第45話 〜戻るぜ! エルフの里〜

 クロエの背中で俺は意識が遠のいていく。

 背中から落ちそうになっているのを,ライムがどうにか支えてくれてギリギリ落ちないで済んでいる。


 「ちょっとちょっと! あちきを落とさないでよね!」

 ミミのそんな声が聞こえたような気がする。

 クロエはどんどんスピードを上げていく。


 「ウッヒョー気持ちいい!」

 ロイは楽しそうに騒いでいた。

 ミーナ達エルフも,空の旅を楽しんでいるようだった。

 

 しばらくして,ようやくクロエの速度が落ちていく。


 「おいカナデしっかりしろ! 里に着いたみたいだぞ」

 ロイにそう言われて俺は,やっと意識を取り戻してく。


 黒竜が地上へと降り立ち,エルフの里に無事に戻る事が出来た。

 どうやら俺は死なずに済んだようだった。


 エルフの里からは,エルフが総出で出てきていた。

 そりゃそうだ。


 いきなりドラゴンが空から現れたのだ。驚いたのに違いない。


 「皆ただいま!!」

 ミーナが駆け出していく。


 「ミーナ!?」

 「お父さん帰って来たよ!」

 「ミーナ! 無事で良かった」


 ミーナが父親のフーゴに抱きつく。

 助け出したエルフ達も自分達の家族へと駆け寄り再開した家族達と抱き合っていた。


 クロエは人の姿へと戻り,俺達はミーナとフーゴの側へと近寄る。

 突然エルフ達が俺達に対して跪いた。


 片膝は地面に,左手は拳を握りながら地面についている。右手は手の平を左胸に付けながら,俺達に対して頭を下げている。


 「ありがとうございますカナデ殿。我々エルフが最大限の感謝を込めて」

 「別にいいですよ。俺達も目的があってやっている事ですからね」


 「それでも感謝させて下さい。我々だけだったらきっと上手く助け出す事は出来なかったでしょうから」

 俺達は,排他的だったエルフから歓迎を受ける事となった。


 広場の方へ案内されると,長いテーブルの席に座らせられると,俺達の目の前には豪勢な食事が並べられいく。


 「おおおお! エルフ飯美味そうだな!」

 「フーゴよ! 酒は? 酒もってこーい!」


 他のエルフ達も外へ出てきて,宴の準備が始まった。


 「ここにいるカナデ殿達のおかげで帝国に捕まった同胞達が皆帰ってくる事が出来た。子供達よ!! おかえり!! そしてカナデ殿達の感謝を込めて,乾杯!!」


 「「「「乾杯!」」」」

 盛大に宴が始まる。


 「ちょっと! ちょっと! あちきだけ仲間外れなの?」

 「そういえば,ミミはずっと閉じ込められたままだったな」

 「そうよ! 目の前のご馳走をあちきに我慢しろって?」

 ミミはよだれを垂らしながら羨ましそうにご馳走を眺めている。


 「忘れとったな。カナデ,ミミを寄越してみろ?」

 俺はクロエにミミを投げて渡した。


 「ちょっと! 大切にしなさいよ」

 「ミミ,お主は出たらどうしたいのじゃ? 妖精の里に戻るのか?」

 「面白そうだから,カナデに付いて行く事にするわ」


 「俺達に付いて来たいのか?」

 「元々里から抜け出した所を人間に捕まってしまったから。あちきが里に戻っても居場所なんてないしね」


 「もしカナデ達に何か悪さをしようとするものなら分かっておるな?」

 「……分かってるわよ! 黒竜に喧嘩売るほど馬鹿じゃないわ」

 「分かったのじゃ」


 ミミの閉じ込められている箱を両手でクロエが持つと,手元が光りだした。

 ピシャ! パリッ!


 ガラスにヒビが入ったかのような音がすると,ミミが箱から飛び出してきた。

 「はぁ〜やっと外に出ることが出来たわ! ありがとう」


 透明の羽を羽ばたかせミミが空を浮遊している。飛んだ場所には光の粒が輝く。

 ピンク色の髪をなびかせながら白いワンピースを着ているミミはまさしく妖精だった。


 ミミはすぐさま並べられたご馳走に飛びつく。

 「&^%$#@&^@&^」

 「飲み込んでから喋ろよ!」

 「%$#@%$」


 皆で食事を楽しむ事にした。

 食事の最中,助け出したエルフ達が家族と共にお礼をしに来てくれた。

 俺自身は世界樹の為に受けた事だったが,これだけ感謝されると助けて良かったなと心からそう思った。


 「のうカナデ! カナデよ! 今宵の宴に音楽がないぞ! そろそろ演奏してくれてもよいのじゃぞ?」

 「そうよカナデ! 私達エルフにぴったりな素敵な音楽をやりなさいよ」


 「なんだよ! ミーナも酔っ払ってるのか?」

 「酔っ払ってないわよ」

 酔っ払ってる奴は皆そう言うけどな。


 「分かったよ,演奏すればいいんだろ。クロエとライム頼んだ」

 クロエが出したピアノにはライムが座る。


 俺はヴァイオリンを取り出す。


 ふと相棒のヴァイオリンを見つめた。

 地球では世界中こいつと色々な場所を一緒に旅してきたが,まさか異世界で訳わからない連中と,訳わからない場所にあちこち行くことになるなんて思わなかった。

 そしてまた,訳わからない場所で演奏をする。


 そう思うと何だか可笑しくなって,フッと笑みがこぼれた。

 「これからもよろしく頼むぜ相棒」


 「♪〜♫♫♪♪〜♪〜〜♪〜♫♪〜♪♫♫♪♫♫♫♫♪♫♪♫〜」

 「……………………………………………………♪〜♫♫〜♫♪〜」

 ヘンリク・ヴィエニャフスキ作曲『華麗なるポロネーズ第二番』


 広場の中央には大きな営火えいかが灯されていて,エルフ達が火を囲いながら食事や酒を堪能しながら楽しんでいる。

 そんな中,演奏を始めた。


 華麗なるポロネーズは一番が最も有名だが,第二番は優雅で楽しく気品がある楽曲だ。

 ポロネーズはフランス語でポーランドの踊りを意味するように,動きたくなる,踊りたくなるような楽曲だ。


 ピアノとヴァイオリンだけで,こんなに華やかに彩る事が出来る音楽を創ったヴィエニャフスキは天才としか言いようがない。

 俺の音楽に合わせてエルフ達は自然に手を取り合って踊り始めていた。


 ああ〜楽しい。俺は演奏している最中ずっと笑みを溢していた。


 演奏を終えると,拍手が巻き起こった。

 「カナデ〜。宴はまだまだこれからじゃ! 音楽を頼むぞ」

 「はいはい」

 俺達は朝まで宴を楽しみ尽くし,朝になるまで音楽を楽しんだ。


 「ほら! カナデ起きなさいよ! クロエもロイも」

 ミーナの声で起きたが,朝まで騒いでそのまま寝てしまったらしい。


 俺はテーブルの上で,ロイとクロエ,ミミはピアノの上で寝ていた。

 ライムは俺のお腹の上に乗っていた。


 「なんじゃ?」

 「ん〜〜エルフ飯か?」


 「何を皆して寝ぼけてるのよ。お父さんが世界樹まで案内してくれるってよ」

 「!?」

 俺は飛び起きた。そもそも世界樹を手に入れる為にここまで苦労したんだった。


 「早速行こうか世界樹へ」

 まだ寝ぼけたまま,ミーナの家に向かう。


 「おはようございますカナデ殿。昨日は楽しかったですね」

 「おはようございます」

 

 「では早速行きましょうか」

 フーゴが俺達を連れて行く。


 「到着しました」

 里の中のとある場所に到着したが,そこはただの壁にしか見えない。

 しかし,フーゴが手を壁にかざすと壁が動き出した。


 「どうぞこちらへ」

 中へ入ると狭い部屋で,中央には見覚えのある魔法陣が存在していた。

 「この魔方陣の上に集まってもらえますか?」


 魔方陣の上に立つと,魔法陣が光りだし目の前が真っ白になった。

 俺達は魔法陣によって飛ばされた。

 目がだんだん慣れてくると,突如現れた眼前に広がる光景に喫驚きっきょうした。

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