第24話

(まずい! 魔法で...... ダメだ! 私の魔法だと広範囲に被害が及ぶから、最悪、塔を破壊してしまう!)


 何体か倒しても次々に兵士がでてくる。 


 ペイスとムーサの回復と防御でカバーしてくれているが、相手にも回復魔法使いが複数いて、とんどん押され劣勢になる。


(あの回復魔法を使う奴ら三人を...... 一番後ろにいるから届かない) 


 門の方も入ろうとするシアリーズの仲間が入れずにいた。


(あっちの援護は望めない...... せめてカンヴァルを連れて来ればよかった!) 


 引かざるをえず、塔へと押し戻される。


「くっ、あまり時間をかけると中のやつらも目を覚ます......」


「仕方ない...... ヒカリ魔法を使って門の方に!」  


「シアリーズ、そんなことしたら、門にいる仲間が巻き込まれるよ!」


「私も彼女たちも死を覚悟していた! だから構わないわ!」


 シアリーズは唇をかみそういう。


(やむを得ないか......)


 そう思ったとき、兵士の後ろで叫び声がする。


「なに!?」


 兵士の後ろには、修道女姿のヘスティアとアルテ、オノテーとレイアがいた。


「なんで!? でもこれで! アルテ! 後の回復魔法を使うやつを倒して!」 

 

「はい!!」


 そうわたしが叫ぶと、アルテは回復魔法を使っている三人を弓矢で射ぬいた。


「よし! あとは」


 シアリーズと私は前の敵を倒していく。 後からヘスティアとアルテ、門の方へオノテーとレイアが加わる。


「くそっ! なんだこいつら、どこから!!」


「この強さ! 普通の修道女じゃない! ぐわっ!」


 前後から挟まれて兵士たちは総崩れになった。


「よし! こいつらで最後!」


 最後の兵士を倒して、先にペイスとムーサ、女王と侍女たちをのせ走らせた。 私たちはアルテたちと馬車へと乗り込む。


「アルテ、ヘスティアなんでこんなところに」


「先生が心配で...... 私この間のお礼にシアリーズどのの家にこっそりいったんですが、その時話を聞いてしまって......」


「私はお止めしたのですが、止めきれず...... 衣服用の箱に隠れてあなたたちについてきたのです」


 ヘスティアが目をそらしたアルテをみながらため息をついた。


「とんだお姫様ね。 でもお陰で助かりました。 女王に変わりお礼を申し上げます」


「いいんです。 あなたにも助けていただきましたから」


「まあ、なんにせよ。 このまま国境まで行ければ......」


 その瞬間シアリーズが手綱を引き、馬車が止まる。


「ど、どうしたの!?」


 前をみると、そこには抜き身の大きな両刃の剣をつ眼帯の男がたっていた。

 

「ヘスティアどの、すまないが代わって先に行ってもらいたい」


「あいつ」


「ああ、シャーラスラだ。 私が決着をつける」


 そういって馬車を降り、うなづいたヘスティアはそのまま馬車を走らせる。 私は荷台から飛び降りる。


「先生!」


「先に行って必ず帰るから」


「なぜ降りたの、ヒカリ」


「あいつがまともとは限らないからね」


(こいつ、何か普通じゃない...... まとってる雰囲気が異常......)


「確かに、仕方ないわね...... でも手だしはしないでね」


「あいつがなにもしないならね」


 シアリーズはうなづくと剣を抜いて構えた。


「たかが数人程度、止められないとはな。 やはり雑魚は雑魚だな...... まあそうなるとは思っていたが......」


 その眼帯の男はそうつぶやく。


「それでここになんの用なの。 女王を捕らえるためではなさそうね」


「ああ、俺にはガルデムも、ガキ女王もどうでもいい、俺の目的はシアリーズ貴様だ...... 貴様を斬るためにここで待っていた」


「私を斬るために、わざわざここに......」


「ああ、貴様には俺が捕まったときに一度、そして逃げるときに一度、二度もきり損ねた...... この眼の借りもある」


 そういって両腕をだらりと下げた。


「こんなやつ魔法で全部ぶっ飛ばしちゃえばいいじゃない」


「......いや、この男は私が斬るわ。 私も斬られた借りがあるのよ」


 (シアリーズの顔の傷はこいつが......)


 そして二人は対峙し一瞬で近づききりむすぶ。 その打ち合う音が静かな夜の闇に響く。


(速い! 二人ともあの威力の剣を連打できるの!? 私も結構剣は上達したけど、この二人には到底かなわない!)


 私はなにか怪しい行動はしないか、知覚加速を使いよくみる。


「あなたは何が望みなの、騎士団長の座も捨て、ガルデムさまについたとて、先などないのに」


 シアリーズは肩で息をしながらきいた。


「ガルデムなどどうでもいい...... 俺はただ強くなりたいだけ、騎士団も、地位も金もいらない。 貴様こそ、その力をただ近衛騎士などに費やすなど無駄だと思わんのか」


 シャーラスラはそう腹立たしげに吐き捨てる。


「私は弱いものを、守りたかっただけ」


「くだらん...... 強者はその力をわがことにつかうべきなのだ...... 守るなど強者ゆえのただの戯れにすぎぬ」


 何度も打ち合い、少しずつシアリーズが押され始める。


(やっぱり打ち合いには男の力の方が有利、シアリーズは重い剣を受けることでどんどん体力を奪われている......)


「でも......」


(この戦いに手を出さない方がいい)


「どうした...... 貴様はその程度なのか」


「くっ......」


 シアリーズは押されながら、後ろに下がる。


(でも目が死んでない...... シアリーズはなにかを狙っている)


「その程度ならば、もう貴様には用はない...... 死ね!」


 シャーラスラは上段に振り上げると振り下ろした。 シアリーズは

剣を横にして受ける。


「あっ! あんな威力の剣を真正面受けたら!!!」


 剣が当たった瞬間、シアリーズは剣を放す。 すると打たれた剣が回転しそれを左手取ったシアリーズはシャーラスラの腕を切った。


「ぐっ!!」


 そういってうめき、シャーラスラは剣を落とし膝をついた。 


「貴様のようなものに三度も負けるとは......」


「確かにあなたは強い...... でもだからこそ、勝つことよりも勝ちかたにこだわる。 私にとって勝ちかたより目的を果たすことの方が重要なの。 その違いよ」  


「ならば、なぜここに留まった......」


「あなたの勝負を受けなければ、みんなの足止めをするでしょう。 私にとって他のものを先に行かせるのが目的だった」 


「......追撃を防ぐため......か」


 後から馬がかけてくるのが見える。


「私が魔法で吹き飛ばすよ」


「だめ、この何もないところで大きな魔法を使うと、町まで伝わってしまう。 そこで警戒されれば、先に行ったものたちが捕まる可能性もあるわ」


「なら、弱い魔法を撃ってここで止める!」


「ええ、ここでできるだけ時間を稼ぎましょう」


 その前に片腕から血を流したシャーラスラが立ちふさがる。


「まだやるの!」 


「......ここは俺が留める。 そこに馬があるそれにのって先に行け」


 そういうと、剣を取った。


「なんのつもり」


「俺はガルデムにも女王にも興味はないといった...... 負けた以上、貴様らが死ぬのは本意ではない」


「ヒカリ行きましょう......」


 私たちは馬に乗り、先を急ぐ。


 後では土煙があがり、さわぐ馬のいななきや、人の声が聞こえる。


「あの人......」


「あの人なりの剣士としての矜持きょうじなのでしょう...... バカなひと」


 そういうと、シアリーズは黙った。


 私の耳には、夜の闇を馬が駆ける音だけが響いた。

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