いきなり転生人生終了の危機!?

 暗い森を通るとギャアギャアと時折、黒い鳥が鳴く声がした。あれから丸一日馬車に乗って揺られてきて、さすがにお尻も痛い。


 だんだん、村も街も減ってきて、寂れてきている。夕暮れにさしかかり、よけいに寂しい雰囲気だ。


「あと……どれくらいですか?」


「もうすぐ、近くの村で引き渡すことになっている」


 そう商人が言う。ガタンッと馬車が大きく揺れた。


「なんだ!?あれは!」


 その瞬間、御者が叫ぶ。その声は悲鳴に近い。


「魔物だ!こっちへ来るぞ!」


 馬がいななき、駆け出す。馬車の車輪がすごい勢いで回る。私は立てず、椅子にしがみついて震えるしかなかった。スピードはどんどん加速していく。


 しかし限界は来る。馬が止まった時……それが私達の最後だ。


 急に車輪が止まり、馬車の扉が開いた。


「どうせ売り物だ!おまえが囮になれ!」


 商人が私を馬車の外に出す。自分たちは馬車を外し、馬の背に乗り、走り去る。私の分の馬は無い。


「そんな!助けてください!」


 私を魔物の餌にして、その間に逃げるらしい。私は走ろうとしたが、迫りくる4本足の黒い魔物……三メートルはある巨大な犬のようなものが私に向かってきたのが見えて、足が震えて動けなくなった。


 怖い……あの歯で食い殺されるの?黒い魔物の動きが、ゆっくりスローモーションに見える。


 生き残る術を考えなきゃ!そう必死で思う。


 こんなところで人生詰むのは嫌よ!私、せっかく健康で丈夫な体を手に入れたのに、またこんなふうに自分の無力を感じて終わるの?


 お、終わってたまるかーーー!貧乏人のど根性を私は出した。今はか弱い王女様じゃないのよっ!道端にあった手頃な石を掴む。  


 魔物に向って、ビュンッと投げつける。怪力と言われた私の力は本物だった。魔物に一個の石がヒットした。体をのけぞらせた。いける!?


 けっこう威力あるのね……人に対して、この力を使ったことないから知らなかったけれど……。


 私は少し希望が出てきて、這うように石を必死で拾ってぶつけて行く。


 魔物に確実にダメージがあるものの、私の中の恐怖心は拭えず、震えているためか、命中する数が少ない。とうとう外してしまう。


 怒り狂った魔物がグオオオと咆哮をあげた。私はその声にぺたんと地面に尻もちをついてしまう。もうダメ………ギュッと目を閉じた。


「間に合ったか」


 その声に私はハッとして目を開けた。カッカッカ!と漆黒の馬が蹄の音を立てて、駆けていき、白銀に閃く剣が黒い魔物の体を一閃した。真っ二つになる黒い獣の体。魔法剣を使っていたのか、魔物がパリパリパリッと青みがかった氷で覆われる。そしてパンッと音がして、砕け散った。サラサラと黒い砂のようになり、消える魔物。


 ホワイトアッシュの髪と紫水晶のような目を持つ、騎士の男性だった。身につけている鎧が夕陽で血のように赤くなる。無表情のまま私を見下ろす顔立ちは美しく、鋭利な剣のように冷たかった。


「アデルバード様!一人で行かないでくださいよ!」


 後ろから栗毛の馬に乗った二人の騎士風の人達がやってきた。その声を聞こえていないかのように無視し、私から視線を外さない。


「ようこそ。神のいない地へ」


 そう無表情で彼は言った。この人が私を買った人なのだとその瞬間、理解できた。

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