第20話 〜クルル山脈とドワーフ〜

 「あ〜寝てるのに進むって楽じゃの〜」

 クロエは馬車の後ろで大の字になって寝転んでいる。

 少しの荷物を積んではいるが,クロエのアイテムボックスがある為に後ろは広々と使う事が出来るのはいい。


 「カナデ〜疲れたから交換しよ?」

 「俺は出来ないからライムにお願いするよ。ライム頼めるか?」


 ライムに御者ぎょしゃとして操縦してもらう。

 本当にこのスライムは何でも出来るし,何でもそつなくこなすのが凄い。

 というか,今まで他のスライムを見たことがなく,本来のスライムはどういった個体なのだろうか……

 

 そんな事を考えながら,操縦するライムの横で俺は目的のクルル山脈へと向かっていく。

 特に変わった事もなく,俺達はクルル山脈にとうとう到着する。

 「ここがクルル山脈なのか?」

 「そうみたいじゃの。余も初めて見るのじゃ」

 「おお。なんかすげー山だな」


 天気が今日悪いせいもあるのか,岩肌だらけのクルル山脈は不気味に見える。

 「馬車ではもう移動出来ないが,この馬達はどうすれ良いのか……」

 「大丈夫じゃ。アイテムボックスは生き物も入れる事が出来るのじゃ」


 「本当か? 便利すぎだろ!!」

 「便利じゃろ?」

 「じゃあ頼んだ」

 「任せるのじゃ」


 馬車全体をアイテムボックスに収納し,俺達はクルル山脈を越える為に登り始める。


 「ひぇ〜〜〜〜!!!」

 「うるさいのカナデ」

 「おい!! なんでオイラの後ろに隠れるんだよ」


 クルル山脈に入った途端,とんでもない数の魔物が襲ってくる。

 翼の生えた魔物や,肉食と思われる魔物など,俺達をとにかく襲ってくる。


 クロエが全て殲滅しながら進んでいる状態で,俺とロイはクロエに任せるしかなかった。

 「それにしてもやけに魔物が多いの」

 「クロエ! オイラにも任せろ。オイラも戦うぞ」

 「やめておけロイ。俺達は邪魔になるだ――ひぇ〜〜〜〜!!!」


 ロイの肩にがっしり捕まっている俺の事を強がって励まそうてしているのが分かるほど,ロイも震えている。

 「クロエが居たら,基本的に魔物は襲ってこないんじゃなかったのかよ」

 「普通はそうじゃ。だからこれはおかしいのじゃ」


 しばらくすると,山に入った事もあるからか雨が降ってきた。

 「雨が降ってきたな面倒な事になってきたな」

 「おい! あそこ見ろよ! 洞窟あるからあそこまで行こうぜ」


 「よし行くのじゃ」

 俺達は走って洞窟の中へと逃げ込み,なんとか雨を凌ぐことが出来そうだ。

 洞窟へと逃げ込んですぐに,土砂降りの雨へと変わっていた。


 「これはしばらく動けそうにないな」

 「カナデ。余は腹が減ったのじゃ」

 「オイラも腹減った」

 「そうだなぁ食事にしようか」


 ライムに食事の準備をしてもらう。こうしてみるといつの間にかライムの料理の腕がどんどん上がっている気がする。


 俺達は食事を終えると,雨が止むのを待った。

 さっきまで魔物がひっきりなしに襲ってきたのが嘘のように静かな時間が流れる。


 「それにしても暇じゃの〜」

 「しょうがないだろ。雨が降ってるし」

 「洞窟の奥,探検しに行こうぜ! 暗くて分からないが,結構奥まで続いてそうだぞ」


 「え〜元気だな〜俺はゆっくり雨が待つのを待ちたいよ」

 「カナデ行くのじゃ! ロイいい案じゃな! 洞窟探検と行こうかの」

 「ほらいくぞ」

 二人に押されて洞窟の探検に行くこととなった。


 少し奥に進むと,ランタンのようなものが道筋に備え付けられており,消えかかっているが,洞窟の中を照らしていた。以前はここは使われていたのだろうか。


 「ここの洞窟はなんなんだ? クロエ何か分かるか?」

 「わからん。魔物の気配も特にはないし,安全じゃと思うぞ。ただ魔力の塊のような気配はするんじゃが……」


 「なんか洞窟ってワクワクするなぁ〜」

 「なに呑気な事言ってるんだよ。気をつけろよ」

 ロイは鼻歌交じりに奥へと進んでいく。


 洞窟の奥へさらに進むと,突然開けた場所が現れた。

 そこにはトロッコのような存在とさらに洞窟の奥へと続くレールが敷かれていた。


 壊れたツルハシが大量に廃棄されている場所などがあり,この場所は鉱山なのだと認識させられる人工的なものが点在していた。


 「なんじゃここは」

 俺達はあっけにとられていると遠くの方で,カーンカーン……

 と何かを打ち付ける音が聞こえる。


 「あれ? 誰かいるのかな? 音が……」

 「ん? 余には聞こえんぞ」

 「オイラも聞こえない」

 微かだけど,確かに何か聞こえる。

 俺は音がする方へと進んでいく。


 「おい待つのじゃカナデ」

 進んでいくと音がだんだんと大きくなっていく。


 「おお確かに音が聞こえるの」

 「オイラ達以外に人がいるのか?」


 大きくなる音に近づくと,人影が見えてきた。だがやけに小さい人影だった。


 「誰だ???」

 突然声をかけられ,相手が持つランタンの明かりに照らされ見えた姿はヒゲをもじゃもじゃに生やした小さいおっさんだった。


 「なんじゃ! ドワーフか! こんな所で何しとるんじゃ?」

 「ん? お前達こそこんな所で何してんだ? どっこから来たんだ?」

 目の前に見えるのがドワーフという種族なのか。


 「クルル山脈を登っている最中に大雨にあいまして。この洞窟で雨宿りして,洞窟が奥に続いてるから探検していたら,音が聞こえたので近づいたらあなたに会いました」

 「お前達外から来たのか!?」


 「外?? ん〜まあそういう事になるかと……」

 「大量の魔物に襲われなかったか!?」

 「ええ。もの凄い数の魔物に襲われながら登ってきました」


 「お前達かなり強いんだな! 冒険者か??」

 「一応は冒険者です」

 「そうか。クルル山脈を登ってるって事はドワーフの国に行きたいんだろ?」

 「正解です! そうなんです」

 「なら俺が案内してやるよ。交換条件じゃねえが,食い物と酒持ってないか?」


 「ありますよ!!」

 「おお。じゃあ交渉成立だな」


 さっき食事をしたばかりでライムには申し訳ないが,また食事を作ってもらう。

 ココナツ村でもらった大量のりんご酒をドワーフのおっさんに振る舞う。


 「これは酒なのか? 甘い匂いがするんだが」

 「一応酒ですよ」


 「お主馬鹿にするでないぞ! これは美味いのじゃ」

 「ありがたくもらうよ」

 ドワーフが一口酒を飲むと,酒を見返し一気に飲み干した。


 「かぁ〜! これはこれで悪くねぇ〜!」

 「そうであろう。そうであろう」

 「そういえば名乗っていませんでしたね。俺はカナデと言います」


 「クロエじゃ」

 「オイラはロイってんだもじゃもじゃのおっさん」


 「俺はダマールって名前だ。見ての通りドワーフだ。それとカナデ敬語はいらねぇ! かしこまられるのは苦手なんだ」

 「分かったよダマール」


 「おっさん一人で何してたんだ? それにここはどんな場所なんだ?」

 「食事と酒を飲みながら説明してやるよ」

 俺達はダマールが語るドワーフについての話を聞くことに。

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