秘密の部屋の扉が開く時

 春になり、忙しくなってきた。まだこの北の地には雪が残るが、陽射しは暖かく感じられる。


「ニーナ様!またそんなことを!」


 畑を耕して、お芋を植えている私にアンリが慌てる。


「ちゃんとスノーデン家の下男も契約農家もいますから!」


「この北の地はお芋が合うと思うのよね」


「はい?」


「その地にあった育てやすい作物を植えて、名産にすれば良いと思うのよね。それにお芋は冬の備蓄にも良いし……」


「ニーナ様は領地経営にも興味が出てきたのですか!?」


「冬にひどい吹雪があったでしょう?それで備えられるものがあればと思ったの」


 私が説明をすると、アンリがフルフルと体を震わせる。え……?泣いてるの!?


「どこまでお優しい方なんですか……アデルバード様がニーナ様に惹かれる理由がわかります」


 ちょ、ちょっと?と私は困った。孤児院の庭でも栄養価の高い葉っぱとか育てていて、その延長みたいなものなのよとは言い出せない。


 畑作りに、感動されるなんて思わなかったわ……と手を洗いながらそう思う。ふと、顔をあげると西の部屋が目に入った。やはり分厚いカーテンがずっとひかれていて、見えない。


 あの部屋、本当になにがあるのしら?私は引き寄せられるように、再び西の秘密の部屋の前に立っていた。


 そう。この時、止めておけば良かったのだ。そしたらずっと心穏やかに過ごせたかもしれないの……でも私はドアノブに手をかけてしまった。


 開けてはいけないと言われたのに……。


「ニーナ、その部屋が気になるのか?」


 背後からの声にビクッとした。


「ア、アデル様……」


 いつから?居たのだろう?スタスタと歩いて来て、いつも通り感情が読めないため怒っているのかどうかわからない。


「別に見たいなら構わない。ニーナになら見せても良い」


 ……私になら?どういう意味?私は約束を破ってしまったような気まずい気持ちになってしまい、声が出なかった。


 それを了承という意味でとったのか、アデル様が扉の魔法をカチリと解いた。解錠される。


 扉が………開いた。


 部屋の中に合った物。それは私が見たことがあった物だった。


 ―――――――機械じかけの鳥。

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