叔父上は甥っ子を溺愛する
着いて早々だったが、どうしても陛下がアデル様に会いたい!と駄々をこね………いえ、仰ったらしく、私は服を着替え、準備する。私付きのメイドとして来てくれたアンリが疲れてるのに〜とブツブツ言っている。
アデル様は黒の服に赤の糸で縁取りされてるきっちりとした正装に着替えている。いつもの騎士の戦闘服や鎧もカッコいいと思うけど正装も゙似合う。男の人なのに美麗という言葉が相応しい。
「良いですね〜。カッコいい旦那様ですよね。ニーナ様も今日はお美しいですよ」
「私は良いのよ。平凡な娘ってわかってるわ」
アンリが褒めてくれるけれど、それはお世辞とわかってるので、少し恥ずかしくなる。セレナのときのように美女じゃないことは自分でもわかってる。
「美しさとは外見のみのことを言うわけではありませんよ。仕草やその人の心によって滲み出るものです………って、ミランダ先生ならそう言うでしょう?」
「ほんとね。アンリの言う通りだわ。ありがとう。少し緊張していたの」
どういたしまして!とアンリが笑う。
「行こう。……お、オレも……ニーナは……良い……と……思っている」
油が足りなくて滑りの悪い戸のようなぎこちない褒め言葉をアデル様が発する。しかも小声のため、なにを言ってるのか耳を澄まして一生懸命聞く。
まあ!まあ!まあ!とアンリが興奮している。解読した私は言われ慣れていない言葉に反応できなくて、固まった。
行くぞと照れ隠しなのか、ぶっきらぼうに言い、私の手を取り、アデル様は部屋を出る。
……………無言。無反応の私。
「お、おいっ……?どうした!?大丈夫だよな?」
「えっ?あ、は……はいっ!すいません。なんだか思考が止まってました。あの……言われ慣れて無くて。でも大丈夫です。今から淑女のスイッチ入れますから」
「何だそれ?」
少し笑いそうだったアデル様。まさか!ここで笑顔が見れ………なかった。すぐ陛下の部屋の前に着いてしまい、顔つきも雰囲気もいつも通りになってしまった。なんか、今、すっごく惜しかった気がした。
「陛下、アデルバード=スノーデンが謁見に参りました」
アデル様の淡々とした声音が響く。中から入れ。許す。と言われ、扉が開く。
その瞬間だった。
「アデルバードおおおお!元気にしていたか?怪我などしておらんだろうな!?おまえにもしものことがあれば、弟に申し訳無さすぎるっ!」
飛びつく勢いで、陛下が椅子から立ち上がって、アデル様のところへ駆け寄る。
え……ええっと?これは?アデル様はバッと後ろへステップを踏み、抱擁しようとする陛下をかわした!?
「なぜ避けるーーっ!?」
「叔父上、仮にも王というお立場です。わきまえてください」
「くっ……その冷たさ、相変わらずだな」
アデル様と同じようなホワイトアッシュの髪に優しそうな褐色の目をした中年のイケオジ陛下だった。私に気づく。
「おお!すまない!こんなところを見せてしまって。アデルバードの選んだ妻か。ふむ、見た目は普通だが……」
私はニッコリと優雅な笑みを浮かべる。スッとお辞儀をし、心地よい声音で話す。
「ニーナ=スノーデンと申します。陛下にお会いできて、光栄です。アデルバード様が愛されていることを知ることができ嬉しく思います。陛下はとてもお優しい方と拝見しました」
ちょっと変わってるけど……この陛下は親しみやすくて、少しホッした。
「いや、お恥ずかしいところをお見せしてしまった。その力の強さゆえ、北の地の防御を任せているといえど心配で心配で心配で!」
「その御心、わかりますわ」
わかってくれるか!?わかってくれるかーっ!?と陛下が私の手を握ろうとしたが、アデル様がヒョイッと私の手をとって避けさせる。
「……なんだ?アデルバード、嫉妬か?」
アデルバード様は無表情、無言。
「こんな愛想がない男、大変であろう?」
「いいえ。私のことを気遣ってくれる優しい方だと思います」
ほぅ……と言って、陛下は満足げに頷いた。
「良き妻を得たのではないか?大事にせよ」
「はい」
アデル様は何を考えているのか、わからない抑揚のない返事をした。
10年も……この陛下も騙すのねと思ったが、愛してくれる自分の叔父様を安心させたいという思いもあったのかもしれないと、私は陛下に会ってみて、そう思ったのだった。
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