第2話 〜伝説の大災害との遭遇〜

 朝を迎え,身体中が筋肉痛の俺だったが,準備し王都へ目指す。

 所々でモンスターというのに出会う。見たこともない生物だった。


 ローレンツ達はさも気にしない感じで当たり前かのように戦っていた。

 俺は何も出来なかった。その事が申し訳なかった。


 今宵も外で野営をする事になった。

 今夜も月が綺麗だった。


 皆が準備をしている間,俺はせめてと思い,ヴァイオリンで音を奏でた。

 少しすると何処からともなく,強風が吹き荒れ,空が暗黒に包まれた。


 よく見ると大空を羽ばたく巨大な何かが現れた。

 「ド,ド,ドラゴンだーー!!!!」

 ローレンツが大声を出す。


 ドラゴンと叫んだモンスターがこちらへと向かってくる。

 吹き飛ばれそうな羽の羽ばたきに耐えていると,ドラゴンは俺達の目の前に降り立った。

 「音を鳴らしてるのはお主か??」

 大きなトカゲのような,言うならファンタジーに出てくるドラゴンだが,月明かりがドラゴンの漆黒の鱗を照らす。俺に視線を送り,人の言葉を操っていた。

 皆のほうを見ると,皆震え出して硬直しているようだった。


 「先程の音色はお主の仕業か??」

 「まあ一応……」

 俺はドラゴンの声に答えた。


 「そうかお主か! お主の音は素晴らしいぞ!」


 話を聞くと,数百年間不眠症に悩まされていたそうなんだが昨日聞こえてきた俺のアヴェ・マリアでぐっすりと眠ってしまったらしい。そして今日の夜,音が聞こえなかったから俺のヴァイオリンの音を探していたらしい。


 そして今に至るという。

 「お主のおかげでよく眠れたのだ。だからお主と契約を交わしいのじゃ!」

 「契約?? なんだそれは??」


 「お主の従魔としてお主と共に旅に同行したいのじゃ」

 「つまり仲間になりたいって事?」


 「うむ! 簡単に言ったらそうじゃ」

 「え〜なんか仲間にしたら面倒くさそうだな……。大きいし。金かかりそう……」


 「おい! おい! お主の声聞こえておるぞ!」

 「え!? そう!? じゃあそういう事で断ってもいいかな!?」

 俺はあっけらかんとした態度で目の前の大きな生物に口答えをする。


 他の皆が俺の方へと詰め寄ってきた。

 「バカ!! カナデ!! 何断ってるんだよ! あのドラゴンは普通のドラゴンじゃない。伝説の生物の黒竜だ! 殺されるぞ!」

 「いやだって……」


 「いやだってじゃないわよ。私達も巻き添えで死んじゃうじゃない!」

 「拙者もまだ死にたくない」

 「カナデさん黒竜ってのは神話に出てくる生き物です。本によると三百年前に人族の街を何個も破壊したっていう大災害のドラゴンです」

 「ハハハ。ワシが生きてるうちに黒竜を見れるとわな」


 そんな事言われたって,俺にどうしろと??


 「とにかく契約した方がいいってカナデ」

 「ん〜皆がそう言うならそうします」


 「わかったよ黒竜! 契約しよう。どうすればいいんだ?」

 「余に名前を付けてくれ。さすれば契約が完了するのじゃ」

 すると突然周りが光輝き出した。


 「名前か……そうだな……クロエ。クロエでどうだ??」

 「クロエかいい名じゃ。余はこれからクロエと名乗ろう」


 光が徐々に引いていく。そして先程まで大きなドラゴンだった黒竜は,人間の姿へと変わっていく。すると小さい体格で黒髪ロングヘアーの少女の姿へと変わった。


 「ワッハッハ。これでいつでもお主の音を聴くことが出来るぞ! そういえばお主の名前を聞いてなかったな。名は何というのじゃ?」

 「カナデだよ」


 「おおカナデか! せっかくじゃ! 昨日やっていた音を鳴らしてくれ」

 「昨日のって分かった。じゃあ一曲」

 俺は昨日と同じくアヴェ・マリアを弾いた。


 「カナデが鳴らす音は本当に素晴らしいのじゃ。落ち着くのじゃ」

 アヴェ・マリアを弾き終わるとクロエはもう寝ていた。


 次の日になり,出発する。しばらくすると大きな塀で囲まれた街が見えてきた。

 「やっと着いたか。あそこが王都だ」

 王都に入ろうと門に向かうと門番に呼び止められた。


 「身分証を見せてもらえますか??」

 皆は身分証を見せているが,俺とクロエは勿論持っていない。


 「後の二人は??」

 「持ってないです」

 「なんじゃ? 街に入るのにわざわざそんなものが必要なのか?」


 「身分証がない場合は三千コルト必要だ。二人だと6千コルト」

 

 お金なんて持っているわけがない……


 「二人分の金は俺が払おう」

 ローレンツが代わりに払ってくれた。


 「申し訳ないですローレンツ! クロエもちゃんとお礼言って」

 「ん!? 大儀じゃぞローレンツ!」

 俺はクロエの頭を叩いた。


 「何をするのじゃカナデよ!!」

 「ローレンツいつか必ず返します」


 「いいよいいよ! そんな気にすんなよ」

 「まあでも身分証がないと色々と不便だからな。俺達はこれから冒険者ギルドに寄るんだが,一緒に来るか? 冒険者登録した方がいいぞ」


 「なるほど! じゃあローレンツよろしくお願いします」

 俺達はローレンツ達に付いていき,冒険者ギルドへと向かっていった。


 ギルドへと向かう途中の道や建物の外観を見るとやはり日本ではないようだった。地球に例えると,とある地域にあるような石畳の建物や道が続く。道行く人を見ても,人間だったり人間じゃないような人などが沢山混在して生活をしているようだった。


 リングストンに会ったときは,リザードマンの姿や存在に違和感しかなかったが,この街では普通の事のようだった。


 少しすると大きな建物が見えてきた。ここがギルドと呼ばれる場所のようだ。

 俺達は中へと入っていく。


 ギルドの中は広い場所で,並べられたテーブルを囲って様々な種族が和気あいあいと呑んだり食べたりしていた。


 ローレンツ達は奥の方に見えるカウンターへと向かう。

 カウンターに居るお姉さんが元気よく声をかけてくれる。

 

 「こんにちは!! ギルド,エンドレス・アドベンチャーへようこそ。どういった用件ですか?」

 「モンスターの買取と一緒に新人の登録も頼む」


 慣れた感じでローレンツはギルドに頼んでいる。

 「ここにいる二人を新しく冒険者登録お願いしたいんだ」

 「かしこまりました。買取りはあちらのカウンターでお願いします。新人の登録はまずはお名前を教えて下さい。それとここに血を一滴お願いします! 登録料も一万コルトかかります」


 え!? またお金かかるの? お金持ってないって……

 「なんじゃ!? またお金がかかるのか? 仕方ないのぉ」

 クロエは空中から急に宝石を出した。


 「これでどうじゃ? 金になるか?」

 「そんな事よりどっから出したんだよ!」

 「なんじゃお主,アイテムボックス知らないのか? 魔法で作った異空間に物を入れる事が出来るんじゃ! 便利じゃろ?」


 魔法ってのはなんでもありだな……

 それでもクロエのアイテムボックスから出てきた宝石は高価そうでお金を得られそうだ。

 「少々お待ち下さい! 査定してきますので」

 「クロエありがとうな! お金なんとかなりそうだな!」


 「ハッハッハ! 余は伝説の黒竜じゃぞ! 金などどうにでもなるわ」

 査定が終わったようでお姉さんが戻ってきた。


 「え〜とですね……申し上げにくいんですが,全部偽物ですね!」

 「!?!?!?!?!?!?」

 おいおいおいおい偽物って!!


 「クエロ偽物だってよ! お金もらえないじゃん!」

 「落ち着けカナデ。たまたまじゃよ! ちょっとまて」

 クロエがまたアイテムボックスから何やら色々出してきた。


 「これでどうじゃ!?」

 「もう一度査定してきますね」

 「これで大丈夫じゃろ?」


 自身満々に腰に手を当て,誇っているクロエ。


 「あの〜,全て買い取り出来ないそうです」

 「おい! クロエ! 買取出来ないってよ。お前伝説の黒竜なんだろ? 何かないのか?」

 「何か? ってなんじゃ??」


 「お前の鱗とか売れないのか??」

 「すいません。ドラゴンの鱗とかって売れますか?」


 「ドラゴンですか!? それは勿論売れますよ」

 「だってクロエ! お前の鱗売れるらしいぞ」

 「嫌じゃ嫌じゃそんなの! あ! でも昔に剥がれた鱗があったかもしれん」

 クロエがゴソゴソと探しだした。


 「おーあったあった。これでどうじゃ!?」

 「ちょっと確認しますね! これってまさかですけど黒竜の鱗ですか?」

 「そうじゃ! 黒竜の鱗じゃぞ! さあいくらで売れる?」

 お姉さんが奥の方へと行って戻ってきた。


 「こちらの鱗ですが,百万コルトで買い取らせて頂きます」

 「おお!! すげーな鱗!! これでどうにかなったな! それじゃあ登録料引いた金額をください」

 「分かりました。それではこちらに血をお願いします」


 血を一滴垂らす。するとプレートが中から出てきた。

 「これで冒険者ギルドに登録が完了しました。プレートには名前とランク,登録した時のギルドの名前が書いてあります」


 「ランクですか??」

 「ランクとは冒険者としてのレベルを表すものになりますね。最初はGランクです。依頼をしていくとランクが上がります。G→F→E→D→C→B→A→Sと上がっていきます。頑張って下さい」


 「ありがとう」

 「おお〜ちゃんとクロエと書いてあるぞ!」


 「登録が終わったかカナデ」

 「ローレンツ終わりましたよ」


 「俺達もモンスターの処理が丁度終わったんだが,良かったらこれから一緒に王国で一番の,いや世界で一番美味しい食事を出す店に行くんだが,行かないか??」


 「おお! それは凄いの〜。カナデ行くぞ!」

 「じゃあ一緒に行きますローレンツ」

 お金も入ったことだし,ちょっとぐらい贅沢してもいいだろう。


 ローレンツ達の後を付いていき,一つの店に前に到着し立ち止まる。想像していた店の雰囲気とは全く違っていた。

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