘匿性を確保するための接続方式だ。

 外から国家惑星に進入した場合、一般的には国家からは通信管制下に入ることを強要される。どの惑星においても周波数資源は有限なので、電離層下での勝手な電波発信が制限されるのだ。

中央管制通信は、外来者が公共サービスとコミュニケーションを取る場合や国内フライトにおける管制を受けるための通信で、いわばその国の行政機関からの指示を受け取るための通信回路だ。一方ローカル・コミュニケーションの専用使用帯は、この場合グリフィンウッドマックの編団レギオ内通信通話用に貸与される帯域のことで、これも申請時に割り当てられる。

 ところがこの2つは、政府内の通信管制システムですべて常時傍聴されている。つまり通信の内容が、政府側に筒抜け状態なのだ。

 傭われ宇宙艦乗りドラグゥン連中は、こんな紐付きの通話を最も嫌う。易々やすやすと手の内をさらすほど、ドラグゥンは正直者ではない。違法を承知で、自分たち専用の通信回線とシステムを、許可された帯域とは別に勝手に構築するのが常だ。そんな身勝手な通信を行っていることがたとえバレても、防諜と秘匿性を高めるための通信手段が、ホッピング・プログラムなのだ。

「──けど、この前の太陽系国家ウルの入国管理イミグレーション審査中みたいに、担当役人オフィサーをナンパしないでよ。あれでどれだけ時間を取られたと思ってるのよ」

「良いじゃねぇか」ジィクが少しばかり不貞腐れたように返した。「ちゃんとデイトの約束は取り付けたんだ。大成功だろうが」

「あんただけなの、良い目したのは」

「嘘つけ。特産の特上蒸留麦芽酒ウイスキーを、彼女からこっそり脱税で手に入れたのは、どこの誰だ、この蠎蛇うわばみキュラソ」

「何を言うの、全く舌の貧しいペロリンガね」しかしネルガレーテは、かちんと来るどころかも得意そうに柿色の瞳を丸めて言った。「あのシングル・モルトは、テラの幻の八条ナイル大麦の遺伝情報を元にした麦芽だけを使っている上に、シェリー樽のファーストフィルなのよ! 今どきそんな酔狂なものが手に入るのはウルだけなの、分かってる?」

 毒舌を浴びせあう2人をよそに、ベアトリーチェが黙々と仕事をこなす。

「08-08の方向から接近する輝影ブリップが3つ、距離300キロ、速度マッハ1.4、相対速度プラス0.6。約22分後に会合します。すべてアルケラオス空軍所属の随伴護衛機エスコートと確認しました」

「──あら、何て手回しの良い」真顔に戻ったネルガレーテが、隣の空席になっているシートを横目に見ながら言った。「んじゃ、ラ・ボエムに回線を繋いで頂戴」

 アモンの艦橋ブリッジは決して大きくない。

 その代わり艦橋ブリッジ自体は耐衝撃鋼材の独立した球状構造になっていて、残存性が極めて高い。中央を走る斜行梁インクライン・ビームを中心に、制御卓コンソールユニットが5つ、賽子ダイス5の目シンク状に立体的に配置されてある。いずれも肩口まで制御卓コンソールが取り囲む、卵の殻のようなシェル形状の独立ユニットになっている。

 最前列の左舷側が操艦担当パイロット席、ビーム上の梁梯子ラッタルを挟んで右舷側が操艦副担当プロキシー席、その両席中央後方、斜行梁インクライン・ビーム上に架装されたユニットが所謂キャプテン・シートで、本来なら頭領デュークたるネルガレーテの席なのだが、操艦を担うネルガレーテは、操艦担当パイロットシートの方を好んで座る。そして3列目、斜行ビームを挟んで1番高い位置に並んで設置されている2つのユニットの、ジィクが座る左舷側が航法担当ナビゲーター席、右舷側の空席のユニットが機関動力担当エンジニア席だ。

 床面は平面フラットではなく、制御卓コンソールユニット周囲が足場通路スキャフォルディングになっている。球面の艦橋ブリッジ)内壁は、360度全方位ヴィジュアライズド・スクリーンになっていて、外の風景をそのまま映し出す。艦橋ブリッジ前方には、申し訳程度のキャノピー・ウィンドウが開いているが、必要に応じて防護シャッターが降りる。

 空になっている操艦副担当プロキシー機関動力担当エンジニアの2人は今、先を行く宇宙船ラ・ボエムの船橋ブリッジにいる。そのラ・ボエムの、アモンより二回りほど小振りな船橋ブリッジ内の様子が、アモンの艦橋ブリッジ前方、メインスクリーン脇のモニターに映り込む。

「ユーマ、聞いてくれた?」

 ネルガレーテの呼び掛けに、ラ・ボエムのキャプテン・シートに座っている、鈍色の肌をしたジャミラ人が顔を上げ深緑色の眼を向けてきた。

「──お迎えが来たって?」

 ジャミラ人は白目と呼ばれる強膜が角膜と同色なので瞳が無いように見え、頭頂部の皮膚が堅く角質化していて頭髪も無い。両性可現態コンプレックス・バイナリで、現生汎人類ヒューマノイピクスの中では体格の大きな亜種になり、ユーマも上背が213センチの偉丈夫いじょうふだ。アモンでは機関動力担当エンジニアになる。

「こっちの電波索探システムの分解能じゃあ、ヒットしないのよ」

 大きな両肩を、ユーマは軽くそびやかした。肩から下顎にかけての頚椎部が、なだらかな曲線を描いているので首が無いように見える。

「ラ・ボエムの航法関係の艤装は、ナイト・オペラ社って聞いたけど、意外とお粗末ね」

 ネルガレーテは左下に白母斑ほくろのある、艶っぽい口をヘの字に曲げて、スクリーンのユーマを見上げた。

「大気圏航行への移行手順もややこしらしいのよ。アディがずっとぶつくさ言ってるわ」

 ユーマが自分の右に座る地球人テランを見た。首の可動域が狭いため、捻るように腰が連動して、上半身全体が半分ほどその方を向く。

「仕方ないだろ・・・!」

 ユーマが向く先、黒鳶くろとび色の強い癖毛に萌葱もえぎ色の瞳、いかにも血気にはやりそうな若い地球人テランが、頬を膨らませて言った。

「このマニュアル・ガイダンス、聞いてもさっぱり要領を得ないんだぞ。お前たちも一度使ってみろって」

「相変わらずマニュアルに弱いやつだな。テキトーな勘でいじり倒すから解らなくなるんだろ」

 ジィクの言い草は、明らかに挑発を含んだ嘲笑に近い。

「うるせー。手当たり次第なナンパをするお前には言われたくないぞ」

 もちろんアディだって、さらりと聞き流せるほど老獪ではない。

「誰が手当たり次第だ。数多あまたの経験則に裏打ちされた、容姿から推測されうる内的魅力をも熟慮した上での至高のアプローチだ。だからこそ、お前のような下手なナンパ術では、永久に辿り着けない成功率なんだぞ」

「裏打ちするその数多の経験の後始末しているのは、誰だと思っているのよ、エロ・ペロリンガ」追い討ちを掛けるように、ユーマが辛辣な言葉を浴びせる。「この前だって、あんたに捨てられた、って押し掛けて来たバド人の女をあしらう相手をさせられたのよ」

「あれは向こうが勝手に思い込みすぎただけだ」

「ならもっと、別れ際の綺麗そうな女を選びなさいよ、その数多あまたの経験則とやらで」

「ほら見ろ。矢ッ張り手当たり次第じゃないかよ、ジィク」

 そらそら、とばかりに、スクリーンの中のアディが指を差す。向こうのモニター画面には、アモンの艦橋ブリッジ全景が映っている筈だ。

「──あの、ネルガレーテ」

 ベアトリーチェが、態々シートの陰から顔を覗かせて、ネルガレーテを振り返る。

 アディ、ユーマ、ジィクの3人の詰り争いはいつものことだ。ネルガレーテにしてみれば、煩わしいだけで放置しておきたいのだが、つい下手に口を挟んでしまい、いつの間にやら巻き込まれて、知らないうちに自分も詰り合いの渦に加わってしまっている事がしょっちゅうなのだ。

「現在の通話は、アルケラオス当局から認可されたローカル・コミュニケーション専用の帯域を使っています」

 よく気が付くベアトリーチェだが、彼女は生物学的炭素系高度文明類人種カルボノ・キウィリズド・サピエンス、俗に言う人間ヒューマノイピクスではない。

機艦アモンを統括監理制御しているエグゼクティブ・オペレーティング・システムとのインターフェイス・デバイスで、システムの動き回るアバターとも言える。もちろんベアトリーチェ自体は非生命体で、解剖学的な心臓や胃などの内臓器官や生物的脳髄組織を有している訳ではないが、人型機工器ガイノイドと違って皮膚に代謝機能を備え、運動器官が人工培養の生物的組織で構成された被生擬人義工体オーガノイドだ。

「あちゃあ・・・しまった・・・!」

 ベアトリーチェの言葉を聞いて、ネルガレーが思わずほぞを噛む。

「これでまた、お馬鹿で軟派な問題児の集団って、噂が尾鰭を付けるじゃないの・・・!」

「待て、ネルガレーテ・・・!」険阻な表情で、スクリーンの中のアディが叫ぶ。「馬鹿は認めるが、軟派な問題児は俺のせいじゃない。この集中教導チュートリアル・プログラムを組み上げたのだって、きっと男根プリック脳みそのペロリンガに違いない!」

「待て、アディ」受けるジィクが、山吹色の目を見開いた。「問題児を軟派に押し付けるな。馬鹿だから問題児なんだろうが」

「ほら見なさい。ジィク、あんただって、自分で軟派な問題児って認めてるじゃないの」

「違うぞ、ユーマ! 問題なのは馬鹿であってだな、軟派な事じゃないって──」

「もう良いわ、ベアトリーチェ──」

 延々と続きそうな不毛ななじり合いに、さすがのネルガレーテも溜め息一つ匙を投げた。

「それより上がってきた空軍機に連絡を入れて。会合ポイントを設定したら、ローズブァド城までのラ・ボエムの随伴護衛エスコートを交代してもらうから」

 それと馬鹿な会話はミュートして、とネルガレーテは煩わしそうに手を振った。すぐさまベアトリーチェから、随伴護衛エスコート機と音声回線ラジオが繋がりました、と報告が入る。

「──こちらダンジガー基地航空団所属、ゲンブ・リーダー。ようこそ、我がアルケラオスへ」

 アモンの艦橋ブリッジに、実直そうなパイロットの声が飛び込む。慌ててネルガレーテが取り繕うように居住まいを正し直すと、制御卓コンソール接続のヘッドセットを着けた。

入国管理イミグレーションから情報は回ってるとは思うけど、アルケラオス現皇室が発注した御料宇宙船ラ・ボエム、傷一つ付けずに回航フェリーしてきたわよ」

 思いっ切り改まった、ネルガレーテの余所行きの声音に、ジィクがクククと笑いを噛み殺す。パイロットからの応信を聞きながら、ネルガレーテがぎろりと睨んだ。

「長旅ご苦労様です。目的地はローズブァド城と聞いています。後は我々もそこまで護衛エスコートさせていただきます」

 惑星国家が、国内軍を保持しているのは珍しい。

 なぜなら惑星上はすべて自国内であり、不審な航空機材が飛行していたとしても、それは他国からの領空侵犯ではなく、航空法に違反する行為となり、司直が管轄する範疇の出来事に過ぎない。いきなり誘導爆雷弾ミサイルを装備した戦闘機がスクランブル発進する必要はない。 国内で武装蜂起が起きたとしても、それは他国からの侵略行為ではなく、国内法で裁かれるべき凶悪犯罪と位置づけられるからだ。内線状態にでも陥らないかぎり、自国民に対して戦車や戦闘機で対応する、と言ったら、その政府は国民からの信認を一夜にして失うだろう。

 なので惑星上すなわち国内での実力行使組織は、すべて治安維持を目的とした組織しかありえない。惑星国家、太陽系国家において他国家とは、宇宙に存在することになり、他国からの侵略に対する国土防衛機能とは必然的に宇宙軍に集約され、国内事変に対しては飽く迄も治安維持を目的とした、軍ではない司法組織や警察機構などの行政組織が担うことになるからだ。

 アルケラオスが軍隊に準ずる国内航空兵力をいまだ保持しているのは、立憲君主制の政治システムと共に、過去の建国の歴史において内戦を経験した証左であり残滓だからだ。

「そりゃご親切に。んじゃ、ラ・ボエムをお願いしても良いかしら?」

「お任せください。そのために上がってきた我々ですから」

「──やんちゃ坊主と、首無しジャミラ、聞こえた? 後は随伴護衛機エスコートが付いてくれるわ。こっちはサンジェルスのグレースウィラー城に、回航フェリーの報告に行くからね」

「ネルガレーテまで、そう言う?」

 思わず気色ばんだ、ユーマの声が返ってくる。

「だったらユーマくらいは、これ以上編団レギオの評判を落とさないで」

「けど、クライアントの前で携帯用酒容器ヒップフラスコ傾けるよりはマシだと思うのは、あたしだけかしら?」

「見えないところで口を付けるくらいは、気を遣ってるわよ」

「あんたって、見た目と行動にギャップありすぎるから引かれる、って分かってる?」

「魅かれる、の間違いでしょ?」

「うははは、この毒婦カティ・サーク、底なしだわ」

 傍で聞いていたジィクが、茶化すように雑ぜ返す。

「黙れ、男根プリックペロリンガ! 一物メイル・オルガンをちょん切るわよ」

 さすがのネルガレーテも柳眉を逆立て、目を三角にして声を荒げた。

「ネルガレーテ」

 不意にベアトリーチェが声を上げた。

「新たな輝影ブリップを3つ確認しました。アルケラオス空軍の敵味方識別問信フレンドリー・オア・フォーに応答しない正体不明移動体アンノンです。距離500、03-04からマッハ0.8で接近中。相対速度1.1、会敵エンゲージは21分後です」

「──画像解析は?」

 さすがにネルガレーテも、巫山戯ふざけた会話を打ち切る。

「コパスカー・ミリタリー社の大気圏戦闘機テロチルスと識別しました。部隊章インシグニアを確認できません」

「またお粗末な機材ね。宮枢きゅうすう府が留意事項に上げていた、何とかの未来、って言う革新過激派リベラルジャンキーかしらね?」ネルガレーテが呆れたように声を上げた。「だとしたら、狙いはラ・ボエムね。それで兵装は?」

「機首の固定レーザー砲と、翼下ステーションに空対空誘導推進弾ミサイルを装備しているようです。迎撃行動インターセプトで最大8基を運用できますが、画像解析から短距離射程ショートレンジを2発と推測します」

「んじゃ、余裕じゃないの。ベアトリーチェ、こっちも迎撃態勢を取って、ラ・ボエムには予定通り降下を続行するように伝えて」

「ゲンブ・リーダーより回航フェリー隊へ」急き込んだ声が、アモンの艦橋ブリッジに響き渡る。「正体不明移動体アンノンを排除対象と認定。これから迎撃行動インターセプトに移る。ラ・ボエムはそのまま管制に従って、予定コースを航行されたし。御料船には絶対に近づけさせません・・・!」

「あ、ちょっと待って、ゲンブ・リーダー・・・!」

「回線切れました。通信管制に入ってます」

「もう、せっかちな兵隊さんね!」ぶぅと頬を膨らませるネルガレーテが、横のペロリンガ人に振り向いた。「──ジィク・・・!」

合点承知の助オゥキー・ドゥキー

 そう言うが早いか、ジィクは制御卓コンソールユニットを蹴り出ると、艦橋ブリッジ後ろの隔壁通口バルクヘッド・パスへ走り込む。



★Act.1 花嫁救出・1/次Act.1 花嫁救出・2


 written by サザン 初人ういど plot featuring アキ・ミッドフォレスト

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