第5話

 酒宴が行われていた。

 傭兵達は魔女の言う通り、森から持ち込まれた酒を丸い月を肴にして飲んでいる。それも、普段は命をやり取りする魔物達と一緒に、だ。

 魔女は伏せる竜の横で楽しそうにそれらを眺めていた。

 骸の騎士団は隅に固まっている。

 騎士は、一人離れたところから全体を俯瞰していた。

 彼は自分自身でも魔女の幻術にかかっているのではと思っていた。

「横、座ってもいい?」

 魔女が騎士に言う。

「嫌と言っても座るのでしょう」

「当たり」

 魔女は彼の承諾を得る前に彼の横に場所を取った。

「久しぶり」

 差し出された杯を騎士は受け取り、喉を潤す。味のある水分を摂ったのは数ヶ月ぶりだった。少しだけ彼女の血のような味がした。

「まったく、貴女は何を考えているのですか」

「何だろ」

 彼女は陽気な笑顔を崩さない。屈託のない彼女にいつの間にか彼も気を許していた。

「良い光景だと思わない? 昨日まで敵同士だった者が笑いあってお酒を飲んでいるんだから」

「そうでしょうか」

「メチャクチャ緊張したんだから、貴方がいて良かった。他の人だったら問答無用で矢の嵐だったもんね」

「それより、あの話、本気ですか」

 休戦の申し出だ。

「本気も本気、超本気、私は本気です」

「はあ」

「もう、こっち側の了承は取っているようなものだからね。あとはそっちの了承が取れればオーケーなの」

「了承するわけありませんよ」

「どうしても?」

「我々人間にとって、森の奪取は悲願ですから。ここまでの犠牲を無駄にするわけにもいきません」

「そうだよねえ、そうなんだよねえ、難しいねえ」

 正面を向いて、彼女は遠い目をしていた。

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