第4話 ヒーローに一番必要なのはキ●タマ

 説明しよう!

 ヨシダ・ハナコは女子だから、変身後の体型は男性っぽく調整してるのである!

 声がタロウベースだから、そりゃそうよ!


 なお、これらの調整はナビコではなく俺自身による調整だ。

 クソ変態改造マニアがいつの間にか俺に改造付与していた潜入用機能の一つだ。


 この機能により、俺は身長、体重、体型、声質などをある程度調整できる。

 でも変形と呼べるほどの変形は、さすがに不可能。

 ハナコの肉体年齢の影響によって、変身後の声もタロウそのものにならなかった。


 三人娘には、十代後半の少年の声に聞こえているだろう。

 これで、俺を男と思ってもらえればよし。異世界では、正体不明のイセカイザー!


 それでは、戦闘開始と行こう。

 GoToBreak! イセカイザー!


「とォう!」


 岩山を蹴って、輝く太陽の下、華麗な空中一回転を決めて、着地!


「Garuuuu~~……?」


 それに合わせてこっちを見るデカワンコの一頭に、軽くガンを飛ばしていくゥ!


「……Grrrrrr! Gaaaau!」


 デカワンコがビクッとなって、ジャンプして上から襲いかかってくるゥ!


「ダメだッ! 逃げろ! ギガスハウンドの牙は分厚い鉄の扉もブチ抜く――」


 レンが俺のことを心配して教えてくれるゥ!

 しかァ~し、俺は慌てず騒がず、膝を曲げ体を前に傾けタイミングを合わせるゥ!


「俺の拳は星をも砕く! セイカイ――、いや、イセカイアパカッッ!」


 それはそれは見事な弧を描き、放たれた俺の必殺アッパーカットォ!

 その拳が、ギガスハウンドとかいう生意気な名前のワンコのあごに突き刺さるゥ!


「Kyaiiiiiiiiiiiiii~~~~nnnn…………」


 キラ~~~~ン!


 尾を引く悲鳴をその場に残し、俺を襲ったワンコは空の果てに消え、星となった。


「「「…………え?」」」


 レンとニコとリップが、揃って空を見上げて声を揃えた。

 何だいお嬢さん方、そのリアクションは。まだ戦いは終わってないぜッ!


「俺のキックは月を割る! イセカイ上段右回しキィィィィィィィィック!」

「Kyaiiiiiiiiiiiiii~~~~nnnn…………」


 キラ~~~~ン!


「俺の崩しは大陸の重心すらも傾かせる! イセカイ背負い投げェェェェェ!」

「Kyaiiiiiiiiiiiiii~~~~nnnn…………」


 キラ~~~~ン!


「俺の回転は地球の自転を加速させる! イセカイジャイアントスイングゥ!」

「Kyaiiiiiiiiiiiiii~~~~nnnn…………」


 キラ~~~~ン!


「さぁ、来るがいい! 邪悪なモンスター共よ! このイセカイザーが相手だッ!」


 フハハハハハハハハハハハハハハ! 軽い、体が軽いぞ! 

 何だ、これは! 一体どうしたことだ! 俺の体が羽毛のように軽やかだ!


「そうか、これが『俺の平和』を守るための戦いだからか」


 それに気づいて、俺は強い納得を覚える。

 誰も期待も背負っていない、俺の判断による、俺の戦い。だから体が軽いのだ。


 ――とか思って「うむ」と深くうなずいていたら、


「Kyaiiiiiiiiiiiiii~~~~nnnn…………」

「あ」


 デカワンコの最後の一頭が、尻尾を巻いて逃げていった。

 というか、残り一頭だったことに今気づいた。ヤベ、楽しく戦いすぎたわ……。


 追いかける必要は、ないだろう。

 これは『俺の平和』を守るための戦い。殲滅が目的ではないのだから。


 ワンコが景色の果てに見えなくなったところで、俺は振り向く。

 そこには、こっちをジッと見つめる三人娘の姿があった。


「……おまえ」


 沈黙は短く、口火を切ったのは金髪美少女剣士のレンだった。


「見覚えがないけど、一体、どこの騎士見習いだよ?」


 ……ふむ、キシ見習い。


『キシは、地球の騎士と同じ意味と思っていいですよ~!』


 今はスクリーンを出していないが、ナビコが思念通信を送ってくる。


『この異世界の情報を集め終えたのか?』

『ですです! 非常にザックリとではりますけどぉ~!』


『報告ヨロ』

『ではでは! この世界は基本的に中世ヨーロッパに近い文明水準をしているようですねぇ~。中世という言葉は意味が曖昧過ぎるところもあるので、西ローマ帝国滅亡後~十六世紀前後くらいの文明と思ってもらえればよいかと~』


 いやいやいや、広い広い広い。それだって十分範囲広すぎるっての。


『そ、そんなに地域によって文明的な格差があるんか……?』

『ですです。というのも、この世界、すでにお気づきかとは思いますが『魔法』が実在しているようですねぇ~。そして、地域によってその魔法技術の発展具合に差があって、それが各地域の発展度合いに直結してるみたいなんですよぉ~』


 ……やっぱり魔法があるのか。いや、でも、待てよ。


『世界全体に魔法があるのに、何でそんなに地域ごとに差が出るんだ? 外部からの技術の流入とかが起きにくい要因が何か――、あ、もしかして、モンスター?』

『そういうことですねぇ~』


 気配のみだが、ナビコがうなずく。

 モンスターという、地球にない人類外の脅威が各地域の交流を妨げているのか。


 だから、各地域は大枠で陸の孤島と化しており、そこに差が生じる。と。

 地域ごとの文明格差は、地球の先進国と発展途上国のそれよりもっと大きそうだ。


『対モンスター用の技術が特に発展していて、その分野では場合によっては二十一世紀の地球よりも技術水準が進んでることもあるようです。いや~、いびつですね!』

『地球とは違う世界だ。それでも人類が頑張って生き繋いできた証だよ』

『ですですねぇ~!』


 ふむ、文明形態は中世ヨーロッパに近く、文明水準もそれに準じる。

 ってことは、立憲君主制に至る前。主な国家形態はバチバチに封建制ってとこか。


 ひとまず、これにてナビコからの報告は終了。

 俺の思考を高速化したことによって、かかった時間は一秒未満だ!

 会話再開。俺はまず改めて名乗る。


「我が名はイセカイザー。訳あって今は主を持たない遊歴の身の上だ」

「遊歴の騎士ィ~?」


 と、レンが俺のことを胡散臭そうな目で見てくる。

 テキトー言ったが、遊歴の騎士という身分はちゃんと存在するようだ。よしよし。


「レンちゃ~ん、助けてくれた人に失礼だよぉ~!」

「そうよ、レンティ! まずはお礼を言うところからでしょ! ……痛ッ!」


 レン――、正しくはレンティという名前らしいが、他二人から叱られてやんの。

 だが、レンティはちょっと戸惑ったような顔をしながらも反論する。


「だ、だって、何が目的かわからないじゃないかよ~!」

「おバカ! それでも助けてもらったのはニコ達でしょ! お礼しなさいったら!」

「はぁ~~~~い……」


 ニコに二度も叱られて、レンティは見るからにショボンとなった。

 見た目、一番ちっさいのに、この三人のまとめ役はニコであるようだった。


「ありがとぉございましゅうぅ~……」


 さっきまでの勇ましさはどこへやら、レンティは肩を落として頭を下げる。


「あの、ぁ、ありがとうございましたぁ~!」

「本当に助かりました。ありがとうございます、仮面の騎士様」


 合わせて、リップとニコもしっかりと下げてくる。

 だが、残念ながら今の俺は感謝されるということに価値を感じることができない。


 むしろ、俺から搾取し続けてきた『罪なき人々』を思い出して、逆に腹が立つ。

 しかし、ここで気分をささくれ立たせるのも、それはそれで違う。

 なのでまずは、彼女達三人に助けたことへの対価を要求しようと思う。


「礼には及ばない。だが、それでも感謝してくれるというのであれば、ここから一番近い街の場所を教えてくれないだろうか? 実は、道に迷ってしまってね!」

「え? えぇ~っと……」


 声高に主張すると、道を教えてくれたのはリップだった。


「こ、ここからあっちに少し進むとぉ~、街道があってぇ~、その街道を西側に進めばパルレンタの街がありますよぉ~。私達のホームなんですぅ~」

「そうか、ありがとう! 勇ましきいんら……、ゴホン、ピンク髪の少女よ!」


 あっぶね、淫乱ピンクって言いかけたわ。

 さすがにそれは無礼も無礼。ケンカ大安売りな行為すぎる。


「ところでさ、騎士さん、回復用のポーション持ってるだろ。一個、欲しいんだ。ウチのニコが足ケガしちゃってさ。わたし達、ダンジョン探索の遠征帰りでポーションも魔力も使い果たしちゃったんだ……。後払いでも代金は払うから、どう?」


 レンティがそんなことを言ってくる。俺は、固まってしまう。


「……回復用の、ポーション?」


 回復用のポーションとは、何だい?

 え、回復用アイテムって普通は『やくそう』とかじゃないの? 違うの?


『情報収集中でぇ~~~~す!』


 ナビコもこの通り。つまり、現時点ではわかんないってコトだァ~~~~!


「すまない、ない!」

「え、遊歴の騎士なのに、常備してないの!?」


 驚かれてしまった。そうか、この地域では外を歩くなら必須の品ということか。

 そして、うむ、これ以上はマズいな。ボロが出かねない。


「おっと、そろそろ私は行かねばならない! 急ぎの用事があってね! 君達もくれぐれも気を付けて街まで戻るんだぞ! では、さらばだァ~~~~!」


 脱兎。ドヒュン!


「あ」


 聞こえる呆気にとられた声。

 変身時の俺は100mを計測不可能の速度で駆け抜ける。よぉ~し、逃げ切った!


『か~ら~の、変身解除! そして、ナビコ!』

『は~い、『環境迷彩』をハナコさんの周囲5mに展開しま~す!』


 俺はハナコに戻ったのち、すぐに姿を隠して走った距離をUターンして戻る。

 すると、三人娘は揃ってイセカイザーが走った方を見つめたまま、固まっていた。


「な、何だったんだ、あいつ……」

「すごい、速さで走っていきましたねぇ~……」

「助けてもらった身の上で言うのも失礼だけど、変な人だったわね……」


 ニコに変人扱いされてしまった。何故だ。

 いや、そんなことはどうでもいいのだ。いずれ確認するとして、今は置いておく。


 俺が戻ってきたのは、この三人と改めて接触するためだ。

 街に行ったはいいものの、よそ者は入れない。なんてことになったら面倒だ。


 潜入すればいいんだろうが、何が悲しくてそんなコソコソしなきゃならんのだ。

 生まれ変わった俺は、これから堂々とこの世界で自分の人生を生きていく。


 だったら、街に入るときだって普通に入り口から入りたいわ!

 だから、俺はこれからどこかから逃げてきた気弱なハナコちゃんになりま~す!


 近くの岩陰に隠れて『環境迷彩』を解除。

 その上で地面の土を少しだけ顔に塗りたくって、逃げてきたっぽさを演出。


 それでは、ここから演技を開始する。

 ヒーローに最も必要なモノはキモタマ。別名、キモッタマ! 緊張など敵に非ず!


「ぁ、あの……」


 体温を低く調整して顔色を青くし、俺は声を震わせながら岩陰から出た。


「え、誰!?」


 レンティが腰の剣に手をかけようとする。

 警戒が先に来るのは仕方がないけど、怪しまれてしまうのもよろしくない。

 俺は思い切って、気絶することにした。


「助け、て……」


 顔色最悪のままそれだけ言って、俺はその場に倒れ伏す。

 そして、俺は意識を途絶する。


 さぁ、どこからどう見ても逃げてきた儚い美少女な俺を助けるがいい、冒険者共!

 放置だけはしないでね。絶対だよ、絶対だからねッッ!


 ――ヨシダ・ハナコ、スリープモードに入りま~す。……ZZZ。

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