14-1
王宮から夜会の招待状が届いたのは数日後のことだった。
ごく限られた招待者――つまりはラウルを歓待するための――だけで行うという。
婚約者を同伴させても、させなくてもいいという異例の書き方をされていた。
これは王宮側の意図をそのまま表しているようでもあった。
万一ラウルが王家に聖女ミレイアを要求した場合、リジデス王家側は容易にエミリオとミレイアの婚約を破棄させるのだろう。要求がなければそのまま婚約の維持を許す。
それを、改めて突きつけられるようだった。
(もし……婚約破棄を命じられたら)
ラウルのことがなくても、いまの自分はそれをきっと受け入れるだろう。そしてたぶん、エミリオもそれを受け入れるべきなのだ。
いまはとても夜会などという気分ではなくとも、ラウル絡みとなるとミレイアに拒否権はない。
かつてない陰鬱な気分で身支度を調え、夜を迎えた。
家の前に馬車が止まり、迎えの者が来たことが告げられる。
侍女と共に、ミレイアは重い足取りで玄関に向かった。
これまでずっとそうしてきたように、一階への階段を下りようとするとエミリオの姿が見えた。
盛装で、さすがに緊張したような顔をしている。すぐにミレイアに気づき、どこかほっとしたような顔を浮かべた。
「やあ、ミア。とても華やかだね」
「……ありがとう」
ミレイアはぎこちなく微笑んだ。
ついてきた侍女がいつものように、「淑女相手にそのような」といかにもつたない賞賛に不満の声をもらし、エミリオが慌てている。
ぎこちなさを残したまま、ミレイアは念押しした。
「……本当に、無理しなくていいのよ、エミリオ。一人で行って早く帰ってきたほうが……」
「ここまで来て帰るなんてないよ。さすがに夜会まで、君を一人で行かせるわけにはいかない」
エミリオはやはりいつもと同じように、面倒見の良さを滲ませて言った。
だがいまは、ミレイアにとってそれは心に重くのし掛かるものでしかなかった。
――本当なら、夜会には一人で行きたかった。
サリタのことを考えれば、とてもではないがエミリオに手を取られて夜会などという気分にはならない。
だが王宮の夜会ということでエミリオの耳にも入ってしまったようで、当然のように同伴するということになってしまった。
エミリオと共に馬車に乗り込みながら、ミレイアは半ばぼんやりとした反応ばかりを返していた。
元気がないね、最近どうしたの――エミリオのそんな言葉にも、曖昧に言葉を濁した。
エミリオは優しい。いままではそれをただ安穏と受け止め、甘えていた。
――だが度の過ぎた優しさは、むしろ相手を傷つけるのだと知ってしまった。
憐れみのためだけに、恋人を捨てて寄り添うなどというのはおかしい。
この胸に渦巻く棘を持った感情は、嫉妬なのだろうか。
あるいは、嘘を吐かれたことへの怒りなのか。
これまで抑えてきたものがふいに浮かび上がり、ミレイアはふとエミリオに問いかけたくなった。
「……サリタと、最近会った?」
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