8 夜の戦闘


 暗い夜のタール空港に船は着陸した。こちらも無人空港だが、ケララより規模は小さい。空港事務所も、掘っ立て小屋のようなレンガの小さな建物が、建っているのみだった。


 船を下りてからナギがディヤーヴァに聞く。

「あんた、俺のことインティとか言ってなかったか?」

「ぼうず。インティと分ったら狩られる。滅多に口にしない方がいいぜ」

 その言葉にナギは息を呑む。

「俺、その所為で狙われてるのかな……」

「違うな」


 ディヤーヴァはナギの身体を後ろに庇った。空港事務所の方から男が二人のっそりと出て来た。あの嫌な気配が押し寄せてくる。

「あいつらだ」


 ディヤーヴァが腰の剣をすらりと抜いて構えた。剣が光を帯びる。

「よお、俺たちはあんたには用事はないんだ」

「大人しくそのガキを寄越せば、命だけは助けてやる」

 男たちが代わる代わる言った。

「ほお、逃がしてくれるのか」

 男たちが武器を構えたままジャッと詰め寄る。


「一つ教えてくれたら渡してもいい」

 ゆっくりと油断なく間合いを取りながら、ディヤーヴァが聞く。

「何だ」

「何でこんな、ただのガキを追い掛け回しているんだよ」

「そんなこたあ、あんたには関係のないこった。大人しくそのガキを置いて行け」

「あいにくだが俺は情が深いんだ。一回寝たからには優しくしてやらんとな。ましてや、これからも可愛がってやろうと思っている奴は特にな」


 ディヤーヴァのあきれた言い草に男たちの唇が歪む。その一瞬の隙を逃さなかった。剣が闇をビュウッと引き裂いた。

 ケララの町で見たよりもずっと強い衝撃波が、男たちに向かって走った。遮るものは何もない。もろに男たちに当たった。男たちがダッと倒れる。


 ナギをその場に残して、ディヤーヴァは男たちに向かって走った。男たちはすぐに起き上がって銃を構えて撃ち返して来た。ダダダと銃の音。足元の地面が弾ける。耳元を、身体の側を銃弾が掠める。ディヤーヴァは横に転がって、そのままの体勢で剣を一振りして衝撃波を送った。


 まともに入ったのかギャッと男の悲鳴が上がる。ディヤーヴァは声を上げなかった男の方に向かった。男がダダダと銃を撃ってくる。弾が身体を避けていく。

 早い。そのまま衝撃波を放った。ギャッと断末魔を残して、男の身体が跳ね上がる。その時だった。


 もう一人の男が起き上がって、ディヤーヴァに銃身を向けたのだ。身構える暇はなかった。ダダダッと銃声が響く。

 しかし、弾は外れて離れた虚空に飛んで行った。ナギが男に体当たりしたのだった。


「クッソー!!」

 男はナギに銃を向けた。しかし、ディヤーヴァはもう体勢を整えていた。

「死ねよ」

 剣が一閃して、男は声もなく地面に転がった。

「し、死んだの?」

「さあ、ドールはしつこいからな」

 ディヤーヴァはナギを抱き起こしてそう答えたが、男たちが動き出す気配はなかった。


「早いとこあのボロ船を修理して、ここから逃げ出そうぜ」

「一緒に行ってくれるの?」

 ナギの嬉しそうな顔を振り返って、ディヤーヴァは溜め息を吐いた。

「まったく、とんでもない物を拾っちまったぜ」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る