幽霊視点 2

 韓国からの留学生いむ盧羅のらさん……


 彼女が私のいる空き教室に来るのは、当然のことながら休み時間や放課後だ。


 だが、今日は珍しく授業時間中に彼女が現れた。


 しかも……なんだか顔が真っ赤である。


『✕✕✕✕✕✕……!』彼女は現れるなり、韓国語でなにかを言っていた。『✕✕✕✕✕✕……』


 よっぽどパニックになっているのか、私に韓国語が通じないことも忘れているらしい。

 人間って……焦ると母国語が出るんだな……


「お、落ち着いて……」ここまで慌てられると、見ていて面白い。「なにかあったの?」

「こ……」

「こ……?」

「コクハク……しちゃった……」


 ……


 コクハク……告白?

 例の、機械翻訳の彼に……?


 ……え……? そんな仲だったの……? まずは友達からとか……そんなくらいじゃないの? 機械翻訳の設定間違って会話していて、なんでそんなに仲が進展するの?


 というか告白って……まさか、手紙で……? 私が余計なこと言ったから……?

 

 ……


 なんだかよくわからないけれど……とりあえず……


 おもしろくなってまいりました。


「そ、それで……」恋バナは大好きだ。テンション上がってきた。「彼の反応は……どうだったの?」

「わ、わからない……ニゲテ、キタ……」


 このいくじなし……そこでもっと押せば良いのに……このレベルの美少女に告白されて冷静でいられる男子なんていないだろうに……


「な……なんて告白したの?」

「……ア……イチバン、ユウメイ……? ニホンのコトバ」


 有名な日本の言葉で告白した、ということだろうか。 

 ……有名な日本語の言葉ってなんだ……? わからないが……おそらくいむさんなりに一番彼に伝わる言葉を選んだのだろう。


 ヤバい……私、余計なこと言ったか? まさかいきなり告白するなんて思ってなかった……変なところで思い切りが良いんだから……


 ……でも、見たい。告白シーンが見たい。キュンキュンしたい。心臓止まるくらいドキドキしたい。もう心臓は止まってた。


 しかし……しかし待て高美たかみゆめ。友の告白を覗き見るのは、さすがに失礼か? いや、もう幽霊なんだから失礼もなにもないか?


「と、とにかく……返事が来たら教えてね」


 彼の返答が気になって仕方がない。私は機械翻訳の彼の顔も知らないはずなのに、勝手にドキドキしてる。


 ……彼はなんて答えるのだろう。受け入れられるとは限らないけれど……まぁ、そうなったらいむさんのことは慰めてあげよう。彼のことは呪おう。


 仮にフラレても、それは淡い青春の1ページ。きっといつか、大切な思い出になる。それはそうとして、もしもフッたら呪う。


 ああ……


 返事が気になる。彼は今頃……返事を考えるので頭がいっぱいだろうな。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る