第16話 古賀さんとデート!?
花恋荘の管理人になって2日目。古賀さんに朝食を作ってもらった俺は、彼女の朝の買い物に付き合った。買い物後に一旦花恋荘に戻り、食材を管理人室にある冷蔵庫に入れ終わった訳だが…。
「これからどうしたいか決めた?
笑顔で訊いてくる古賀さん。
戻る間に考えたものの、特に思い付かなかった…。
とはいえ、このままここにいるのも暇だ。どうするべきか?
「行きたいところがないなら、無理することはないわよ。それか、のんびりドライブするのも良いかもね」
ドライブか…。気晴らしになるし、行きたいところが思い付くかも?
「それじゃ、ドライブをお願いしても良いですか?」
「もちろん。早速行きましょうか」
俺達は再び車に乗り込む。どこを巡るかは、古賀さんに任せよう。
「ねぇねぇ、倉式君。〇outubeよく観てる?」
信号待ちの時に古賀さんに訊かれる。
「“よく”かはわかりませんが、観ますよ」
暇つぶしにはもってこいだよな。
「そうなんだ。最近の子はテレビより〇outubeらしいからね。おばさんといえど、アンテナは張らないと」
もしかして、俺との共通の話題のため…? いや、考え過ぎか。
「どういうジャンルの動画を観るの?」
「ゲーム関連ですね。上手い人のプレイを観ると、つい夢中になっちゃいます」
「へぇ~。“ゲーム実況”ってやつ?」
「それもありますね。トークとゲームを両立させられるのは凄いな~と思います」
2つのことを同時にやるなんて器用な真似、俺にはできない。
「そうなんだ。〇outubeから学べることがあるんだね」
「ええ」
遊びであっても、勉強できる機会って意外にあるもんだよな。
「倉式君お気に入りの〇outuberは誰なの?」
車通りが少ないからか、走行中に訊いてくる古賀さん。
「Vtuberなんですけど、〈サウザンド・シャドウ〉さんが気に入ってます」
この人はあまりトークしないけど、その分視聴しやすくて良い。
「ぶ…ぶいちゅーばー? 〇outuberの親戚みたいなもの?」
彼女は素っ頓狂な声を上げる。
どう言えば良いんだ…? 収入源は同じはずだが、演出はかなり違う。
“親戚”の一括りにして良いものか?
「言葉にするのは難しいので、帰ったら動画を見せますね」
「お願いね。あたし、気になってるから」
Vtuberの話が済んでから、俺と古賀さんは黙ったままだ。
しかし、流れゆく景色のおかげで心地良い時間が過ぎていく…。
「倉式君ってさ、服はどこで買ってる?」
「ネットですね」
ゆるいサイズでもOKなタイプなので、デザイン重視だ。
「下着も…? って、男の子には関係なかったか」
空笑いをする古賀さん。
「女性は、店で買う事が多いんですか?」
「それがベストだけど、店員さんに測ってもらうのって申し訳ないし恥ずかしいのよね…。だからあたしもネットよ」
言われてみるとそうだな。大学の入学式で着るスーツを母さんに買ってもらった際、裾上げをしてもらったっけ。それすらも嫌だったのを思い出す。
下着となれば、間違いなくハードルは上がるぞ…。
「運転にちょっと疲れたし服のことを話したから、買いに行きましょうか」
実家からお気に入りを持ってきたから、困ってないんだが…。
「倉式君。ファッションに無頓着な男性は多いけど、気を遣ったほうが良いわよ。“形から入れる”し、モテやすくなるから」
モテるか…。それは気にしないが、服のバリエーションが少ないと古賀さん達を幻滅させるかも。管理人として、それは避けないと!
「…これから寄ってもらって良いですか?」
「良いわよ」
古賀さんが返答して間もなく、俺の腹が鳴る。
「その前にお昼を済ませないとね」
「はい…」
昼食を済ませてから、服屋に寄る俺と古賀さん。財布は持ってるが、彼女が『朝の買い物に付き合ってくれたお礼』と言って奢ろうとしたので、お言葉に甘えた。
その代わりに、古賀さんの服選びを手伝った。俺の好みを伝えただけだが、彼女は嬉しそうに聴いてくれた。…意見が反映されなかったのもあるが。
服屋の用件が済み、車に戻る。
「俺の分まで買ってもらい、ありがとうございました!」
店でも言ったが、お礼は何度言っても良いよな。
「気にしないで。その代わり、だらしない恰好で花恋荘周りをウロウロしないでね」
「もちろんです。管理人として、情けないところは見せませんよ!」
「心意気は十分ね。…次はどうする? 帰りたい?」
言うチャンスになったので、ドライブ中に思い付いた事を言おう。
「そういえば、今日俺が起きる前に朝食を作ってもらいましたよね?」
「そうね。合鍵は君と美雪さんしか持ってないから、鍵は事前に借りたけど」
美雪さんというのは、俺の叔母さんだ。花恋荘の管理人をするきっかけをくれた人になる。日々忙しいはずなので、俺達に構う余裕はあまりないと思う。
「古賀さん用に、合鍵もう1個作りませんか?」
そうすれば、受け渡しをする手間が省ける。
「鍵を必要以上に増やして良いかな…?」
古賀さんは難色を示す。
「美雪叔母さんは忙しいから、あまり花恋荘に来れないでしょう。となると、俺の鍵1つではなんかあった時不安なので…」
「一理あるわね。…作っちゃいましょうか」
何とか認めてくれたか。
「ただ、これは勝手にやる訳にはいかないわね。美雪さんに許可を取らないと」
「じゃあ俺が訊くので、鍵屋に向かってもらえますか?」
「了解よ」
俺が美雪叔母さんに連絡中に、古賀さんは車を発進させた。
…俺の携帯の着信音が鳴る。相手を確認すると、美雪叔母さんだ。
『鍵の複製の件だけど、良いよ~。領収書を忘れないでね』
そう書いてある。無事許可をもらえたぞ。
「今の美雪さんから? なんて書いてあった?」
「良いみたいです。“領収書を忘れないように”とありますね」
「内容が内容だから、経費にしてくれるのか。ありがたいわ」
その後、鍵屋に寄り複製をお願いする。意外にすぐできることが判明したので、近場のコンビニに寄って軽食を買い、車の中で済ます。
鍵屋で複製された鍵と領収書を受け取り、車に戻る。
「もうそろそろ帰りましょうか」
「はい」
あちこち行ったので、疲れたな…。
花恋荘に向かう車の中で、俺は思った。今日の出来事って、恋人ならデートに入るのかな? 母さん以外の女性と出かけたことがないから、つい思ってしまった。
なんて、ドライブ・服屋・鍵屋・コンビニ程度じゃ当てはまらないか…。
バカなことを考えたもんだ。そう自虐しながら、流れる景色を眺める。
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