虚構のプリクエル - 黒澤当麻の業務日報 -

久納 一湖

1 壊されたオートマタ

1 ニュース番組

『最近、オートマタが行方不明になるという不可解な事件が増えてます。一体、何が起きているのでしょうか。専門家の意見を聞いてみましょう』


 映像は、真剣な面持ちでカメラを見つめていたニュースキャスターから専門家のバストアップに切り替わった。そこには”笠原工業 製造部門 管理課 後藤晶ごとう あきら”のテロップがあった。何気なく見ていた高見佳奈だが、それは見覚えのある顔だった。数ヶ月前に、オートマタ製造の大手である笠原工業にときに会った研究者であった。まだ勤めていたとは。半ば驚きつつも、高見は後藤晶の解説に耳を傾けた。


『通常、一般家庭の皆様が購入されたオートマタは、一定のプログラムのもとで起動します。街で見かけるオートマタがあちこち迷子にならないのは、自身のユーザーが誰であるか、きちんと識別できているからです。これは、購入の際に店舗でプログラミングしますから、実際にご利用の方はおわかりになると思います。ですので、例えば家庭用のオートマタを買い出しに行かせたとしても、きちんと用事をすませて帰ってきます。これが普通です。しかし、それが帰ってこなくなったということは、私はなにか事件性を感じます。路地で破壊された機体も発見されている報告も入ってますので』


 ニュースキャスターは相づちをうって、質問をした。

『オートマタが破壊されるというのは、この産業の黎明期を彷彿とさせますね。なにか反対派組織などによるものと考えられますか?』

『そうですね。今は考えられませんが、オートマタが実用された当初は反対派デモによる過激な活動で破壊行動もあったのは事実です。しかし、ご存じのように現在は反対派デモなど行われておりませんので、視野にいれておりますが関連はないかと』


『なるほど……。では、外出中のオートマタのバッテリーが切れたり、位置情報が狂うといったことは起きないのですか。そこで何かしら不具合が起きて、事件に巻き込まれてしまう可能性はありますか?』

『はい。ご存じの通り、メトロシティにはオートマタ充電用のガスステーションが点在しています。オートマタは自身のエネルギーが減ってくると、自らステーションで充電をします。それに笠原工業が保有している位置情報用の衛星も、ひとつではありません。たとえどれかに不具合が起きても、オートマタが迷子になる、という現象はおきません。ですので、笠原工業の不具合であるとは考えにくいですね。しかし、外部からのハッキングやコンピューターウイルスによる不具合誘発の可能性も考えられますので、笠原工業では調査を進めております。ご家庭でオートマタを利用のお客様へは、問い合わせVR室も開放しておりますので、ご予約後、オートマタと一緒にログインください。無料で診察可能です』


『……、はい。今後の対策、対応についても随時お伝えしていきます。今日は笠原工業の製造部門、後藤さんにお越し頂きました。ありがとうございました』

『ありがとうございました』

 

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