野良猫

 駅に近い場所に野良猫が出る墓地があって寺院の密集地の墓石を猫たちは遊び場にしていた。


 餌やり禁止の張り紙の前でおばさんが猫におやつを与えている。


「餌やりは禁止ですよ。」


 出来心で注意した。おばさんはむっとした不興の表情を浮かべる。


「皆やってるじゃない。この子たちは野生でお腹が空いてるの。飢え死にしたっていいの?」


「そうやって増え続けるじゃないですか。あなたみたいに飼う金が無いから自分の寂しさを紛らわすためにたいして栄養の無いおやつをあげる人が。楽しいですか?」


「嫌な人。あなたみたいな人がねえ、猫を殺していつか人を殺すんだわ。ああ、嫌だ。」


 おばさんは肩を怒らせ向こうの道に歩いて別の猫に餌をやりはじめた。


 若い女が、子供連れの親子が、老人が、皆猫に餌をやっている。


「しょうがないけど明日だな。」


 明日の出勤が憂鬱だった。明日はここで猫たちを収容しなければならない。


 猫を無責任に溺愛する人間のせいで僕は毎日ガス室のスイッチを押す。

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