第33話 『銃』の勇者モルディ襲来


 いつの日か、モルディで白狼を滅多撃ちにした日の報いであろうか。(ゲームの話だけど)


「今度は逃がさねぇよぉぉ? えぇぇ? 俺の聖魔教会をぶっ壊してくれた礼ぃ、今ここで返させてもらうぞぉぉ」


 地響きが起こる様なねちっこい声で、土手を降りながら私に銃口を向ける男は、魔王を討伐したが内の一人、紛れも無いまでの『銃』の勇者モルディであった。(こ、怖え)


「に、逃げなきゃ」


 始めっから激怒している様子の彼は、先日私が聖魔教会の一階部分をブッ飛ばした時の報復に来たらしい。

 ……ていうかこいつ、中部管区聖魔教会の〈司教トップ〉だったのかよ。知らねえよそんな事。こちとら何年も引きこもってゲームやってたんだ。


「ふ……ふふふ」

「あぁあ? なぁに笑ってんだ白狼ぉぉ」

「でも大丈夫。10大勇者の単体最強は『力』の勇者白狼白狼……つまり私だ。逃げるなんて訳ない筈」

「ぶつくさぶつくさぁぁ。なぁぁにを言ってんだテメェ」


 ――ジャキリと、右腕と同化した銃口が私の顔面を狙いすます。


「念仏でも唱えてやがれ――」

「ウゥッ――来る!!?」


 全力で横に跳ねたその瞬間、そこにあったベンチが、普通ではない威力の弾丸で木っ端微塵になった――


「ヒィイいい!!!」

「どうした白狼ぉぉ、お前なら体をよじる位で避けられた筈だぁぁ……まぁぁた俺をおちょくってんのかぁ? ――ナァアッッ!!」

「チガイマスッテェエ!!!」


 降り注ぐ銃弾の嵐は、全力で飛んで跳ねてもまだまだ止むことが無かった。キレイに整備された河川敷が、一気に荒れ果てていく――

 その内の何発かを避けきれずに被弾した。うずくまり、痛みにのたうち回っていると、私をいたぶるかの様に、銃弾の追撃も止んでいた。


「ウワァアっ!! 一イッヅダぁ!!!」

 

 これまでどんな攻撃も跳ね返し、ダメージを残す事の無かった鋼の体から血が流れている。初めて体験する痛みと恐怖に、私は泣き叫ぶ事しか出来なくなってしまった。


「あぁぁ? どうしたんだ白狼ぉ。二週間前とはまるで動きが違うじゃねぇか、まるで素人みたいだぁぁ」

「――っ! 二週間前……?」


 それは丁度、白狼が私の家に乗り込んで来た日と一致する。思えばあいつはあの日、深い傷を負っていた。……確か、腹に貫通したような傷跡も。


「まさか……お前か!」

「はぁぁ?」

「お前に痛め付けられたから、白狼はフラフラと私の家に迷い込んで来たって事か!」

「おかしくなったのかお前ぇ?」

「じゃあ私が……私の体がこんな事になったのも、元はと言えばお前のせいって事か!!」


 怒りに震える体を起こし、私は拳を握り締める。


「力の流れを……イメージ……!」

「フックククク……」

「どうなっても、知らないからなぁ!」


 拳に宿った光が揺らめく。先日『町喰い』を一撃で粉々にした拳だ。


「やぁあって見ろよ白狼ちゃんよぉぉ」

「言ったなぁ――!!」


 不敵に笑って銃口を向けてきたモルディ――。

 だったら遠慮なくぶっ放すからな! 

 私は動きを捕捉されない様に、ものすごい速度でジグザグに走りながら接近する。


「うおおおおおおモルディ!!」

「ちょこまかちょこまかぁ……こんなみみっちい奴だったかぁぁ?」

「――――ぅっ!?」


 するとモルディの右腕の銃が変形し、大筒の形状となった。そこから放たれて来た巨大な砲弾が、凄まじい爆炎を上げて私を呑み込まんと連射される――


「ほらほらほらぁ! 猿みてぇに飛び回らねぇと、丸焦げになっちまうぞぉ!」

「な……んだよその銃! 変形するなんて――っ」


 周囲の被害などまるで考えていない豪快な攻撃。私はその熱を側に感じながら、避ける事に精一杯だ。


「大体、なんで私を襲うんだ! 私は町の人との共生を許して貰ったんだぞ、あれから悪い事もしてない!(多分)」

「それはお前が家に引きこもってる時にだけ適用されんだよぉぉ」

「は――!!?」

「俺の庭、俺の管理するこの町にぃ、ノコノコ出て来た貴様は粛清しゅくせいするぅぅ」

「そんな、無茶苦茶だよ! お外に一歩も出るなって言うの!?」

「ソウダァア!! 貴様みたいな裏切り者はぁあ、聖魔教会として捨て置ける訳がねぇだろうがぁ!!」


 気付けば単調になっていた私の動きに、モルディは即座に対応して砲弾を放った――


「ううぁ――ッッ!!」

「当たったぁぁ……」


 爆炎に焼かれ、宙を回る景色――ものすごい痛みと灼熱しゃくねつ感に襲われ、地面を転がり回る。


「うううわぁあああ!!」

「テメェはもう、お日様の下を歩ける身分じゃぁねえだろうがぁぁ」

「――――ッ」

「外の世界に出て来るんじゃねぇ……一生日の当たらねえ暗がりでぇ、震えながら引きこもってろぉ」


 白狼顔負けの強烈な眼光に、私は心の底から震え上がり、恐怖した。膝が震え、ガタガタと揺れる――

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