第2話 ファイアーボールは美味かった

 異世界に転生したかと思えば、いきなり怪しい黒ローブたちが、怖いセリフを吐きまくるヤバイ場面に出くわしてしまった。

 馬車の傍には銀髪の美少女と数名の騎士がいる。


「そこのあなたたち! 早くお逃げなさい!」

「ステラさま! 前に出られては危険です!」


 ステラ……銀髪に純白の修道服を着た美少女が、周りの騎士より前に出て俺たちに警告を飛ばす。

 どうやら黒ローブたちに襲われているらしい。


「フハハハ、なにを言ってるのだ。目撃者を逃がすわけがないだろう! 全員皆殺しだ!」


 俺はミーナの方に目を向ける。

 ミーナがコクコクっと頷く。あの銀髪美少女が俺たちのターゲットに間違いないようだ。そこへゴウっという爆音とともに、炎の塊が俺たちに向けて飛んできた。


「うお! アブね!」


 相手の標準がズレていたのか、炎の塊は俺の頭上を通過していった。通過しただけだが頭が焦げ付くように熱い。たしか、ミーナが転生先は剣と魔法のファンタジー世界とか言ってたが、これが魔法かぁ。ファイアーボールって詠唱してたしな。

 しかしヤバいぞ。黒ローブたちは俺たちを殺す気満々だ。

 このままだと、黒焦げになって転生人生が即終了してしまう。


「ちょっとショウゴ! 早くなんとかしてよっ!」

「無茶言うな、転生直後にピンチとかどういう展開なんだよ!」

「なんのためにその体があると思ってんのよ! ステータス画面見られるから!」


 おお! そうだった。俺は魔力マナマスターなる最強魔導士に転生したんだった。

 ミーナに急かされるままに、ステータス画面を開けてみる。

 しかし、こういうのもっとゆっくり楽しみたかったな。


 ん?


「おい……ミーナ!」


「全ての魔法が使用可能なはずよ!」


「ちょっとこっち来てくれ!」


「何よもう! 早くしてったら~」


 ブツブツ言う見習い女神ミーナに、俺のステータス画面を見せてやった。



 □-------------------------------


 使用可能魔法

 ・なし


 魔力マナ 0/0(最大保有魔力)


 使用可能アイテム

 ・なし


 ☆特殊スキル

 魔力マナイーター


 □-------------------------------


「あ……あれぇ~ずいぶんすっきりとしたステータス画面ねぇ…」

「魔法なんもねぇえぞ!」

「うわぁ……なして書いてるもんねぇ」

「そもそも魔力ゼロじゃねぇえか!」

「わぁ……最大魔力もゼロで成長しようがないわねぇ」


「これ魔力マナイーターじゃねぇええか! おまえ、あきらかに神殿でのタイピングミスってるだろぉおお!」


「ふわぁぁあああん! だって~あれの操作難しくて~頑張ったの~あたし頑張ったの~」


 ミーナが、ウソ~信じられない~といきなり泣き出した。いや、それ俺のセリフだからな。

 しかしここで彼女を責めても始まらない。何か打開策を探さないと。

 とは言っても、最強チート魔法使いではなく魔力ゼロのモブだ。敵に殴りかかるぐらいしか思いつかない。


「おいミーナ! どうすんだよ! おまえ女神パワーとかなんかないのかよ!」


「ちょっと待って、あたしも自分のステータス画面みるか……」


 ―――ほげぇ~~!


 敵のファイアーボールがミーナの足元に着弾する。

 ミーナは女神が出してはいけない叫び声とともに、吹っ飛んでいった。


「お、おいミーナ! 大丈夫か!?」


 後方で全身ピクピクさせながらも、サムズアップしてみせる見習い女神。

 安心感は全くないが、取り合えず死んではいないようだ。良かった。


「フハハハ、なんだこいつら! 戦闘ド素人の民間人どもだ! 転移魔法を操るすご腕魔術師かと思ったが、違うようだな。さっさと片付けて目的の聖女を捕らえるぞ!」


 黒ローブ集団のボスっぽい奴がニヤリとしながら、片手をあげて攻撃続行の合図を送った。

 炎の塊がバンバンこちらに飛んでくる。


「うぉおおお! 危ねぇ!」


 転げまわりながらも、必死で直撃を避ける。

 ヤバイヤバイヤバイ。これ本気で死ぬ! 死ぬ! 何かないのか!


 俺も女神も今のところポンコツそのものだ。俺はチート魔法はおろか、全ての魔法が使えない。ていうか魔力そのものがゼロだ。

 このままだと、黒ローブたちに消し炭にされてジエンドになってしまう。


「くそ、魔力ゼロでも使用できる魔法とかないのか……ん?」


 俺の目線は、再度ステータス画面の一番下にむけられる。

 残る手段は……この特殊スキルを使用してみるしかない。


「なんだかわからんけど、【魔力マナイーター】発動だ!」


 見習い女神が打ち間違えの設定ミスで獲得したスキルだが、使える何かであってくれ!


「………」


「あれ……?」


 ビビるぐらいの静寂があたりを包んだ。

 とりあえず突き出してみた手の平からは、何も発動する気配がない。

 火炎も放出されなければ、稲妻がでるわけでもなかった。


 ちょっと待て! なぜ何も発動しないんだよ!

 こんな時にネタは不要だぞ! まったく笑えないからな。


「さっきから何をやっているのです! 早くお逃げなさい!」


 再び聖女からの警告が飛んでくる。

 いやもう、こっちはチート無双のあてが外れて焦ってるんですよ。


「なんだこいつはふざけおって! 貴様に時間を取られている場合ではないわ! 逃げられないように一斉攻撃で消しクズにしてやれ!」

「「「「「火炎魔法ファイアーボール!」」」」」


 黒ローブたちから一斉にファイアーボールが飛んでくる。

 もはやどこにも退路がない。


 くっ、俺の転生人生短かった……最後に腹いっぱい食べたかったなぁ。



 炎の塊が顔面に直撃したかと思われた瞬間、俺は断末魔の叫び声をあげ…



 うん?



 あれ? 叫び声をあげていない!?



 なんと巨大な口が俺の眼前に突如現れたかと思うと、その大口をあんぐりとあける。


 ムシャっ!


 飛んできたファイアーボールを一口でパクリと食べてしまった。


「ん?……これは……うまい!」


 スキルの力なのか、大口が食べた味が俺の口内にもブワァーと広がっていく。



 うまい! うまい! うまい!



 めちゃくちゃうまいぃいいい~~~!!



 この味、忘れるわけがない。


 ―――こりゃ俺の大好きな肉だ! しかもロース! 焼肉じゃねぇか、これ最高!!


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