第3話 等活地獄③

「[削除]」

([起点])

 

 心の中で唱えられるそのスキルは、決して感知できない。

 それに気付けたのは、[削除]が目の前に突如現れた人間によって相殺されてから。

 当然、その後にもう一度発動された起点に対しても反応できない。


「っ!? [高速移動]」

([起点])


 亮は右に逃げるが、その先には冒険者がスキルを構え完璧な体制で仕留めに来ていた。

 それは対応出来るわけがない、完璧な攻撃。

 勝ちすらも確信するその一撃を、亮は避ける。

 

「[起点]」

 

 誰が見てもヤケクソで放たんだろうと思うそれはブラフ。

 口に出しただけで、

 先程の中止発動時、その後隙が出来るのを前橋は完璧に見抜いていた。

 これを中断しようとした時、隙が生まれるのは亮の方——

 

「[中止]」


 綺麗に引っかかった亮を見て、前橋は口角が気持ちの悪いほど上がる。

 そして自身の仕掛けた罠のトリガーを引き、勝ちを確定させる。

 

([起点])


 どこまでも周到に、前橋はこの一撃すらもバレないように最後まで心の中で唱えた。

 起点で呼び出したのは、即死級のスキルを持つ6人。

 これだけの攻撃を受ければ、必ず死ぬ。

 もうすぐで[起点]の構築も終わる。

 間違いなく僕の勝ちだ。


「[中止]」

「は?」


 とてつもない違和感と気持ち悪さが、体を襲う。

 勝ちを確信し緩み切っていた体は、それに対して過剰に反応する。

 それはこの戦場に於いて、絶対に許されないミス。

 この日一番の隙。


「[削除]」

 

 前橋は、もはや何も思考できず、目に映るそれが何か知覚できなかった。

 何か聞こえた気がしたが、聞き取れない。

 体が明確な脅威を脳に訴えかける。

 それは第六感的なものなのかどうかは定かではないが、本能的な何かが訴えてきた。

 決定的な『死』を。


「[起点]」


 ようやく取り戻した意識で[起点]を発動すると、何故か亮は妨害してこなかった。

 ブラフだと考えたのだろうか?

 しかしこれはチャンスだ、この起点が発動して即死攻撃を叩き込めば——


       —————

      ———————

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     ——————————

      ———————

       —————


 最後に見えたのは、亮が手を合わせた、その瞬間。

 世界が爆ぜた。

 それは広間に居た100人を超える冒険者をまとめて気絶させた。

 そして、前橋も。


「〔紫〕で新たに発現した[原悪解放]の効果でスキル[獅子奮闘]を。効果は攻撃力を+200%と、一時的に100倍にする二つ。[転換〔紫〕]で上げた分と合わせて大体攻撃力5億ってところかな? 拳食らったら即死だろうな。て、聞いてねぇか」


 人の壁が無くなり、亮は[転換〔紫〕]の効果が切れる前にどうにかダンジョンから脱出をしようと、全力で出口まで向かう。

 駆けて、駆けて、駆け抜ける。

 そうして出口を抜けダンジョンから出るとそこには——


「ダンジョンからの帰還、おめでとうございます。わたくし執行部No.2クロエと申します。お疲れの所申し訳ないのですが、どうか死んでください」


 鞭を構える赤い目な黒髪ツインテのゴスロリ女が居た。

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