転生しなくても冒険者になっちゃった☆

すみ 小桜

第1話 覚醒

 「フミャ~」


 あ! 猫が襲われている! しかも青いサッカーボールに。

 それは、猫を確実に追いかけていた。だって、坂を駆け上がる猫を追いかけているのだから。


 「助けなきゃ」

 『あれはスライムですね』

 「スライム!?」


 僕が知っているスライムって、水滴な様な形なんだけど。あれってどう見てもボール。

 って、結構早い。そりゃそうか。猫が走るスピードだもんね。

 でも止まった。正確には、ボールが猫にアタックしたんだ。


 「やめろ! えい!」


 プニ。

 追いついた僕は、ボール……じゃなかったスライムを蹴った。けど、足がスライムに突っ込んだ。


 「うわぁ」


 慌てて足を振り回す。

 ひんやりと冷たいゼリーに足を突っ込んだみたいな感覚。

 スライムがやっと僕の足から離れた。その拍子に電柱柱にぶつかって、そのまま消えちゃった。


 「ふう……びっくりした」


 ぼと。


 「あ、いて」


 安堵していたら頭の上に何かが落ちて来た。それは、そのまま僕の手の上に落ちてくる。

 何だろうと見ればスマホぐらいの大きさの青い手帳? 本?


 『まあ! 冒険者に覚醒されたのですね! カタル様』

 「へ? 冒険者?」


 マジか~!

 転生しなくても冒険者になっちゃった☆



 僕は、異郷いきょう結琉かたる。小学四年生の10歳だ。因みに僕は地球に――日本に住んでます。

 けど、他の人とはちょっと違って、人でないモノが見える。幽霊とかではなくて、さっきの様なモンスター的な?

 今までは、見えていても無視していたんだ。今回は、緊急事態だったから。

 見えるのには理由があって、僕のばあちゃんがなんと異世界人! あ、今笑ったな。本当なんだ。証拠にほら、この子。キラって言うんだけど、ばあちゃんと一緒に異世界から来た精霊。

 パッチリとした緑の瞳に晴れ空の様な真っ青な長い髪。そして、緑色の透明な羽。大きさは、僕の手ほどの大きさで小さい。それが、僕の周りをフワフワと浮いている。

 キラが見えるのは、僕とばあちゃんだけなんだ。だからこの事は内緒ね。


 『猫様は、気を失っているようですよ。どういたします?』

 「うん。連れて帰ろう。助けたのにこのまま放置なんてかわいそうだよ」


 けどお母さんがいいって言うかな。

 僕の両親は、子供は外で遊びなさいって言って、ゲームを買ってくれないんだ。だから友達と遊んでいても、個々のゲーム機で遊び出したらつまらないからいつもキラと外で遊んでいる。

 猫の事も冒険者の事も、ばあちゃんに聞いてみようっと。


 「ただいま~。ばあちゃ~ん」


 僕は、いわゆるばあちゃんっ子だ。

 両親が共働きだし、秘密を共有しているからそうなるよね。


 「おかえり。今日はもう外遊びはいいのかい?」

 「うん。あのね、この子を助けたんだ」


 抱きかかえている猫を見せた。

 真っ黒い猫。そう思っていたけど、足の先だけ白い。


 「おや、まあ」

 「それとね……」


 いつもこうやって、今日の出来事をばあちゃんに話しているんだ。

 で、今回もさっきあった事を話した。

 ばあちゃんは、うんうんと頷き聞いてくれている。


 「そうか。おめでとう。まさか、向こうでの能力が結琉に出るとはね」


 そう言って、ばあちゃんは僕の頭を撫でた。

 ばあちゃんからは、自身はキラを連れて異世界から来たとしか聞いていなかったけど、今回の事があって色々と話してくれた。


 ばあちゃんが生まれ育った世界は、10歳ぐらいになると冒険者として覚醒する。覚醒すると『冒険の書』というのが出現して、それに自身の冒険などが記されるらしい。

 そして、冒険者になった者達は、異世界・・・に旅立つ。そうしてばあちゃんは、お供のキラを連れ地球へと来た。

 ばあちゃんが言うには、地球の様に魔法がない世界には、モンスターがいっぱいいて悪さをする。けど、そこに住んでいる人にはそれらが見えない。

 なので、冒険者となった人達は、異世界でモンスター退治をしてくれている。


 「そこで、勇ましく・・・・モンスターを倒す私に爺様が、惚れてね。そのままこの世界で結婚したのさ」

 『正確には、破天荒・・・なリナ様に惚れたのです』

 「ハテンコウって?」

 『簡単に言うと、他の人がしないような事をするでしょうか。ヒロシ様にも私やモンスターは見えませんから』

 「もうキラったら。結局爺様に私の素性は言えなかった」


 そう言ってばあちゃんは、少し寂しそうな顔つきになった。


 「結琉にキラが見えるとわかって、もしかしてとは思っていたが。これからは一緒に冒険が出来るね」

 「え……」


 知らなかったけど、今もモンスター退治をしていたみたい。ばあちゃんって、パワフルだ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る