主人公視点

 今日はやたらとりんさんの機嫌が良かった。

 見るからに調子に乗っていた。明らかにニヤニヤしている。ニヘニヘしている。デヘデヘしている。


 いつものクールそうな雰囲気からは想像もできないくらい、締りのない顔してる。漫画だったら二頭身にデフォルメされてそう。今にもヨダレ垂れそう。


「じょ、上機嫌だね……なにか、良いことがあった?」

『✕✕✕✕✕✕』【ウヒョヒョヒョ】


 楽しそうで何よりである。あまりにもりんさんがボーッとしているので、翻訳ソフトが聞き取れていないようだが……まぁいいや。


「とりあえず……りんさんが嬉しそうで良かったよ」

『✕✕✕✕✕✕』【ゴゴゴズト幕の内】


 若手芸人かな? 擬音語を駆使したフリップネタやってそう。


『✕✕✕✕✕✕』【お~きの~タカサブロウ~。マイアミのトカチ~』


 歌扱いされてる。あまりにも声が弾みすぎて、歌だと認識されてる。歌詞は意味わからんけど。


「オリジナルの曲?」

『✕✕✕✕✕✕』【神により授けられ、女神たる私が歌います】


 たまに神になるりんさんだった。


 たしかに女神だと言われても信じるくらいかわいいけども。


「歌……楽しいよね。カラオケとか、行ってみたい」


 行ったことはないけれど。行く友達もいないけれど。1人で行く度胸もないけれど。


『✕✕✕✕✕✕』【それは最善の選択です。行為に最適な場所です】


 行為……


 行為……


 歌を歌うことだ。そうに違いない。変な意味はない。たまにりんさんは変なことをいうから困る。紛らわしい紛らわしい。


『✕✕✕✕✕✕』【私としたことが……大変な思い違いをしていたようです】


 劇場版かな? 探偵物のストーリーで真の黒幕が発覚したのかな? 前後編だったのかな? 2時間スペシャル?


『✕✕✕✕✕✕』【出直そう。リベンジは90年後だ】


 寿命で勝とうとしてない? 今自分が高校生だから、90年すれば自分だけが生きてる計算してない?


 ……いや……90年経ったら今現在高校生の僕たちでも、生きてるか怪しいと思うけれど……


 というかりんさん……急にテンション下がったな。いきなり落ち込み始めた。


 今日のりんさん……やたら不安定だな……なにかあったのだろうか。


「なにか……悩みがあったりする?」

『✕✕✕✕✕✕』【それはインドです】

「イ、インドの悩み……?」

『✕✕✕✕✕✕』【外交においての中枢です】


 難しい話になってしまった。僕にはわからない。


「ごめん……政治的な話はちょっと……」


 その手の話は苦手だ。勉強しないといけないとは思っているが、どこから手を付ければよいかわからない。


 もっと軽い話がしたい。とはいえ下ネタに逃げるのも……というか、僕は下ネタが苦手だし……


 迷いに迷って、


「……そういえば……えーっと……」


 話題がない。僕とりんさんの間には、話題がない。

 

 そういえば……僕とりんさんの関係ってなんなのだろう。


 友達……? いや、違う気がする。


 りんさんからすれば……僕は友達ができるまでのつなぎに過ぎないのだろう。

 りんさんほど容姿がよければ、すぐに友達だって恋人だってできる。

 

 僕は最初の1人だっただけ。僕を足がかりに、彼女は友達の輪を広げていくのだろう。


 彼女からすれば、僕は特別な存在ではない。ただの……お世話係程度の認識なのだろう。


『✕✕✕✕✕✕』【それは正しいです】


 心を読まれた? 心の声に返答された? さすが神様……


 それは正しいです……


 やはり彼女は僕のことを、つなぎだと思っているのだろうか。それとも、誤訳なのだろうか。


 ……


 彼女とは、同じ言語で喋ってみたいな……

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