第24話 群盗蜘の巣(3)

「どうだ…? まだ先か…?」


「はい、まだずっと先に続いています」


一斉にどこかへと向かった群盗蜘クモを追っていた私達は、途中で見失ってしまい…アクアスの能力チカラに頼って進んでいた。


ただでさえ群盗蜘奴等は急な山の斜面を素早く移動できるってのに…こっちは張り巡らされた糸を避けながらだから…、そりゃ見失うわな…。


しかし…さっきの爆発──とても自然のものとは思えねぇ…。爆発を狩りに用いる生物は何種か存在してるが…、あれは明らかに山を狙った爆発ものだ。


それも魔物の仕業なのか…? それとも…〝人為的〟な爆発…? だとしたら何の為に…? そもそも誰がそんなことを…?


考えれば考えるほど増えていく疑問の数々…、爆発があの一回きりで終わったのがまた謎だ…。


はぁ…私は一体何が気になっているんだろう…。 巣への入り口か…? 魔物の動向か…? 爆発の詳細…? ニキの素顔…?


なんだか考え過ぎて頭が痛くなってきた…、シヌイ山ここに来てから変な事ばっかり起きてる…。何が何やら…。


「カカ様…! あちらを…!」


「うん…? おおっ…!? あれが…そうなのか…?」


目に飛び込んだきたのは、弧を描くように反り返った崖。その下にぽっかりと穴が開いており、おそらくあれが入り口…なんだろうねきっと…。


まだ残ってたのは理運だったが…、あそこまでどう行きゃいいんだ…? 岩肌の感じからして登れなくはないが…、まあまあ高いぞ…?


誤って落下すれば…軽傷じゃ済まないほどには高い…。文字通り…高い壁にぶち当たったわけだ…。


「さて…どうしたもんかな…。上から吊られる感じで侵入するか?」


「ニッキッキッ…! ニキに言い考えがあるニ…!」


怪しい笑いを浮かべるニキ…、こういう時…大体ニキは力技で強引に突破するんだよなぁ…。今回は何をするのやら…。




     ▼   ▽   ▼   ▽   ▼




「──よっ…しょっと…! ふぅ、大丈夫そうゴロー!」


「分かったニ! じゃあメラニも送るニよっ! せーの…〝ゴロ投擲〟!!」


「わああああああっ…!!」


何をするのかと思えば…力いっぱいゴロ’sをぶん投げた…。ルークに長いロープを持たせてたから、この先の展開は大体分かるが…なんて強引な…。


メラニが無事に着地すると、ルークは体にロープをぐるぐると巻き、余った部分を下に垂らした。メラニはルークの上に乗っかって重石役。


岩族ロゼ2人分の重さなら、成人女性の1人や2人くらい支えられるだろう。っとは言え…若干不安なので1人ずつ上っていくが…。


先行きたい奴と聞くと、予想通り真っ先にニキが手を上げたので、快く先に行ってもらう。さて…リュック込みの重さに耐えられるかどうか…。


ずるずると引きずられてゴロ’s諸共落下するニキの姿が浮かんだが…意外と順調に上っているようで安心した。


この感じなら全員問題なく上れそ “ブチッ!” うとか思ってたのになぁ…。


明らかにロープが切れたような音が聞こえ…間もなくしてニキが勢いよく落下してきた。幸いリュックが衝撃を和らげたみたいだが…落下した原因でもありそう…。


「大丈夫かニキ…? ったく…やっぱ重すぎんだよこのリュック…」


「ニ~…、変ニね…途中まで全然問題なかったのニ…」


ややしょんぼりしているニキを眺めながら…千切れたロープを手繰り寄せて腕に巻いていく。またニキに投げさせるとして、これ長さ足りるかな…?


「…っ? カカ様…そこなんだか変ではありませんか…?」


「んあっ? どこ? ──これは…?!」


それはロープの切れ端、リュックの重さで切れた…っと思っていた部分。重みで切れた箇所は普通、千切れたような断面になる。


だがこれは…まるで〝切られた〟ような…、切られたような…? あれ…? なんかめっちゃ心当たりあるな…。


「──…ルーク?! メラニ?!」


2人を呼んでみても返答がない…、どんどん顔が青ざめていくのを感じる…。まっ…まさかなのか…!?


「ちょっ誰かー?! あそこまで上がれる誰かー! 今すぐ様子見てきてー! ゴロ’sがヤバいことになってる気がするー!!」


ニキに投げてもらえば誰でも行けるが、力加減ミスって激突でもしたらシャレにならないので…自力で跳んでいけるナップに行ってもらった。


ググッと屈んで力いっぱいジャンプしたナップは、綺麗に穴の中へと着地。穴の中を少し見つめて、すぐに私達の方に顔を向けた。


「2人共居なーい! 多分群盗蜘クモに攫われてるー!」


やっぱりかー…! 声も上げずにぐるぐる巻きにされるとは…恐ろしいな最近の若者は…。 ※多分関係ありません。


まあ…なってしまったものは仕方ない…、石版の前にゴロ’sを回収しよう…。アクアスの能力チカラで辿っていけるだろうしね…。


ナップにロープを投げ渡し、今度は杭を打ってもらってそこにロープを縛り付けさせた。外れる心配はあるが…もうこれしかない…。


ナップに一度降りるよう指示し、まず私が上ることにした。本っっ当に嫌だが…また誰かが攫われてしまうのは避けたい。最悪私なら事前に逃げられるし。


なんとか上り終え、恐怖を堪えながら全員が上ってくるのをジッと待つ…。頼むから来ないでくれ…せめて誰かが上がって来たらにしてくれ…。


そう心の中で強く願ったおかげか、全員が上り終えた後も群盗蜘クモは姿を現さなかった。それはそれで逆に気味が悪い…。


「よ…よし…! じゃあ行くぞ…! ニキ発進…!」


「結局先頭はニキなのニね…まあいいけどニ…」


ひとまず道は真っ直ぐ伸びているので、周囲を警戒しながら奥へと進んで行く。このまま変に枝分かれせずに真っ直ぐなら嬉しいが…。


そう心の中で強く願ったにも拘らず…がっつり分かれ道にぶつかった…。右の道は上に続いており、反対に左の道は下に続いていた。


「アクアスどっちだ…? ゴロ’sはどっちに運ばれてる…?」


「そう…ですね…、群盗蜘クモの大移動のせいでだいぶ見辛いですが…おそらくは〝下〟に運ばれているかと…」


アクアスの能力チカラで見える〝移動の痕跡〟は、見たいものだけを見ることはできず、様々な痕跡の中から特徴が一致するものを見つけなきゃならない。


爆発が原因で外に出ていた群盗蜘クモ達が一斉に巣へと戻った為か、思いの外苦戦しているようだ。こればっかりは頑張ってもらう他ない。


「オッケー、じゃあ左の道を進むぞ。全員改めて心の準備を済ませておけよ…! いつでも私を守れるように…!」


「「 戦えニ…

   戦ってよ… 」」








あれからどんどん先へと進み、何度も分かれ道とぶつかった。その度にアクアスは頭を悩ませ…私は肩をぽんぽんと叩いてやった。


道中何度か採餌兵と思しき群盗蜘クモとも遭遇したが、3人の活躍のおかげで順調に奥へと来れていた。


そして私達は謎の広い空間へと辿り着いた。切断されたであろう血生臭い糸玉が、雑に地面に置かれており、上から糸で吊られているものもある。


群盗蜘クモ達の食料保蔵庫だろうか…? 火の灯りじゃ奥の方まで見えないが…糸玉はずっと先まで続いているようだ。


「ルークとメラニもここに連れてこられたのかな…?」


「ここで間違い筈ですが…もっと先の方に連れていかれているようです…」


足元に転がる糸玉を避けながら、ゴロ’sが無事と信じて奥へと進んで行く。徐々に血の臭いが濃くなっていき…全員が顔をしかめた。


それでも歩を止めずにいると、突如目の前に白い壁が現れた。ニキが松明で上の方を照らすと、それは山のように積まれた糸玉だった。


血の臭いとは違う腐臭が漂い…思わず私も鼻を塞いだ…。腐肉食魔獣ふにくしょくまじゅうなのかよ群盗蜘クモ共って…、一層嫌いになった…。


「んっ…?! んんーーー! んーーー!」

「んんんんーーーー!!」


松明の灯りに気付いてか、ゴロ’s達が声を上げ始めた。どこから声がするのかを必死に探ると、私の足元付近に動く糸玉を見つけた。


血の様な染みが見えないので、ひとまず怪我はしてないようだが…あんまり大声出してほしくはない…!


「ちょっゴロ’s静かに…! 今助けてあげるから…! あんま声出すと群盗蜘アイツ等来ちゃうから…! 」


“──キーン…!!”


「ほらァ…!!」


私は衝棍シンフォンを手に取って、一番後ろにたたずむアクアスに向かって走った。その直後暗闇の中から姿を現した1匹の群盗蜘クモが、アクアスに跳びかかろうとしている。


今までの群盗蜘クモ達とは異なり、前脚部が鋭利な鎌のようになっていた。気持ち悪さを嚙み殺し、なんとか間に入って攻撃を受け止める。


思ったよりも攻撃が重い…、他の群盗蜘クモもこれくらい力が強いのか…? ここまでまともに戦ってないからよく分からん…。


反対の脚で追撃されるのも面倒なので、先に胴体に蹴りを入れて距離を取った。足から伝わる群盗蜘クモの感触に全身の鳥肌が止まらない…。


「申し訳ありませんカカ様…! お怪我はありませんか…?!」


「鳥肌すごい鳥肌すごい鳥肌すごい鳥肌すごい…」


「無事みたいニね」


脳がビリビリするくらいに鳥肌が立っている…。ヤッバい泣きそうだ…その気になればがっつり泣けるわ今…。


アクアスの後ろに隠れながら、群盗蜘クモが現れた方に視線を向けると、さっきと同じ種類の群盗蜘クモが4匹いた。


しかも4匹共戦う気満々…。どうやらここは行き止まりだし、引き返す道は群盗蜘クモ共の向こう側…、戦う以外の選択肢なし…。


群盗蜘クモはガチガチッと前脚を合わせて音を鳴らし、じりじりと距離を詰めてくる。1匹ずつなら別にいいが…一斉に跳びかかられると厄介だ…。


先に仕掛けるべきか…カウンター狙いでジッと構えるべきか…──


「先手必勝の理! ガンガン攻めるニ~!」


「オイっバカ…?! 1人で突っ走るな…!」


ナップに松明を託して1人前に出たニキに、当然群盗蜘クモも攻撃に出る。予備動作なしでニキの身長を超える程高く跳び、両の前脚を振り下ろす。


左右斜め上から首を狙った攻撃…だがニキはその前脚をあろうことか手で受け止めた。咄嗟とは言え…んな無茶な…。


「ニキ様…?!」


「ニッキッキッ! 大丈夫ニよ! 刃物と一緒…圧しただけじゃ切れないニ!」


そう言ったニキは、そのまま群盗蜘クモを地面に思いっ切り叩きつけた。石と粉塵に紛れて、青紫色の鮮血も宙を舞った。


粉塵が晴れると、グチャッ…と地面で潰れる群盗蜘クモの姿…。まだピクピクと動いてはいるが…流石にもう死んでいるだろう…。


「…にしたってオマエ…、本当どんな怪力してりゃこんな芸当…──ってどうした…!? オマエそれ…?!」


「ニヘヘッ…ちょっと油断しちゃったニ…」


ギュッと押さえているニキの左腕からは…ぽたぽたと血が滴り落ちていた。傷口から見えるに…明らか群盗蜘クモの攻撃を受けたことが窺える…。


さっきの粉塵で視界は塞がれた一瞬に…攻撃を仕掛けられてしまったのだろう…。ニキが傷付くなんて…あの前脚の切れ味は相当だな…。


「ここはわたくし達でなんとか致しますので、ニキ様はどうぞ後ろに…!」


「この程度なんてことないニ…! …ニ? カカどうしたニ…?」


「いやぁ…オマエにもちゃんと血が通ってるんだなぁって…」

「物だと思ってたニ?」


不思議とニキに対しての親近感が強まったところで、改めて群盗蜘クモの方を向き直った。仲間を1匹殺られて、群盗蜘等もお怒りのご様子…。


さっきより激しく前脚を動かして臨戦態勢、所かまわず前脚ブンブン振り回されたら…それはそれで厄介だ…。


「ナップ! オマエは今のうちにゴロ’sを救出しろっ!」


「オッケー! 数でゴリ押し作戦だな!」


ナップはああ解釈したが…実際は私が隠れられる盾が欲しいだけ…。でも言わない…年上の威厳…大事…。


ナップがゴロ’sを救出するまでの間…そこだけは私も頑張ろう…! アクアスの後ろから全力でサポートしよう…!


“──キーン…!!”


「 “キシャーーー!!” 」


再び予備動作のない跳びかかりを仕掛けてきたが、〝音〟で攻撃を察知していた私は、ロングスカートを引っ張って事前にアクアスに知らせた。


意図をすぐに理解し構えていたアクアスは、前脚を振り下ろしてくるより速く引き金を引いたが…群盗蜘クモは前脚を駆使して弾を防いだ…。


それを見た私は瞬時に衝棍シンフォンの石突で群盗蜘クモの腹部を押し、アクアスの襟腰を後ろに引いた。


直後アクアスの顔の前を横切った鋭い前脚…、危うくアクアスの顔が裂けてしまうところだった…。


私は着地した隙を見逃さず、上から衝棍シンフォンで頭部を叩くが…勢いを溜めていないせいか効果が薄い…。


少し目眩がした程度のダメージしか与えられていない印象だったが、そこに容赦なくアクアスが弾丸を撃ち込んで止めを刺した。


力、速さ、そして発達した前脚は脅威だが、肉体強度は対して変わっていないようだ。これなら冷静に対処していけばなんてことない敵だ、アクアス達にとっては。


“ガキンッ! ガキンッガキンッ!!”


右の方から…聞きなれない刃物同士がぶつかり合う様な音が聞こえる…。目を向けると…火花を散らしながら群盗蜘クモと斬り結ぶニキの姿…。


ニキの両手には見慣れない武器が2つ…、いや正確には見たことあるのだが…どうみてもあの群盗蜘クモ共の前脚だよなアレ…?


素早い動きで猛攻を仕掛ける群盗蜘クモと、それを上手く凌ぐニキとの攻防。まるで達人同士の斬り合いを見ている様だ。


だが徐々に斬りかかっている群盗蜘クモの前脚が削れていき、やがて粉々に砕け散った。そうなればもう戦う術なし、あとはニキに蹂躙されるだけ。


「ニッハッハッ! ニキがちょ~っと本気を出せば敵なしニ!」


「オマエそれ…さっき叩き潰した群盗蜘クモの前脚もぎ取ったのか…? 別に構わんが…ほんといつの間に…」


だがこれで残るは1匹のみ、あとは2人に任せて私はナップの手伝いに行こう。3人で共闘するのも意外と難しいしね、邪魔にならない為にね。


私は糸山の方に駆けていくと、既にナップの手によって救出されたゴロ’sの姿があった。まるで子供の様に泣いてしまっている。


「ガガー…! ごわがっだ※怖かったゴロー…!」

おじっこもら※おしっこ漏らずがとおぼったすかと思ったゴロー…!」


「おーよしよし、ごめんなニキの強引な作戦のせいで怖い思いさせて」


泣きついてきた2人をなだめ、4人でアクアス達の方へ戻ると、またニキがバチバチに斬り合っている。アイツちょっと楽しんでるだろ…。


“ガキンッガキンッ! バキーンッ!!”


「ニ…!?」


あっ…今度はニキの方が砕けた…。完全無防備になったニキに群盗蜘クモは追撃を仕掛けるも、待ってましたと言わんばかりにアクアスが撃ち抜いた。


冷や汗を拭くニキと、その様子を見てクスクスと笑うアクアス。あの様子からして…やっぱり楽しんでやがったなニキの奴め…。


だがこれで邪魔な群盗蜘クモは全部倒したし、ゴロ’sも無事に助け出せた。今度こそ何事も起こらず最奥部まで行ければいいが…。



──第24話 群盗蜘の巣(2) 〈終〉

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