第12話 龍殺地底魔獣神(マンモス)

「「「『龍殺地底魔獣神マンモス』!!」」」


 後光の射す三人の背後に、巨大なマンモスの姿が現れて咆哮する。


「プォオーーーン!!」


 気迫に満ち溢れた三人の組体操を前に、私は目を剥いて絶叫せざるを得なかった。



「ダセェええええええええええええええええええええええ!!!!!」



 ダセェ、ダサ過ぎる! こいつらは正気なのか? 何なんだその組体操。そのマンモスを模したポーズに何か意味があるのか? 


「踏み潰せ龍殺地底魔獣神マンモス!!」


 なんてルビの振り方しやがる!

 中学生の思い付いたパワーワードをそのまま連ねたみたいだ! 

 お前たちもあんまりパラディン後藤の事言えねぇじゃねぇかよ!


「プォオオ、プオオオオオッッ!!」


 ツッコミのオンパレードが私の脳内を駆け巡っていたが、巨大なマンモスは構わず牙を向けて突進して来る。そしてSランク冒険者達は「せーの、いち、に、いち、に」とささやき合いながらよちよち歩いて来た。


「パオオオオオオ!! プオオオォオオ!!」

「くそッ! 白狼は私の獲物だと言っているだろうが!」

「あっ――マリルちゃん!?」


 あ然とする私を差し置いて、マリルちゃんは光るマンモスへと飛び上がると、光の速さの剣技で巨大な猛獣へと切り込んだ――!


「ぁ――――っ」


 パキンという鋼の折れる音がしたかと思うと、マリルちゃんが短い悲鳴をあげていた。

 刃物も通さぬ強靭な獣を従えた3人が、落下していく彼女をジロリと睨む。


「なあ、お前しつこいぞ聖魔の女」

「私たちの龍殺地底魔獣神マンモスが、そこらの武器で傷付けられるとでも?」

「賞金首狩りは早い者勝ち、他の冒険者を蹴落とす事なんて珍しい事じゃあねぇど! それも多額の懸賞金の掛かった“白狼”となれば尚更だど!!」

「くそ……っ白狼の……白狼の懸賞金はなんとしてでも私が――」

「がめつい女め、ふざけてるんだど!!」

「が――はっ――――!!」

「うわぁあ!! マリルちゃんっ!!!」


 マンモスの巨体の突進を食らい、宙を何回転もして墜落ついらくしたマリルちゃんに、思わず私はそんな声を出していた――


「お前ら! そんなふざけた格好で私のマリルちゃんに何するんだ!!」

「だま……れ白狼、私は……いつお前のものになったんだ」

「よかった無事なの!? 大丈夫!?」

「……く……敵の情けなど……っ」


 ズタボロの姿になって未だ立ち上がる事もできないマリルちゃんを、舌を突き出したスライトが、実に哀れな格好で覗き込む。


「おいガドフ、ルディン! この女まだ意識があるようだぜ」

「ヴォイヴォイヴォーイ!! 聖魔の女といえど、これ以上オラ達の狩りの邪魔をされたら堪らんどぉ!」

「どうせ庶民の女です。我らが高貴な神獣のおみ足で踏み潰してやりましょう」

「お前ら、冒険者め……っしゅく、せいを――っ……」


 その時、私は目頭に熱き涙が伝っている事に気付く。


「マリルちゃ……私の、私の……た、め……にっ」


 さながら私は今、『ハレンチ戦隊。今日も今日とてヌメヌメひゃわ〜ん』で、白金プラチナマリルちゃんが仲間達を守る為に、海パン将軍からのV字ハイレグ攻撃を一人で受け切ったという、胸熱シーンを思い起こしていた。

 ――マリルちゃんが私を……誰でもない、私を守る為に……! 今エロい目で襲い来ている悪漢あっかん達の犠牲になろうとしている!

 鼻の下を伸ばした緑色のハゲ(ガドフ)、見るからに陵辱りょうじょくが趣味そうな吊り目の男(スライト)、もうなんかひたすらに変態そうな糸目の奴(ルディン)――今マリルちゃんを痛めつけ、その後エロいことをしようとしているに違いない! この変態どもは全員、女の敵だ!

 

 巨大なマンモスの足がマリルちゃんへと迫っていく光景を眺め、私の中で何かが――プツンと切れた。


「ドオオオオオオオオオオオオオオオオオアアアアア゛――ッッッ!!!」

「「「ひ――――ッッ!!!!」」」

「オンナのテギィイイイイイイイイイイ!!!!!!!!!!」


 ――無意識に思いっきり地面を踏み出したら、その脚力に天高くまで上昇した土煙。

 放心する暇もなく、せまる爆風に引きつった顔を巻き上げた悪漢三人衆が、巨大なマンモスの腹を頭突きで突き上げていった私を見上げる――


「パアア――ッッ!!!? ……ぉ、オオオオオオ、オオ……」

「ぐピィいいい!!! 消えろハレンチ三人衆! 私の目が黒い内は、この爆乳に触れていいのは私だけだぁあ!!」


 空のかなたへ吹き飛び、きりとなって消えていったマンモス。怒りまなこのまま、仰向けに伏せたマリルちゃんの胸をバインバインした私に、惨めな組体操姿で残された3人が、間抜けな顔を見せる。


「ゔぉ……?」

「はい……?」

「あ……?」


 硬直した3人は混乱するまま視線を突き合わせると、何故か朗らかに微笑みあった。だけどすぐに私の悪鬼の様なツラにガタガタ震えて青ざめると、滝の様な汗が彼等の組体操の下に水溜まりを形成していった。

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