第35話 蛾


   *


 最初はみんな同じだった……

 私たちを包んだまゆの無数の中で、みんなが同じように、そこから飛び立つ準備をしていた。


 温かい繭に包まれながら、いつまでもそこに居たいという思い。

 けれどそれと同時に、日々つのっていくへの好奇心。


 いつしか……繭を破り、羽を開く者達が現れ始める。

 危険ひしめく外への好奇心に押され、どこよりも安全なこのを飛び立つ。


 ……私は、そんな彼らの気持ちがわからなかった。

 理解する事ができなかった。

 ここに居れば、いつまでだって安心していられるのに。

 外の世界に出れば、あらゆる危険が私たちを襲うのに。

 鳥に食べられるかも知れない、羽が傷付いて飛び立てなくなるかも知れない。

 それなのに……


 私の繭に何処までも並んでいた仲間達……

 彼らは、一人、また一人と、まるで競い合うかのように……

 勇敢に空へと飛び立っていった。


 私は一人、破れた繭の中に取り残される。


 もう誰一人として仲間はそこに居ない。

 私一人だけが、そこに居る。


 別にどうとも思わなかった。

 みんなバカだとさえ思った。

 私は居よう。

 いつまでもここに居続けよう。

 そう思った。



 ……だけど私の成長に合わせ、繭の中は次第に窮屈きゅうくつとなって、


 苦しかった。


 けれど、それでも私はこの繭を出られないでいた。


 そこから出ようにも、堕落だらくした私の手足にはもう、繭を破るだけの力が残されていなかった……

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