第37話 「行かない」
「イダ! イダダダ!! ちょっと待って、全員お尋ね者ってどういう事なの!?」
重症の私を殴打するこいつらは、情け容赦なく喚き散らす。
「私たちはッ、SSSランク凶悪指名手配犯であるお前の
「やめ、やめて
「おのれ下民の
「お前達が私に付きまとうからだろぉおおお!!!」
「しかも何処ぞでコソコソ内通しているとっ! どっかから情報が垂れ込まれやがった! いま聖魔教会の奴らは血眼になって俺たちを探してんだぞ、どうしてくれんだ!」
「勝手に押しかけて来といてなんて言い草だよ、知らねぇよ!」
「このままじゃ白狼を聖魔教会に突き出そうにも、オラたちも一緒に捕まっちゃうんだど〜」
「……ん? て言うかバカオーク! お前さっき毎日プリン抱えてうちに来てるとか言ってたよなぁ、この状況でノコノコ外出歩いてんじゃねぇよ! 町の人たちに見られたら一巻の終わりだろうが!」
するとそこで、転移の魔法陣が部屋の隅に現れ、そこからパラディン後藤が姿を現す。
「今戻ったぞ――
「くぅわぁあ、まためんどくせえ奴が来やがった!」
「その心配は必要ないぞ白狼! 物資の調達は、同じくお尋ね者の僕が定期的に行なっている! はいガドフ、頼まれてたプリン100個」
「お、ご苦労だど可哀想なガキ〜。料金は
「勿論だ! 失業スレスレだったプリン屋の店主が泣いて喜んでいたよ、これぞ町を救う
「ふざけんなぁあ! うちに付けるんじゃねぇクソガキ!!」
がなり立てると、私はみんなに白い目で見られている事に気付く。
「おめぇ白狼〜、この前この可哀想なガキに、瀕死のところを救ってもらったのを忘れたのかど?」
「しかもこの子は、その行動が原因でお尋ね者にされたのだぞ。どういう神経してるんだ白狼」
「え……え……」(オロオロ)
「おいコラ、今俺たちの
「先日の『町喰い』の一件で、彼は町人の心をすっかり
「すみません。パラディン後藤くん」
(いや、あのタコぶっ飛ばしたの私だろうが)
「で、でもみんな、それならこれからどうするの? 聖魔教会に睨まれたんじゃ、もう逃げる事しか出来ないよ」
そこまで言った途端、周囲から深いため息が漏れる。
「そんな単純な事だったら、とっととパラディン後藤のテレポートで、借金もろともこの町をおさらばしてるわ」
「そうかお前寝てたもんな〜……ああもう、俺が説明してやる。今回の声明を出した中部管区聖魔教会のトップ。〈司教〉のモルディが、好き勝手に俺たちの罪をでっち上げた挙句、いけしゃあしゃあとこんな特例まで言い放ちやがったんだ」
「特例……?」
「お前の反逆行為が単独での行動と言うならば 、
「え…………」
……同じ場所に、来い?
フリーズする思考。にも関わらず、彼らは続けていく。
「素直に応じれば、お友達の罪は取り下げてやる。だとよ」
「それにこうも言ってたど。白狼を隠し立てる町人は反逆者として
「つまり、このままでは町の人々にまで悪モノの魔の手が迫るという事だ! 揺るぎない
――待って……待って待ってちょっと待ってよ!
それって、この前モルディが私をボコボコにしたあの河川敷に、今から4日後にまた来いって事……だよね?
そんなの……罠に決まってる!
私の恐怖心などつゆ知らず、男共はまた喚き立てる。
「いけぇええええ白狼! どう間違ってもそこにいけぇええ!!」
「オラたちの明るい未来が掛かってるんだど。ニュースを見た村の母ちゃん、きっと泣いてるど」
「高貴な私がお尋ね者など! 絶対にあってはならない事だとお前の低脳でも分かるだろう!」
「い、いやに決まってるだろうそんなの! 絶対罠じゃないか!」
すると思案げに顎に手をやった風香ちゃんが口を挟む。
「〈司教〉……いいやモルディは、出世欲の塊みたいな男だ。おそらくは、国家
「……っ」
「おそらく全世界に生中継するカメラを持って来る筈。そこで白狼を完膚なきまでに敗北させ、近畿管区と関東管区聖魔教会にだけ居る〈大司教〉の座を奪おうと……いいや、強欲なあの男ならもっと上、全聖魔教会のナンバー2〈
「…………っ」
――モルディ……あの恐ろしい、悪魔のような男の元へと、もう一度行けって言うのか?
そんな事、出来る訳ないじゃないか。なんでみんな自分の事ばっかりで、そんなに他人事なんだよ!
瞬間、恐怖に引きつった脳裏にフラッシュバックする
『外の世界に出て来るんじゃねぇ……一生日の当たらねえ暗がりでぇ、震えながら引きこもってろぉ』
……みんな、アイツの恐ろしさを知らないから、そんな事が言えるんだ!
私の気も知らないで、スライトは言う。
「約束を守りさえすれば俺たちの罪は解かれる訳だろう? だったらその後は関係ねぇ、全世界に向けた生中継で、逆にモルディの野郎の泣きっ面を見せつけてやんだよ」
「あの悪モノの事だ。懲らしめないと、またどんな言い分をつけて罪のない人を指名手配するか分からないからね。それも
パラディン後藤の言葉に、皆がウンウンと頷きながら私を見る……
「……………………」
「ん……? 何だんまり決め込んでんだ白狼。誰のせいでこんな事になってると――」
「――
「は?」
「え?」
「お?」
「みんながどうなったって知らない……私はもう、
もう誰の声も聞きたくない私は、三角座りをして、膝に深く頭を埋めたまま、貝のように動かなくなった。
ビシバシと身体中を蹴られても、ちっとも痛くなんてなかった。もう何も聞こえない。
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