#11 強敵の邂逅② [フレデリカ]



「ウルフ!シャークロウタイガー3体だ」

「ああ。セカイ、頼んだぞ」

「うん!」


 奥から虎型の魔獣が3体走ってくる。

 セカイが大盾を構え、私たちの前に立った。


 私はその間に魔法の詠唱を開始する。


「【魔力よ、彼の者を包み衝撃から防げ。下位物理防御上昇レッサープロテクションアップ】」


 私はセカイに防御力が上昇する魔法をかける。

 セカイは3体の魔獣に盾でぶつかった。


 盾を地面に深くさしよろけそうになりながらもなんとか堪える。


「セカイ、ナイス!」

「もう少し堪えろよ!」


 その隙に横からウルフとシルドアウトが魔獣に攻撃をする。

 魔獣はあっさりと討伐できた。


 セカイが私たちを説得してから5日がたった。


 あの後満場一致でセカイがタンクになることを受け入れ、私たちの戦闘スタイルを見直すことにした。

 といっても単純だ。


 セカイが引きつけ、ウルフとシルドアウトが横から攻撃する。

 私は状況に応じて、セカイに補助魔法をかけるか魔獣に攻撃魔法を放つ。


 たったこれだけだ。


 しかし圧倒的に戦いやすく戦闘時間も短くなった。


「リーダー、ナイス!」

「セカイも良かったぞ!」


 セカイはリーダーとハイタッチをした。


 シルドアウトも後ろで手を上げ準備をしていたが、気づかれず歩き始める。

 機会を逃したシルドアウトは不自然に上がった手をすぐに下ろす。


 私はその様子がおかしくて後ろから笑っていると、彼が気づいたようで睨んできた。

 私は口元を手でおさえる。


 あの説得以降リーダーとセカイの仲はさらに良くなった。

 シルドアウトも彼の実力を認め、褒めることが多くなった。


 それもそうだろう。

 今の階層は29階層。21階層から攻略を始めたため9階層も進んでいる。


 5日で9階層。あり得ない速さだ。


 勿論依頼を受けず攻略に集中しているからだけど、これだけの速さで攻略できるのはセカイの情報収集能力あってのものだと思う。


 セカイは資料室にある本の内容を全て覚えているだけでなく、受付嬢に紹介してもらったという情報屋から必要な情報を買っているらしい。


 そのため罠にかかることもなく順調にダンジョン攻略が進んでいた。


「うわぁ!」

「リーダー!だからそこに罠があるから気を付けてって言ったよね!」


 前言撤回、罠にかかるのはウルフの馬鹿だけだ。


 ウルフは落とし穴のスイッチを押してしまったらしい。

 私は突如現れた人一人分の大きさの穴の中を見ると、ウルフが両壁に手と足をつき体を支えていた。

 底には鋭い槍のようなものが刺さっていたため、あと1m落ちていたら串刺しだっただろう。……まぁウルフにただの槍が刺さるとは思えないけど。


 ウルフは底の方を見て上がろうとしない。

 私はウルフに向かって叫んだ。


「早く上がってきなさい!ロープ無くても上がれるでしょ!」


「ちょっと待ってくれ、落とし穴の底に道がある?」

「道?」


 ウルフは槍に当たらないよう器用に落下した。

 そして見えなくなる。


「隠し道だ!お宝があるかも!」

「分かった!先に行かないでそこで待ってて!」


 セカイがウルフに待機するよう窘める。

 シルドアウトがセカイに話しかける。


「どうする。俺が行こうか」

「いや、その間に魔獣が出たら俺とフレデリカじゃ対処が難しい。

 俺が行くよ」


 セカイはロープを壁の出っ張りに結び落とし穴を降りていく。

 そして、少し時間がたつと下りてくるよう下から聞こえてきた。


 私たちも慎重に落とし穴を降りると、確かに底に横道がのびていた。


「これは……」

「隠し道だ!宝箱とかがあるかも!」


 リーダーは行く気満々みたいだ。

 私はセカイを見る。


 ダンジョン攻略を提案したのはセカイだ。それに一番ダンジョンに詳しいのも。

 セカイは考えている様子だった。


「セカイー。行こうぜ!絶対お宝だよ」

「行ってもいいんじゃないか?今の所攻略も順調なんだろ」


「そうだね……フレデリカはどう思う?」


「うーん、別にいんじゃない。最悪、魔石で帰れるし」


 セカイは皆の意見を聞くと目をつぶって悩む。


「よし、行こう!ただし危険だと判断したらすぐに魔石で帰還しよう」


 無難な選択だった。


「よっしゃー!」


 私たちは慎重に道の先を進む。

 道は決して広くなく人一人しか通れない。


 魔獣が襲ってきたらいつも通り戦えない為、いつも以上に気配を探りながら進んでいった。

 道の先にあった階段を降りるとすこし広い空間にたどり着く。


 その空間には大きな石の扉があるだけだ。


「ボス部屋だ」


 セカイがつぶやく。

 シルドアウトがセカイに聞く。


「どうする、帰るか」

「正直帰りたいね。でも……」


 私たちはウルフの方を見る。

 ウルフは目を輝かせて準備運動を始めていた。


「まぁ、一目見るくらいはいいんじゃないかな。

 正直このことはギルドに報告するべきだし、この隠しボス部屋に何がいるかも重要な情報だろう。

 ただし、俺の知らない魔獣が出た場合はすぐに魔石で帰還しよう」


 セカイの提案に皆が頷く。

 私たちは持ち物のチェックをした後、武器を構える。

 ウルフが扉に手をかけ開いた。


 扉を開けると何もない空間が広がっていた。

 縦横100m、天井までも10mほどある。


 そして中心には一体の魔獣が背を向け座っていた。


 私たちは警戒しながら部屋の中に入る。


 すると扉が自動的にしまった。

 セカイが警戒しながら扉を開けようとしたがびくともしなかった。


「開かない。やっぱりボス部屋の構造に近い」

「つまりあいつを倒せってことだな」


 魔獣が立ち上がり振り返る。


 3m以上の巨体。筋骨隆々とした体に赤みがかった肌。

 人と同じ体の構造だが、唯一違うのは頭に生えている2本の角だ。

 顔はおそろしくおぞましいものだった。

 私はその特徴に覚えがあった。


 セカイの説得の後、自分で調べた時に見たものと同じだ。

 私たちがまだ敵わない魔獣。


「オーガだ……」


 シルドアウトがつぶやいた。

 皆が呆気に取られているとセカイが肩を軽くたたき指示を出した。


「引こう。オーガは戦うにしても万全の態勢で臨むべきだ」


「分かった」

「了解」

「私も賛成」


 私たちはオーガから即座に距離を取り帰還用の魔石を取り出す。


「【転移テレポート、1階層】」


 しかし、何も反応しない。

 景色が変わることもなかった。


「転移できない!」

「俺もだ!」


 皆がパニックになる。

 その間にもオーガは私たちに近づいてきていた。


「みんな、落ち着いて!ひとまず回避に専念しよう」


 幸いなことにオーガの動きは遅かった。

 見て避けることも可能だし、まず動きを予測して距離を取れば近寄ることもない。


「みんな、持ってる帰還用の転移魔石を全部試してみて!誰か転移できそうな人はいる?」


 私は念のため持っていたもう一つの帰還用の魔石を試す。

 しかし、魔力の動きすら見えない。


「俺のは無理だった」

「俺も全滅だ」

「私も駄目……」


 セカイは苦い顔をする。


「俺も駄目だった……もしかしたらこの部屋は転移魔石が使えないのかもしれない」

「今までそんなことなかったぞ」


「うん、非常事態だ。ボス部屋も基本的に転移魔石を使えるはずだった。

 だけど、ここは隠されたボス部屋だ。

 何があっても不思議じゃない」


「セカイ、つまり俺達には一つしか道はないってことか?」

「リーダーの言うとおりだよ。倒すしかない、オーガを」


 ウルフは手で拳を叩く。


「分かりやすくていいな!セカイ、何か作戦はあるか?」

「ない。オーガと戦うつもりはなかった。

 けど、とりあえずオーガの強さを確認する必要がある」


「了解。いつも通りいくぞ!」


 ウルフは笑っていた。

 私も心を落ち着かせて覚悟を決める。


「うん!」

「了解!」

「オッケー!」


 セカイが前に出て大盾を構える。


 オーガはセカイに目掛けて拳を振るった。


 オーガの拳がセカイに当たる瞬間、彼の周りに【氷盾アイスシールド】が自動展開される。

 しかし、オーガの拳は止まらなかった。


 何かが割れるような音と共に轟音があたりに響く。


 セカイが宙に吹っ飛ばされた。


 一度も魔獣の攻撃を通さなかった【氷盾アイスシールド】が突破された。


「「セカイ!」」


 私とシルドアウトが彼の名前を叫ぶ。

 セカイは頭を抱えて落下した。

 すぐに起き上がり叫ぶ。


「俺は大丈夫!それよりもリーダーを!」


 私はオーガの方を見直すとウルフがオーガの懐へと潜り込んでいた。

 一瞬にして腹部に拳を3発叩き込む。


 オーガは効いた様子がなく、ウルフに向かってフックをするが彼はその場で回転しギリギリで避けた。

 そしてその勢いで跳び、再び腹部に後ろ蹴りをくらわした。


 回転後方蹴撃。


 いつもの彼ならそう叫んだだろう攻撃だ。

 

 オークの顔を吹き飛ばすほどの威力を持つ攻撃。


 オーガはよろける。

 しかし倒れることはなく即座に反撃した。


 ウルフは避けると同時に後ろへ跳びオーガから距離を取る。


「やばい、全然効いてない」


 ウルフが焦った声で言った。

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