第3話 鉄拳魔法少女とコロ助


「メタモルフォーゼ!」


 桃子がその言葉を発したとたん、桃子は魔法少女ぷりぷりプリンのコスチュームを着ていた。残念ながらキラキライフェクトはなく、その代り謎の逆光もなかった。


 今まで桃子が着ていたコスチュームははっきり言ってどこかチープだったが、いま桃子の着ているコスチュームは本格的だった。胸周りのかさ上げの細工はなくなっていたが、いまの彼女の胸はコスチュームにぴったりフィットしていた。


 頭から外れてどこかに行ってしまったピンクの毛糸で作ったかつらの代わりに、桃子の髪は地毛としてお団子付きのピンクのツインテールになっていた。


「どうだい、気に入ったかい?」


 桃子の部屋に姿見はなく勉強机の上に置いた30センチほどの鏡しかなかったので鏡には上半身だけしか映らなかったが、桃子はその鏡に映った自分の姿に見とれてしまった。顔つきが大人びて18歳くらいに見える。体つきも同様に14歳の体から18歳の体に成長していた。桃子はこれが自分の最盛期の顔かたちなのかと嬉しくなった。これこそ魔法少女の最大の特典なのかもしれない。


 先ほどまで足は白いニーソックスだけだったが今はピンクのスニーカーをはいていた。桃子のスニーカーに似ていたがこちらの方が頑丈そうだった。


「次の特典は、もちろん魔法だ」


 桃子は自分の姿にすっかり夢中で魔法があってこそ魔法少女であることをすっかり忘れていたのだが精霊の『魔法』の一言でわれに返った。


「それでどんな魔法が使えるの?」


「ズバリ、肉体強化魔法だ」


「えっ?」


 魔法少女の精霊に告げられた魔法に桃子は戸惑った。


「もう一度聞くけど、肉体強化魔法?」


「そう。

 敵の攻撃をものともしない強靭な肉体と、敵を叩き伏せる腕力が同時に備わる。きみはまさに無敵のパワーファイターになるんだ」


「パワーファイターって。わたしって魔法少女なんだよね?」


「そうだよ」


「パワーファイターって殴り合い前提だよね?」


「いや、きみの場合は強すぎて敵を一発でKOするから、殴り合いにはならない」


「そういうことが言いたいんじゃないの。華麗な魔法ってないの?」


「例えばどんな?」


「うーん。そう言われると困るけど」


「きみがその気になれば、蝶のように舞いハチのように刺すことも簡単だよ。ハチのように刺しても一発KOだと思うけど」


「わかった。とにかく強く成るってことね」


「そういうこと」


「それでどうすればその魔法をかけることができるの?」


「肉体強化魔法は変身すれば勝手に発動して変身中は持続するから、わざわざ意識してかける必要はないんだ。どうだい、すぐれものだろう?

 硬貨があればそれを親指と人差し指だけで簡単に曲げられるよ。試しにやってみなよ」


 桃子は言われるまま、机の引き出しに入れていた可愛らしいピンクの財布から10円玉を取り出した。


 10円玉を親指と人差し指で縦につまんで、ちょっと力を込めたら、何の抵抗もなくぐにゃりと曲がってしまった。力は込めたというほどではなかったし、指にも痕など何もついていなかった。


 どうやら力はメチャクチャ上がったうえ頑丈にもなっているようだ。


「走る速さも上がっているし、反射神経も含めて運動神経が格段に向上しているから。それと視力はおろか動体視力も上がってるからね。野球でもすれば申告四球でない限り全打席ホームラン間違いなしだ。

 魔法の説明はこれでいいかな?」


「う、うん」


 桃子が思っていた魔法少女とはかなり違ったが、これはこれでアリのような気がしてきた。しかも変身中は胸が……。何物にも代えがたい。



「最後の特典は悪魔憑きレーダー」


 これは魔法少女っぽい能力だ。


「変身中は悪魔に魂を売った人間、いわゆる悪魔憑きが近くにいるとそいつが考えていることが分かるんだ」


「そのレーダーで考えていることが分かるのは悪魔憑きだけなの?」


「実際は近くにいる人間の考えていることが全部分かるけど、それだと精神的に病んでしまうんだよ。だから制限をかけてるんだ。せっかく悪をたおしているのに事情も知らない部外者に、きみのことをひどいことをするとか思う連中が必ず出てくる。そういった連中の心の中は知りたくはないだろ?」


 確かに誰彼構わず人の考えていることを知ることが必ずしもいいことではないことは理解できる。魔法少女の精霊はいたって良心的なようだ。


「分かった。

 今さらだけど、あなたの名まえは何て言うの?」


「本当の名まえは教えられないから、きみがぼくに適当な名まえを付けてくれればいいよ」


「じゃあ、丸いからコロ助はどう?」


「いいよ。今からぼくはきみにとってのコロ助だ」


「ねえ、コロ助、明日じゃなくってもう12時過ぎてるから今日は日曜日だけど、これから悪魔憑きを退治しに行かない?」


「いいよ。

 ぷりぷりプリンに変身中は暑さ寒さはほとんど感じないから、そのまま外に出てもだいじょうぶ。窓から屋根の上に出て、そこから家の前の道くらいまでなら簡単にジャンプできるから。

 そのとき足で瓦を踏み割らないように手加減は忘れずにね」


「ねえ、その前にわたし用のスティックはないの?」


「武器があるとぷりぷりプリンが強く成り過ぎてしまうから、ぷりぷりプリン変身セットには入れてないんだよ。だいじょうぶ。手足だけで敵は簡単にたおせるから」


「えぇー? そういう意味じゃなくってあれがないと気分が乗らないの!」


「それなら用意するけど、ぷりぷりプリンの力で振り回したら本当の凶器になっちゃうよ」


 コロ助はそう言いながらも、ぷりぷりプリンステッキを宙から取り出してぷりぷりプリンに手渡した。



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