第4話 ファイアーボールを食べたら、聖女を助けていた

「はわぁあああ~な、なにこれ~すごぉいいいい」


 見習い女神のミーナが二重上級業火火炎魔法ダブルハイヘルファイアーボールによってできた大穴を覗いて、驚愕の声を上げている。

 黒ローブたちは残らず全員吹っ飛んでしまったらしく、人の気配はない。


「ふわぁああ、ショウゴ体ボロボロじゃないっ! 大丈夫なの!」

「ああ、なんとかな」


 大穴に興奮していたミーナがハッと我に返ったのか、俺をマジマジと見て心配する。

 まあ見た目はボロボロだが、致命傷は負っていない。


「ふわぁああん~良かったよぅ~グスっ」

「泣くなよ。本当に大丈夫だから俺は」


 俺の両手を掴んでブンブンしながら半泣き状態のミーナ。

 ふたつの大きな膨らみが、腕の上下に連動してブルンブルン暴れまくる。


「本当に良かったよぉおお~! ショウゴがザコモブだったら~不可能ミッションで詰んじゃうとこだよ~グスっ」


 こいつ……自分がインストールミスしたくせに。まあ、結果良ければ全て良しか。グダグダ言うのはやめよう。

 それにミーナは、俺の事を本当に心配してくれている。ちょっとセリフが微妙で泣き虫なだけだ。


「それにしても凄いわショウゴ! 【魔力マナイーター】なんて外れスキルで、ここまでやれる人初めてよ!」

「おいちょっと待て。外れスキルなのか?」

「う~ん、正確には使いこなせないって言うか。ほら、普通の人って食べる量に限界あるでしょ」


 いやいや、俺はいたって普通の一般人だぞ。ちょっと食べる量が多いかもしれんが。


 ミーナが言うには、大抵の人間はファイアーボール2~3個で満腹になるらしく、スキルとして機能しないらしい。つまり使いこなせる人間がいないのよ。とのことだ。


 ちょっと待て。2~3個で満腹だと? いくらなんでもそれは大げさすぎる。あんなもの弁当に申し訳なさ程度に付いてる漬物より少ない。ミーナのリサーチ不足なんだろう。


「だが俺だって無限に食べられるわけじゃないぞ。ちょっと多めにいけるぐらいだ」

「いやいや……あんだけファイアーボール食べた後に、あんなでかいハイファイアーボールまでいけないわよ!」

「ばかを言うな、あれは焼肉定食5人前程度にしかならん」

「焼肉定食って……そもそも5人前程度って、すでに量おかしぃからぁああ!」


 ミーナがやいやい騒ぐので、俺はステータス画面を開いた。



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 使用可能魔法

 ・なし

 魔力マナ 0/0(最大保有魔力)


 使用可能アイテム

 ・ファイアーボール×24

 ・ハイファイアーボール×1


 ☆特殊スキル

 魔力マナイーター →停止中


 ・吸収率3倍(LV2) 

 ※吸収した魔法を吸収率に応じてアイテム化


 ・魔力吸収口マナマウス →停止中


 □-------------------------------



「ほらミーナ、見てみろ。ファイアーボール2~3個で満腹なんかにならんよ」

「ふわぁ~いっぱいあるぅうう! だって戦闘中にそこそこアイテム使用して、消費したわよね!? いったい何個食べてんの……それショウゴ基準だからね! どうよみたいな顔してるけど~」


 ミーナが、俺のステータス画面をのぞきながら呆れた声をだす。

 ちなみに、魔法を食べる際に現れた大きな口は魔力吸収口マナマウスというらしい。


 見習い女神ミーナの設定ミスで一時はどうなることかと思ったが、偶然にも俺にぴったりなスキルを得ることができた。そのおかげで転生直後のピンチを脱することができたんだ。

 ミッションである聖女護衛には、何かしらの力は必要だしな。



 ミーナと話をしていると、後ろからタタタと駆け寄る足音が近づいてきた。


 あの銀髪の美少女、聖女さまだ。

 小柄な身体でグングン駆けてくる、……が、走り方が危なっかしい。

 そもそも着ている服が教会の修道服みたいなやつだから、走るのに適していない。


「へ、ヘンタイさま~~!」


 あ、それ名前じゃないんですよ……。クソっ、さっきの黒ローブたちが、俺の事を「変態」「変態」と連呼してたからなぁ。 

 そして案の定、俺の手前でバランスを崩しはじめる聖女さま。


「キャッ」


 綺麗な顔面から地面にスライディングしそうになるところを、フワッとキャッチした。

 うむ、柔らかくて軽いな。


「ひゃあ! あ、ありがとうございます! ヘンタイさま!」


 とりあえず頬を赤くしてお礼を言う聖女さまに、正しい名前を伝えないと。


「いや……俺の名前はショウゴです」

「ええ! そ、そうなんですね! 大変失礼致しました。私、ステラと申します! ヘンタイショウゴさまのおかげで助かりました! あなたは命の恩人です!」


 だから、それ名前じゃないんですよ……天然なのかな? この娘。

 ヤバいな、見習い女神ミーナと同じ匂いがしてきた。


「さて、先ずは自分の足で立ちましょうか」


 そう言って、そっとステラの腰を掴んで俺から離す。


「へ? ひゃわぁああ!? わ……私……!?」


 ステラは、ようやく今までの状態に気づいたようだ。思いっきり抱き着いていたという。


「へ、ヘンタイさまに……なんてはしたないことを!?」


 よし、取り合えず変態認定を解除しよう。見た目20歳の若い体に転生したが、中身はそこそこオッサンなので、銀髪美少女に「変態」を連呼されるのはつらい。

 数分にわたり、俺の名前がヘンタイではないことをステラに説明する。

 誤解という事実への理解が進むと同時に、みるみるうちに顔が赤くなっていく聖女ステラ。


「しょ、ショウゴさま……その……私とんでもない勘違いをしたうえに殿方に抱きつくなんて……うぅぅ」


 俯いて顔をリンゴのように真っ赤に染める聖女ステラ。

 ヤバイ……ビビるぐらいカワイすぎる。


 そんな聖女さまが、赤面タイムを無理やり終わらせるかのように口をひらく。


「と、とにかく助けて頂き本当にありがとうございました…あら」


 ふいにステラが俺の手を取った。

 え? なに? 超絶美少女にいきなり手を握られたら、ドキドキするじゃないか。今度は、転んだとかの不可抗力じゃないぞ。


 たしかミーナの情報だと17歳だったか。銀髪の透き通るような長い髪に、宝石のような青い瞳の美少女。

 小柄で純白の修道服に身を包んではいるが、出るところは出ており、顔だちも超絶美人の域に達している。


「ショウゴさま、ケガをしてますね。ごめんなさい、すぐに気が付かなくて」


 たしかにステラの言うとおり、俺の体は擦り傷だらけだった。

 こっちの世界に転生した直後にいきなり死にかけたからな。必死に逃げ回った際についた傷だろう。


「少しじっとして頂けますか。上級回復魔法ハイヒール


 暖かい光が、ステラの手から俺の体全身に広がっていく。

 なんか体中の血流がサラサラになって巡り巡っていくような。

 ちなみに魔力マナイーターは発動しなければ、ヒールを食べるということはないようだ。


 やばっ……めっちゃ気持ちええ……温泉に入ったかのような……。


「おお……これがヒール。まさかになるとはなぁ……アニメの画面越しにしかみてないヒールかぁ」

「受ける側? アニメ? ガメン?」


 うおっ、つい前世の言葉を使ってしまった。どうやって誤魔化そうかと考えていたら、ミーナが話に割り込んできた。


「ステラ様、私はミーナですぅう。彼とともに東の国から職を求めて旅してるの。遠国なのでステラ様の聞きなれない言葉を口にしちゃうけどぉ、お気になさらぬよう」


 即興で作った俺たちの出自を語り出すミーナ。なんか就職難民的な設定が加えられた。

 ちなみにミーナは19歳という設定らしい。セリフが敬語に統一しきれていないのがミーナらしい。


「まあ……そうでしたか。大変な旅路だったでしょうに、このようなことに巻き込んでしまって……あの」


 ステラが意を決したように顔をあげて、俺に迫ってきた。

 うぉ、顔近いんですけど……


「助けて頂いたお礼をさせて頂きたいのですが、襲撃から逃げる際に硬貨やら重い荷物は全て捨ててしまって。よろしければお城に来て頂けないでしょうか?」


 お城? なんで聖女が城に行くんだろうか? 教会が城の中にあるってことかな?

 その疑問を投げかける前に、ステラは準備をするため馬車の方へ駆けて行った。

 まあとにかく行くしかないか。ミッション的にもステラのそばにいた方がいいだろうし。


 てことで、俺たちは馬車に乗り込むのであった。

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