第19話 誤解を解こう、そして…
朝から花恋荘の敷地内の雑草抜きをしていたところ、近くの高層マンションに住んでいる荒井さんに不審者扱いされた。
俺なりに一生懸命説明したが、彼女は半信半疑のままで…。
荒井さんは仕事があってゆっくり話せないので、決着は夜に持ち越されることになった。
管理人室の呼び鈴が鳴ったので、俺・古賀さん・金城さんの3人で玄関に向かう。藤原さんは既に部屋に戻っていない状況だ。
俺は覚悟を決めて、扉を開ける。
「…あら。こんな時間に君が出てきたとなると、住み込みなのは本当みたいね」
花恋荘付近に遊べる施設はない。用事がなければ、この一帯に大学生はいないだろう。
「よくここが管理人室だとわかりましたね」
会った時に説明していないからな。
「朝、103号室に行ったじゃない? そこから逆算したんだけど、101号室の隣にも部屋があることに気付いてね。君が住み込むならここかなって」
「そういう事ですか…」
「あなたが倉式君を不審者扱いした方ね?」
俺の後ろにいた古賀さんが前に出る。
「そうですが…?」
彼女の方が年上だと気付いたのか、荒井さんは口調と態度を変えてきた。
「彼がここの管理人なのは本当です。あたし達が保証します」
古賀さんの発言に、金城さんが頷く。
「…どうやら、私は誤解したみたいね。君、本当にごめんなさい」
荒井さんは頭を下げてきた。
これ以上追及しても無駄だと判断したか…。
「いえ、気にしないで下さい」
やはり、女性専用アパートに男の管理人は不向きだよな。
「あのさ、どうして倉くんを不審者扱いした訳? 真面目に雑草抜いてただけでしょ!?」
金城さんは語気を強める。俺はもう気にしてないから、火種になりそうなことは避けて欲しいんだが…。
「実は、少し前にベランダに干した下着がなくなったんです。2階に住んでるので、不審者が盗もうと思えば盗めるかと…。そんなピリピリしてる時に見慣れない男の子を観たもので…」
「それって、ただの八つ当たりじゃん! 年下相手に恥ずかしくないの!?」
「金城さん! 誤解は解けたんですから、これ以上は良いです!」
「…そちらの人の言う通りだわ。後日、ちゃんと謝罪させてちょうだい」
「……わかりました」
ここは謝罪を受け入れたほうが良いな。
そうしないと、金城さんが納得しないと思う。
「では、私はこれで失礼します。今回は本当にご迷惑をおかけしました」
荒井さんは再度頭を下げた後、扉を閉めたのだった。
「何とか誤解が解けて良かったわね」
一旦部屋に戻った後、古賀さんは安堵する。
荒井さん、思ったよりあっさり引き下がったような…?
朝別れた後、落ち着いて考え直したかもしれない。
「あの人下着がなくなったって言ったけど、 倉くんが見つけた下着がそうだったかもね」
「倉式君が見つけた下着なんてあったっけ? 真理ちゃん?」
「忘れたの? リボンが付いたピンクのパンツだよ。倉くんは覚えてるよね?」
「もちろんです」
雑草抜き中に見つけた下着だ。忘れる訳がない。(13話参照)
「……あれのことね。引き出しの一番下に入れたっきりだわ」
「倉くん、どうする? 今度あの人が来た時に念のため見せてみる?」
「それはちょっと…」
どうやって花恋荘の敷地内に来たかわからないし、親しくない人に下着を見られるのは抵抗あるよな。俺も見せる勇気はない…。
古賀さんには申し訳ないけど、あの下着の処分は任せよう。
「さてと、ウチは部屋は戻るね」
「あたしも」
2人が立ち上がり玄関に向かう。忘れないように、礼を言わないと!
「今回は助けていただき、ありがとうございました!」
「当然のことよ、倉式君」
「倉くん、年上相手でもちゃんと言えるんだね~。ウチらのおかげかな?」
「それはあると思います」
古賀さん達と話すことで、経験を積めたようだ。
こんな機会をくれた美雪叔母さんには感謝だな。
「じゃあね、倉式君。おやすみなさい」
「抜き過ぎに注意するんだよ~」
そう言って、2人は管理人室から出て行った。
2人を見送った後、部屋に戻ってきた。肩の荷が下りて一安心だ。
そう思った時だ。携帯の着信音が鳴る。
…藤原さんからだ。何の用だろう?
『21時にサウちゃんの生配信があるんだけど、私の部屋で一緒に見ない?』
俺は彼女と比べて、熱心なファンではない。けどせっかくのお誘いだ。
藤原さんとの距離を縮めるには絶好の機会だよな。
「良いですよ。少し前に行きますね」
送信っと。
するとすぐ、笑顔の顔文字だけが返信される。
21時までまだ時間があるな…。雑草抜きで汗を大量にかいたし、藤原さんの部屋に行く前に風呂を済ませるとしよう。
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