第16話

「さあ、これでギルドを設立できるねペイス!」


「ええ!」  


 私にペイスは笑顔で答える。


「それにしても、ペイスどのはあのロキュプスクどのによく、ああ言い返しましたね。 内心ヒヤヒヤしましたよ」


 ヘスティアがそう感心したように言い、オノテーとレイアもうなづいていている。


「ええ、あれで王様がお決めになったようなものですものね。 すごいですペイスさん!」


「い、いえ、私は、必死だっただけです」


 ムーサがいうと、照れたようにペイスは顔を赤くした。


「ふむ、意外にヒカリよりペイスの方が豪胆なのかもな」


 そうカンヴァルもいい首をふりうなづく。


「そ、そんな、ヒカリよりなんて」


 ペイスが両手をふって否定している。


「失礼じゃないのペイス、私よりって何よ。 まあいいけど、これでギルドを作れる! ガッツリ稼ぎまくるよー!」


「人々を守るためではないのですか」


 あきれたようにヘスティアがいう。


「それだけじゃお腹は膨れないよ。 私たちが頑張ればモンスターは減り、人々も守られる! だから問題ない、ない」


 私たちは本格的にギルドを始めた。



「たいくつ~」


 私はカウンターに突っ伏した。 始めたはいいが、特に大きな依頼はなかったのだ。


「そうですね。 ですけど、フランさんの依頼や鍛冶屋さんたちから素材の入手そういう依頼はきてますからお店としては、繁盛してますよ。 今もペイスさんが採集にいってますから」


 ムーサが掃除をしながらそういう。


「まあ、そうなんだけどね。 私とペイス、ムーサの誰かが店番しないといけないから、大きな依頼は受けらんないし...... なんか違うような気がするんだよね」


「ですね。 ヘスティアさまたちは、騎士団がありますし、カンヴァルさんはラードーンの加工で忙しいし、三人だけだと、一人はお店ですものね」


「うん、やっぱり人数がたりてない」


「でも、募集してますよね」


「ずっとしてる...... でも誰もきてくんない。 魔獣倒したのにおかしくない!?」


 ムーサは少し考えている。


「それでじゃないでしょうか......」


「え?」


「魔獣と戦うほどの力を求められたら、誰しもしり込みしちゃうんじゃ......」  


「......そうか、冒険者の仕事がどんなものか誰も知らないもんね。 また魔獣と戦うと思ってるなら、誰も来ないのかも、んーどうしよう」


 その時、ドアがあいた。 ペイスがはいってきた


「ああヒカリもう帰ってらしたんですね。 あの......」


 何かいいづらそうに、ペイスがいう。


「どしたの? ペイス」


「ちょっとごめんよ」


 そういうとペイスの隣から、私たちより年下の少女が何人かはいってきた。


「ん? お客様?」


「違う。 あんた魔獣を倒したって噂のヒカリだろ」


 その集団のなかにいた。 金髪で猫のようなはねっ毛の少女はそういってわたしをにらみつけた。  


(なに? この子この世界の不良かな。 でも身なりはこの子だけ良さそう。 それでも泥だらけだけど......)

 

「まあ、私だけじゃないけどね」


「でも、あんたがボスなんだろ」


「んー、まあ強いていえばヘスティアがリーダーかな」


「そのヘスティア...... がそういってたんだ」  


(この子、ヘスティアの知り合い?)


「それで、何かよう?」


「あたしと勝負しろ!」


「へ? なんで」 


「あたしは強い者になるんだ! 誰よりもな! だからあんたを倒して一番になる!」


「お断りします」


 私があっさり断ると、少女は目を丸くした。


「な、なんだと! 決闘を求められて断るなんて! 誇りはないのか!」 


「はい、私は何も得にならないことはしない主義なので」


「ぐ、ぐ、ぐ、わかった! 依頼だ! ここは依頼を受けるんだろ! だったら私と戦え! 勝ったら依頼料を払う!」


「えー、めんどいな」  


「いいから戦え! あたしはこの国じゃ結構名前の知れた人間なんだ! 倒せば有名になるぞ!」


「そうなの、ペイス?」 


「......まあ、そうともいえます」


 なんか変な返事をしている。


(有名な人間なら、ここの宣伝をしてくれるか......)   


「わかった! やりましょう」  


「本気ですか! ヒカリ!? やめて......」


「大丈夫」


 私はペイスがおどろくのを制する。


「本当だな! 逃げることは許さないぞ!」


「わかった。 でも私が勝ったら、報酬より、この店のことを宣伝してくれる?」  


「フフン! 勝てるつもりか! いいだろう! 宣伝でもなんでもしてやる」


 少女は胸を張り、そういいきった。


 そうして、この少女と決闘することになった。



「参ったした方が負けだ。 いいな」


 そう私に決闘を申し込んできた少女ーーアルテはそういって木剣をこちらに向けている。


「わかったよ」


(構えはさまになってるね。 全くの素人でもないみたい...... さすがに真剣勝負だもんね...... 知覚加速は使わないでおくか)


 私も木剣を構える。


「お嬢! そんなやつやってやれ!」

  

「魔獣なんて、お嬢がやれたんだ!」 


「頑張ってお嬢!!」


 周囲の取り巻きたちから応援がとぶ。


(へぇ、結構慕われてんのね。 でも負ける気はないけどね)


「じゃあ! 行くぞ!」


「どうぞ!!」


 アルテは地面を蹴り低い姿勢で鋭くついてきた。 私はそれをかわし打ち込む。 


(この子速い! やるな! あの騎士団の騎士なんかよりずっと強い!)


「くっ! なら、これでどうだ!!」


 三連続のつきをくりだしてくる。 それをなんなくかわした。


「なっ!」

 

(正確で速い、正直、ここまでやるとは思ってなかったけど...... 今までモンスターと戦ってきたから、この程度なら)


 私は剣でアルテの剣を巻き取りながらはねあげると、剣は空を飛び地面に落ちた。  


「くっ! まだ!」


「あきらめなさい」


 取りにはしろうとするアルテの前に剣を突きつける。 アルテはその剣を手で払う。


(しかたないな)


 剣を拾い振り回すアルテの剣をみきり、剣でうちすえた。


「ぐっ!! まだ!」


(根性はあるな。 でもこの強さ、ここで心を折っとかないと、ほっとくと無茶するな......)


 それても立ち上がり剣を取るアルテを容赦なく打ち込む。


「ちょっと! やめてください! そこまでです! ヒカリ!」


 ペイスがみかねて、エクスヒールをアルテにかける。 アルテはその手を払い唇をかみ去っていった。 取り巻きたちも後をおった。


「ふぅ」


「もう、やりすぎですよ!」 


「しかたないよ。 あれだけ強くて自信があったら、ダンジョンにでも突撃しかねないんだもん。 かなわないやつがいるって思った方があのこの為だよ」


「でも...... このままですむとは思いませんよ」

 

 不安そうにペイスがいった。


「なんで?」   



「えええーーー!! あの子、王女さまなの!!」


「ええ......」


 ペイスがうつむいて、そういう。


「アルテ...... 確かにアルテ・ルナミス、この国の王女さまですね。 噂では聞いてはいましたが」


 ムーサは掃除の手を止めそういった。


「な、なんで王女さまが、こんなところであんなことを!」


「有名な方なのです。 城を飛び出し暴れまわっている方で......」


「ええ、確か【闘姫】《バトルプリンセス》そう呼ばれていましたね」


 ムーサは不安そうにいった。


「いや、いや、おもいっきり叩きのめしたんだけど!」


「ええ...... ですから止めたでしょう」


「いや、わかんないよ! ど、どうしよう、王女さまをケガさせたなんて...... しかたない。 ペイス、ムーサ金庫のお金もって他の国にいって!」


「ヒカリは!?」


「新しい魔法を作り出したの......」


「にけずに戦うつもりですか!?」


「逃げるのはしょうにあわない、軍の一人でも多く道連れに......」


「ぐ、軍隊と戦うおつもりですかヒカリさん!?」


「私は悪くないもの! 悪くないのに逃げるのはいや! 戦ってしんでやるぅ! 何がバトルプリンセスじゃい! そんなもん黒こげにしたるわい!!」


 やけになって叫んだ。


「待ってヒカリ!!」


「待ってください! ヒカリさん!」


 暴れる私を二人は止める。 その時ドアがノックされあいた。 そこにいたのはアルテ王女だった。



「あ! あのさっきは、へへ、すみま......」


「ごめんなさい!」


 卑屈になって謝ろうとしてた私に、王女は頭を下げた。


「へ?」


「私から吹っ掛けた決闘なのに、負けて逃げたのは、間違いだった...... ごめんなさい!!」


 そう神妙な顔で謝った。


(へぇ、理不尽わがまま姫かと思ってたら、負けを認める度量はあるんだ)


「そう、それは殊勝ね。 でも一般人相手に王族の方が手を出すのはいかがなことかしらね」


 そう座った椅子で足を組みかえ調子にのっていった。


「......そうだ。 私は昔から、出来損ないといわれてきた......」


(おんや?)


 王女は両手を膝の上で握りふるえている。


「ま、まあ、構わないわ。 私もにたようなものだし......」


「私は魔法が使えないから......」


「魔法?」

 

「王族や貴族は高い魔力を持ち、その力ゆえかつて人を統治し、高い地位へとのぼれたのです」


 そうペイスがお茶とお菓子をもってきて説明した。


「なるほど...... それがない、か」


「ああ、だから剣を学んだ。 強くないと誰もついてこない。 騎士たちと稽古に明け暮れた。 でも本当に強くなったという実感がない...... 奴らは本気ではやらない」


(まあ、出世に響くもんね。 でもヘスティアたち以外の騎士たちなら勝てると思うけど)


「それで私に挑んできたと......」


「正直うぬぼれていた。 モンスターにだって勝てるはず...... そう思っていたから、でも簡単に叩きのめされた」


「あ、あの叩きのめされたって言わないで、人に聞かれたら困る」


「だから! 私を弟子にしてくれ! もっと強くなりたいんだ!」


「ええ!? いやいや! そんなこと......」


(いや、まずいけど、お姫様に繋がりを持つのはいいか...... ロキュプスクも商業ギルドも何をしてくるかわからないし......)


「ふむ、よかろう」


「正気ですか! ヒカリ!」


「なにペイス、私が正気じゃなかったことなんてある?」


「正直、いつもどこかおかしいんじゃないかって......」


「どういう意味!?」


「ヒカリさんが居眠りしてる間に頭にヒールしてましたしね」


「あっ! ムーサさんそれは!!」


「どういうことペイス!?」


「い、いえ、少しまともになるかと......」


「やたら毛根が強くなってるとおもったら!」


「では! 弟子にしてくれるんだな!」


「ああ、うん」


 そうして私は王女アルテを弟子にとった。

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