第4話 「ぺろーん……ちゅぷ、れりろ、えろれろん〜ジュボジュボ」

 *


「なな! な……なななななな!!」


 驚愕した私は、立ち上がって壁に掛けた鏡に駆け寄った。

 そしてペタペタと、自らの顔面を触りながら確認する。


「きたない……オッサン」


 ゴツゴツしたホームベースの輪郭りんかく、浅黒い肌、白髪に、深い傷跡の数々。バッキバキの体……


「い……いやああ……」


 何が、なにがなにが……何が起きてい……る?


 膝から崩れ落ちて顔をおおっていると、私の腰ほどの高さしか無い美少女が寄って来る。


「汚いとはなんだ、このつるペタ女が」


 冷たい目で私は見下されている。私こんなに悪逆非道な顔出来るの? ていうか何で自分に睨まれて泣きべそかいてるんだろう私。


「悪いなぁモヤシ女……いや“白狼”よ」

「え……?」


 まさか私、この汚いオッサン、もとい白狼と入れ替わって――


 その時、私のお腹がズキンと痛む。


「いだぁあ! いたたた!! いたぁい!!」

「デケェ図体で転がり回るな、みっともねぇ」


 血に濡れた体を良く観察すると、お腹に何箇所か、貫かれた様な風穴が空いていた。


「やぁぁぁ!! 死ぬぅうう!!」


 どうやったのか知らないがこの男! まさか自分がもう死ぬと分かっていたから、私と体を入れ替えたのか!?


「その程度で俺が死ぬ訳ねぇだろう」

「ひぎゃああ!! もうやだぁあ!」


 ぴしゃんと背を打たれ、私は痛みに転げ回りながら泣き喚いた。


「モヤシ女よ。魔王の核を媒体ばいたいにした魔石を使用して、お前と俺の体を入れ替えた」

「え、ひゃ……ひゃいぃ?」

「もう何もかも面倒になっちまってな……第二のスローライフを、俺は楽しむ事にした」


 ――俺はなんでもする悪党って訳さ、何か文句があんのか?

 そう言わんばかりに堂々としたたたずまいであったが、流石に私も反感の意を示さざるを得なかった。


「今なんて言ったのだこのクソ野郎! なんて勝手な奴なんだ、どうして私なんだよ! ただ健全にニートを全うしてたインキャラなんだぞ私は!」


 涙ぐんだ目でそいつを見返すが、直ぐにその獣の様な眼光で黙り込まされてしまった。


「欲しいものは力で奪い取る」


 瞳を弓なりに曲がらせながら、少女は邪悪な笑みをしてマリルちゃんのフィギュアをつまみ上げる。


「これからは、俺のモノはお前の物。お前のモノは……」


 ベロンと舌を出した少女が、マリルちゃんの足を口に含んで、チュパチュパしながらよだれを垂らしていた。


「俺の物だぁ〜」


「……な…………っ!!!」


 私の命よりも大切にしてきた白金プラチナマリルちゃん完全受注生産限定バージョン……


「ぺろーん……ちゅぷ、れりろ」

「マリ……ル、ちゃ……やめ……」

「えろれろ……ん〜、れろじゅぼ、ジュボジュボ」


 余りの横暴に呆気にとられる。

 今、見知らぬ男によって陵辱りょうじょくを受けているマリルちゃんを認め、魂が抜けていくかの様に呆けた顔付きになるしかなかった。

 

 ――なんだこの寝取られ展開は……なんなんだこの男は……。

 突然現れて、私の大切なものを根こそぎ奪って……ッ!


 屈辱のピストン運動を眺めて、私は吠えた。


「マリルちゃんは私のモノだぁッ!!」

「――――あっ」


 突発的に少女の掌から奪い取ったマリルちゃん(限定バージョン)


 ――しかし私の腕力は、余りに強過ぎた。


「あ」

「あ」


 彼女が私の掌の中で粉々に砕け散っていく光景が、スローモーションの様になって焼き付いた。


 ――――――。

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