第4話 お風呂とはなんでしょうか?

 マキネと話していたらいつの間にか23時を過ぎていた。


「しまった。そろそろ寝る準備しないと明日に響くな」


 風呂に入らないと。


 あれ? そういえばマキネは風呂に入るのだろうか?


 女性だよな……一応。気まずいな。


「マキネは風呂入るのか?」


「フロ?」


「お風呂だよ」


[お風呂とはなんでしょうか?]


 全部説明するのも中々大変だな。


 マキネに風呂の説明をする。その度になぜ入る必要があるのか。なぜ夜に入るのかと説明を求められる。納得して貰う頃には15分ほど経っていた。


[入ってみます。いいですか?]


「いいよ。服はそこの脱衣所で脱いで。着替えは申し訳ないけど、これ」


 自分のTシャツとジャージをマキネに渡した。俺の服を着ることに抵抗感があるかと思ったけど、彼女は特に疑問を持つ様子も無く服を受け取った。


「頼むからさっき説明した通りにしてくれよ」


[裸を見せてはいけないのでしたよね? 隠すことは生殖にとって全く意味が無い行為だと思いますが]


「は? 君は何を言ってるんだ?」


[ユータは私と生殖活動をしたいからこの家に招いたのでは無いのですか?]


「そ、そんな訳ないだろ!」


 思わず焦ってしまう。というかなぜ俺は焦っているんだよ。相手はクリオネ似の地球外生命体だぞ?


[そうですか。そうだと思っていました]


 マキネは顔を青く光らせると、脱衣所へと入っていった。



◇◇◇


 マキネが風呂から出て来る。俺のTシャツを来た体は無防備に体のラインが出ていて思わず目を逸らした。俺、変になったのかな。


[ユータ]


 マキネが急に近づいて来る。さっきまでは何ともなかったのに、彼女からシャンプーの香りがすると急に心拍数が上がった気がした。


 反射的に視線を逸らすと胸元に目が行ってしまう。完全に人の形である控えめな胸は、男性サイズのTシャツの襟元から覗いていて、また視線を逸らした。


「ど、どうした?」


 彼女は背けた俺の顔を両手で掴むと真っ直ぐ自分の顔へと向け、俺の額に自分の額を当てた。


[本当にありがとう。感謝致します]


 彼女の言葉に目を閉じる。額に感じる彼女の存在は、ほんのり暖かくてフニフニと柔らかい感じがして、凄く気持ちが良い。


[生殖活動なら、いつでも]


「そ、そんなつもりは、無いから! から、その……」


 彼女が言いかけた言葉を遮るのに必死になってしまった。


◇◇◇


 俺のベッドをマキネに譲って洗濯をする。夜中に洗濯機を回すとは……隣人には申し訳無いけど今洗ってしまわないと明日マキネの着る服が無い。ドラム式洗濯機の乾燥まで予約してしまえば朝には乾いているだろう。


 マキネの着ていた服を触る事に妙に緊張感を持ってしまう。今日だけで散々感じだ事だけど、俺はマキネを人間の女性と同列に認識してる気がする。本当に俺はどうしてしまったんだろう。


 黒いパーカーに薄手のボトム。それに……女性物の下着。女性物の下着洗うなんて初めてだ。


 極力見ないようにしてネットに入れる。


 ボトムを洗濯機に入れようとした時、ポケットに何か入っている事に気が付いた。


 悪いと思いつつポケットを漁る。すると、そこから身分証が出て来た。顔写真の載った運転免許証。


 名前は……。


[ユータ。何をしているのですか?]


 急にマキネに話しかけられて心臓が止まりそうになった。


「あ、いや……何も」


  咄嗟に免許証を自分のポケットにしまう。


[ユータは寝ないのですか?]


「これだけやったら寝るよ」


 洗濯機をセットして部屋に戻る。ベッドの下にクッションを並べてその上に寝転んだ。バスタオルを被ってリモコンで部屋の電気を消す。冬じゃなくて良かった。もう一つ布団とマキネの服を買わないとな。


 そんなことを考えていると、いつの間にか眠ってしまった。

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