第6話 宮廷料理を堪能していたら、自己中勇者に絡まれる

 俺とミーナは、王女であり聖女であるステラに連れられて、王都の王城に到着した。

 すでに日も暮れており。城内の窓には明かりがともりはじめている。


 結局俺たちは、ステラから護衛騎士になって欲しいとの提案を受けることにした。

 女神ミッションであるステラを死なせない為には、彼女の近くにいた方が間違いなく都合がいいからだ。


「ん? あの像って」


 連れて来られた広間の中央に飾られている銅像。女神アフロディーナと書かれている。

 そういえば、ステラがヒールを詠唱した際にも、癒しの女神アフロディーナとか言ってたな。


「あら~気づいちゃった? あ・た・し」

「………」


「ふっふ~ん、どうかしら? モブとの違いを見せつけちゃったかしら~」


 エッヘン! 

 ミーナが両手を組んで、どうよとばかりに俺の方を見た。フンフンと鼻息が聞こえてきそうだ。


「この国大丈夫か……」

「ちょっと、どういう意味よ! あたしも頑張ってるんだから! 崇め奉られるぐらいいでしょっ!」


 見習い女神のミーナが、両手をブンブンして俺に抗議してきた。

 どう考えても、崇め奉られる人物の仕草ではない。まあ可愛いのは認めるけど。


「にしてもいきなり王様と会うとはなぁ……いいのかな」

「何言ってんのよ! 王女を救った英雄さまだからね~ミッションクリアのためにもいきなり彼女とお近づきになれて、あたしたちラッキーだわ~」


 相変わらず調子のいい女神だな。転生して、いきなり死にかけたことを忘れてないか。

 なんでも王様は晩餐会の最中らしく、ステラが直接事情を話に行っている。王様の判断によっては面会はのちになる可能性もある。襲撃があった事を公には伏せる場合もあり得るからだ。ただ、損傷しまくりの馬車で王都に入ったから何かあった事はすでに噂になっているんだろうけど。


 晩餐会かぁ、どうりで旨そうな匂いが漂っているわけだ。

 王城の料理だ。さぞかし美味いんだろうな。などと妄想していると、ステラの従者が俺たちを呼びに来た。入室していいとのことだ。


 ちょっと緊張してきたぞ。当然ながら王様なんて人物と前世で会った事はないし、初めは膝まづくとかした方がいいのか? そもそも晩餐会最中に平民が乱入するってどうなんだろう?



「おお! 良くぞ参った! わが愛娘の恩人殿よ!」



 王様は速攻で俺の手をブンブン上下させながら、感謝の言葉を浴びせまくってきた。

 なんだかラフな人だな。俺の緊張や心配は杞憂だったようだ。


 ちなみにステラにより、俺たちははるか遠方の国から来た事。よって王国内の儀礼に多少の違いがあることは説明してくれた。

 いや~良かった。ぶっちゃけ王宮マナーとか全くわからんからな。多少の粗相は見逃してれるだろう。


「さて、ショウゴよ。ステラを救ってくれたこと礼を言うぞ。また護衛の任にもついてくれるそうじゃな。これほど心強いことは無いわい。それから、褒美は相応の報酬を与える。他に何か欲しいなら申せ。爵位か? 領地でもええぞ」


「ええっ! お金♡、爵位♡、領地~~♡」


 俺よりも先に横にいるミーナが食いつきまくった。この手の話が好きらしい、グフフ♡とか言ってるし。

 だが、俺の望みは王様の明示したどれでもないものだった。


「ありがたきお言葉。ですが報酬は護衛騎士としての給金が出るので結構です。爵位や領地は私には分不相応でしょう。そして、そんなことよりも!」 


「うむ、そんなことよりも?」


「そこの素晴らしい料理! 是非ともご相伴に預かりたいです!」


 俺は眼前のテーブル上に広がる宝の山を指さして、これでもかという音量で宣言した。


「なんと欲のない奴じゃ。そんなことで良いのか? 構わぬぞ、心ゆくまで堪能するが良い」


 おお、マジで! 言ってみるもんだな! やたー!!


 俺は早速、テーブル上の料理をムシャムシャしはじめる。立食ビュッフェ形式なので、選り取り見取りだ。

 俺の乱入で中断していた晩餐会も再開される。にしても……


 これは美味い! ヤバイなこれ!


「ふわぁああ、ショウゴ焦りすぎ! もうちょっとゆっくり食べなさいよ! もう」


 ミーナは爵位や領地が手に入らなかったことに若干不満顔ではあるが、料理を取り分けて持ってきてくれた。根は優しい子なのだ。ちょっとポンコツなだけだ。


 しかし美味すぎて、口が止まらん。


「フム、ステラよ、ショウゴたち護衛騎士就任の詳細はそなたに任せるゆえ、良いな」


 ムシャムシャムシャ


「はい、お父様。私から騎士隊長にも話しておきます。ショウゴさまの実力は凄いです! 必ず素晴らしい護衛騎士になってくれるでしょう」


 ムシャムシャムシャ


「フム、不思議な魔法を使うらしいのう。さぞかし高い魔力の持ち主なのだろう」


 ムシャムシャムシャ


「いえ、お父様。ショウゴさまの魔力マナはゼロです。ですが特別な力をお持ちですので」

「なんと? 魔力マナゼロで魔法が使用できるのか?」


 ムシャムシャムシャ


「ふわぁああ~、ショウゴさっきからムシャムシャしかしてないようぅ。なんかこんなシーンが前にもあったような」


 ムシャムシャムシャ


「フォフォフォ、良い良い、ショウゴの食べっぷりは見ていて気持ちがええわい」

「ふふ、お父様。ショウゴさまの食欲は誰にも止められないのかもしれません。たとえ王でも」


 ムシャムシャムシャ


 美味い、最高だ! 異世界の料理がこんなにも美味いとは!

 宮廷料理だからか上品な味付けでパンチはないが、洗練されたうま味がある。これはこの世界の民衆食堂とかも是非行ってみたくなったぞ。


 そんな至福の時を過ごしてると、広間への扉が乱暴に開けられて、1人の男がズカズカと入ってきた。


 目がチカチカするようなキラキラの服装に、腰には仰々しい剣をぶら下げている。

 なんか目がギラギラしている。ムシャムシャ。


「おお、勇者さまだ!」

「勇者アルダスさま~カッコいい~」」


「ふわぁあ~ショウゴ、勇者だぁ。たしか勇者の持つ光属性攻撃が、魔王には効果的だったはずだよぉ」


 ミーナがそっと俺に耳打ちする。なるほど、勇者なのか。ムシャムシャ


「って、ムシャムシャは止まらないのね……」


 その勇者が王様の前にズンズン進んでいき、口をひらいた。


「国王陛下、魔物ワイバーン討伐のご報告に参りました」


「おお! あのワイバーンを討伐とは!」

「すご~い。惚れちゃう~」


 周りの勇者への反応がキラキラしている。今は目の前の食事が最優先事項だ、あまり絡まないようにしよう。


 しかしワイバーンか、ドラゴンみたいなやつか? やっぱり魔物とかいるんだなぁ。ちょっと見てみたいなぁ。


「おお、勇者アルダスよ。よくぞワイバーンを討伐してくれた」

「はい、陛下。僕にかかれば造作もなき事でございます」


 勇者アルダスとやらは不敵な笑みを浮かべながら、王様の横に立つステラに近づいていく。


「ステラさま、此度は危険な目に合われたと聞いております。このアルダスの傍にいて頂ければ、そのような事はあり得ないのに……」


 グイグイ迫る勇者に、一歩身を引くステラ。


「いえ、アルダス様。あなたは勇者として魔王軍と戦う使命を全うしてください。私は護衛騎士団が守ってくれますので、お気遣いは無用です。それに今回、頼もしい護衛騎士が新たに加わってくれます」


 そう言うと、ステラは俺の方にニッコリと微笑みかけた。

 うぉ……可愛すぎる。これは反則にもほどがある。


 そんなステラと俺を見て、気にくわなかったのか「チッ」と舌打ちをする勇者アルダス。


「君がその救世主殿か。聞けば魔力ゼロだそうじゃないか。そんな人間が本当にステラ様を救えるのか? どうせ卑怯な手でも使ったんだろう。下民風情が」


 うわぁ~完全に絡まれた~敵意むき出しじゃないか勇者殿。


「ステラ様、この者からは危険な臭いがします。お近づきにならない方がいいでしょう」


「確かに、魔力ゼロでどうやってステラ様を助けたんだ」

「う~ん。言われてみれば怪しいわね~」

「単にステラ王女に近づきたかった、変態じゃないのか?」


 周りも勇者の言動に乗せられ始める。


 そんなザワつきの中で、眉間にしわを寄せて俺を睨みつける勇者。


「ステラ……今すぐそのヘンタイから離れるんだ! 」


「きゃっ!」


 勇者アルダスはステラの手を取り、無理やり自分の体に引き寄せる。


「先ほどから何を言っているのですか? 勇者さま。 ショウゴさまは私の窮地を救ってくださいました。噓偽りはありません」

 

「ああ……可哀そうにステラ。そのヘンタイに、幻惑の魔法でもかけられたんだね。君の護衛には僕が相応しい、勇者である僕がずっと傍にいてあげよう!」

「ちょっと! なにをするのですか!」

「うん、どうしたんだい。照れてるのかな? フッ」


 フッじゃないだろ、こいつ。

 おもくそ王女の体に触ろうとしてるじゃないか……どっちがヘンタイなんだよ。


「勇者殿、ステラさまが嫌がっているようですが?」


 俺は食事の手を止めた。


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