第26話 〜楽器の素材を求めて〜

 朝起きると俺は完全に二日酔いで頭が痛かった。

 誰かに体を揺すられて起こされた気がしたが,俺はフラフラになりながら,どこかの部屋のベッドに倒れ込んだ。


 昼過ぎになり,ようやく目を覚ました俺は顔を洗い,水を飲む。

 「おうようやく起きたか! 王宮に呼ばれたからカナデ,一緒についてこい」

 「え!? 急に!? クロエとロイは?」

 「二人はドワーフの国の食べ物食べ尽くすとか言って朝早く出掛けたぞ」


 「じゃあ俺だけか! 支度するから待ってて」

 「早く行くぞ」

 俺とダマールは王宮へと着いて国王と会う。


 「急に呼び出してすまない。忘れておった事があって思い出したのだ! 我々ドワーフの王に伝えられていた事を思い出したんだ。それでこれを」


 国王から渡されたのは手紙だった。

 「中を見てもいいんですか?」

 「もちろん見てくれ」


 中身を見るとこう書かれていた。

 『私はドワーフの国からエルフの里にワープ出来る魔法陣を残しておいた。私がピアノを作る為に作った移動の魔法陣だ。もし使う機会があれば使ってほしい。場所はここに書き記しておく


 冒険者 さすけ より』


 「なんて書いてあるのだ?」

 「エルフの里に通じてる魔法陣があるから,使いたかったら使ってくれと」


 「なに!? そんなものが……」

 「エルフの里に行こうかと話していたから丁度良かったなと思いまして」


 「だがエルフには気をつけた方がよかろう」

 「危険なんですか?」


 「エルフは人族に攫われて奴隷にされてるって事が最近多いと聞く。だから人族のカナデ達がエルフの里に近づく事自体危険だと私は思う」


 「奴隷……ですか? それは酷いですね」

 「そうだな……だから行くのもかなり危険だが大丈夫なのか?」


 「どうでしょうか……それでも俺は行きたいなと思っています」

 「そうか。行くなら気をつけて行くのじゃぞ」

 「ありがとうございます。気をつけます」

 「それと今回の報酬を帰りに渡しておこう。私達に力になれる事があれば何でも言ってくれてよいぞ」


 「国王様ありがとうございます」

 俺は報酬をもらい,王宮を後にしダマールと家へと戻る。戻るとクロエとロイも戻って来ていた。丁度皆が居たので,俺は宣言した。


 「全員いるからよく聞け。俺達はエルフの里へと向かう!」

 「なんじゃと〜〜」

 「げっ!? 本当に!? どうやって行くんだよ!」


 「それがなんと伝説の冒険者さすけが,クルル山脈に行った魔法陣と同じように,エルフの里まで飛べる魔法陣を作って残したという事が書かれた手紙を読みました。なので一瞬で行く事が出来ます」


 「なに〜それは本当か?」

 「ああ! 本当だとも! しかーし! 問題があります」

 「なんじゃカナデ」


 「エルフは人族とちょっと色々あるみたいで,相当人族の事が嫌いのようです。だから俺達が行くとかなり危険な目に遭う可能性が高いです」


 「げっ!? じゃあオイラ達大変なんじゃ?」

 「かなり危ないんじゃないかと」

 「なんだそんな事か! 大丈夫じゃよ。余の結界を張ってあるカナデとロイなら」

 「それでも何が起こるかわからないだろ? エルフだって魔法が使えるんだろ?」


 「エルフは魔法が得意だと聞くがの」

 「余の魔法の方が凄いぞ! まあもし本当に危なくなってもどうにでもなる。気楽に行くのじゃ!」


 「オイラの剣でやっつけてやる」

 「「おおお」」


 「という事で俺達はエルフの里へと出発します」

 「いつ行くのじゃ」

 「ダマールが俺達の防具を作ってくれてるので,終わり次第って感じかな?」


 「後三日ぐれーで出来るから」

 「では後三日後,俺達はエルフの里へと行きます」


 「それまでにドワーフの酒と食い物買いこまんとな」

 「おっし。それまでにドワーフの飯を食い尽くさないとな」

 

 俺達は翌日に再び全員王宮に呼ばれた。

 内容は国王も言っていたが,クルル山脈の鉱山に行くまでの護衛だった。


 王宮に到着し,中庭に出るとそれはとんでもない数のドワーフが集まっていた。

 甲冑を着たドワーフが混じっていて,護衛の騎士か何かだろう。


 一人のドワーフが壇上に上がり,話始めた。

 「我が同士諸君,我々ドワーフ族にとっての吉報が訪れた。クルル山脈の魔物達が一掃され,魔物が一切出てこなくなったという報告だ!」


 「今ここにいる,人族のカナデ殿一行がドラゴンも含めた魔物を殲滅してくれた。これより我々はミスリルを発掘する為に鉱山へと向かう。ドラゴンを倒したカナデ殿達にも護衛を頼んでいるので,安心してクルル山脈へと向かう!!」


 「「「「おおおおお」」」」

 もの凄い熱気を帯びた歓声だった。


 「護衛と言っても,魔物も出ないし,暇じゃな」

 「何〜!? それではオイラの剣が使えないじゃないか!」

 「平和が一番だよ」


 大勢で移動しクルル山脈へと向かった。

 俺達と護衛の騎士が先にクルル山脈へと移動したが,魔物の気配は一切になかった。


 「本当に魔物がいなくなってる」

 「だからそう言っておるじゃろ」


 俺達はドラゴンと戦った鉱山へと向かい,中へて入り,ドワーフ達がミスリルを発掘している間護衛の任務に就く。

 しかし魔物は一切出てくる事ははく,やることは何もなかった。


 「暇じゃの〜」

 「暇だぜ〜」


 「カナデ,何かここで弾いてくれんか?」

 「え!? こんな所でか?」

 「こんな所じゃからだよ」

 「まあ仕方ないな〜」

 俺はピアノとヴァイオリンで鉱山の中で演奏をする。

 鉱山の中で音が反響する。

 ドワーフ達は俺の音を聴いて採掘している手の動きを止めた。


 皆で俺の音楽を聴き入ってくれているようだった。

 弾き終えると,野太い歓声が湧き上がった!


 俺は音楽というのは,性別,種族も関係ないんだなとしみじみ感じていた。

 「鉱山の中で聴く音楽というのも悪くないの」


 ライムと俺で鉱山の中という場所で演奏会を始めた。

 男臭さがある仕事場で場違いかもしれない。それでもここに居る全員に安らぎになればと俺は思い奏で続けた。


 「「「「カナデ! カナデ! カナデ! カナデ! カナデ!」」」」

 何故かクロエがカナデコールを煽ったらカナデコールが巻き起こった。

 俺は立ち上がり頭を下げて声に応える。


 「発掘もそろそろ終わりにしろ!! 国へと戻るぞ!!」

 騎士の一言で作業をやめる。ドワーフ達は俺の前を通ると,全員感謝の言葉を並べてくれた。


 「では皆帰るぞ!」

 鉱山から外に出ると,すでに夕方になっていた。


 ドワーフの国へ戻るまでの道中でも一切魔物に襲われる事が一度もなかった。本当に原因を一掃出来たようだった。


 国へと戻ると,騎士団長に王宮に来るように言われ,国王と謁見する。

 「今日は護衛をしてくれて感謝する。一度も魔物に襲われなかったそうだな」

 「国王様,今日一日クルル山脈に居ましたが,一体の魔物にも出くわさなかったです」


 「原因がなくなったようで良かったです」

 「余がきちんと排除したからな。魔物はもう現れんじゃろ! そもそもあのクルル山脈は魔物が棲める場所でもないからの」


 「本当にカナデ殿達には感謝してもしきれない」

 「俺達もドワーフの力を借りますからいいんですよ。それより国王,俺達はエルフの里へと旅立ちます」


 「そうか……気をつけて行ってくるのだ。我々ドワーフの国はいつ何時でもカナデ達の来訪を心より出迎えよう。そして協力を惜しまない」


 「では国王,俺達はこの辺で帰ります」

 国王との話を終えて,ダマールの店へと戻る。

 


 「やっとドラゴンの素材を使った防具が出来たぜ」


 「オイラの姿を見ろ! カッコいいだろ?」

 「余の姿を見ろ! 素敵じゃろ」


 「思ったより軽いし動きやすいんだなドラゴンの素材って」

 「ああ,そういうデザインにした。それに素材がそもそもいいからな。魔法耐性も強い防具だからエルフの里でも他の戦闘でも役に立つだろうよ」


 「デザインや裁縫はトットとチッチが得意なんだ」


 「二人共ありがとう」

 「感謝するぞ」

 「トットとチッチのおかげでオイラのやる気が出てきたぜ」


 「いいって事よ」

 「別にいいのよ」


 「それじゃあダマール行ってくるよ!」

 「気をつけてな」


 ダマールの工房を後にする俺達。

 「カナデそれで,エルフの里へ通じる魔法陣はどこにあるのじゃ」

 「ん〜手紙の中に地図が書いてあって今向かってるけど,まだ着かないな」


 「地図によるとこの辺になってるんだけどな……」

 「なんもねえなー」

 辺りを見ても,ボロボロの朽ちた家が一軒見えるだけで後は何もなかった。


 「あそこの家に微かな魔力を感じるのじゃ」

 「え!? あの家の中?」


 ボロボロの家のドアを開けようとすると,ボロすぎてドアは壊れてしまった。

 中を見ても何もない,ボロボロで今にも崩れそうな建物だった。


 「こんな所にはないんじゃないか?」

 「いや! 微かにクルル山脈に行った時の魔法陣と同じ魔力を感じるのじゃ」


 「どこにあるってんだよクロエ」

 「この下じゃな」

 「した〜!?」


 部屋の中央に置かれたテーブルをどかし,テーブルの下に敷かれた布を剥がそうとしたが,剥がれなかった。


 「あれ? 剥がれない……」

 「これは……魔法がかけられておるの」

 クロエが魔力を注ぐと布が剥がれた。


 布の下に現れてたのはクルル山脈に移動できる魔法陣と似たような魔法陣だった。


 「本当に魔法陣があったな」

 「ここからエルフの里へ行けるのじゃ」

 「なんかドキドキしてきたな!」


 「じゃあクロエ頼んだ」

 「それじゃあエルフの里へ出発じゃな」

 「行ってみますかぁ」


 クロエが魔力を魔法陣に注ぎ始めた。すると――

 目の前が真っ白になる程の光に包まれ俺達は姿を消した。

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