#4 新しいセカイの日常① [セカイ]


 2週間がたった。


 俺は今、カインさんの家にお世話になっている。


 2週間もたてば新しい環境にも慣れてきた。


 基本的には家で家事をして生活をしている。

 俺は床の拭き掃除をしながら分かってきたことを脳内でまとめていた。


 この街は始まりの街。

 これが正式名称である。かつて勇者が誕生しここから冒険を始めたらしい。当時は村だったようだ。

 森にすむ精霊の力により弱い魔獣しか出ない為、勇者は順調に強くなっていったようだ。

 今では精霊の力に加え勇者の加護も働いており、街には一切魔獣が近寄らないらしい。


 そのためここはこの国で最も安全な街だそうだ。

 村から街に発展したのもそういう経緯がある。


 だから、俺は運が良かった。

 転移された場所が普通の道なら、すぐに魔獣に襲われてお陀仏だっただろう。


 そしてカインさんはこの街の衛兵長をしている。


 警備隊の中では最も強い。


 身元が分からない俺を居候させてくれることからも分かる通り彼はとても優しい。

 街の有名人で、一緒に歩いていると多くの人から声をかけられていた。


 頼りになり皆から慕われているようだった。


 彼に見つけてもらって俺は幸運だ。


 そしてこれらの事実からわかったことがある。



 ここは異世界だ。



 少なくとも地球上にある国ではないだろう。

 魔獣や精霊、勇者と言った言葉が日常的に使われること。

 槍を持った衛兵が街を守っていること。


 そして何よりこの世界には魔法がある。


 実際にカインさんに見せてもらい俺はこの世界が異世界だと確信した。


 カインさんが見せてくれた魔法は火をつける魔法だった。

 火と言ってもライター程度で危険なものではない。


 魔法は基本的に才能のある人しか覚えられないが、この程度ならお金さえ払えばだれでも使えるようになるらしい。


 俺は床拭きを終え空気を入れ替えるため窓を開ける。


 そして街並みを眺めた。


 この世界が異世界だということは、家に帰れないということだ。

 勿論、俺が異世界から来ている以上、帰る方法があるかもしれない。

 しかし簡単に見つかるとは思えないし、見つかったとしても力のない俺じゃそれを実現できるかは怪しい。


 俺はこの2週間で最も苦労したことは覚悟だった。


 この世界で生きる覚悟。

 そして家族とは一生会えない現実を受け入れる覚悟だ。


 すぐに受け入れることはできなかった。

 しかし、カインさんの助けもあり俺は徐々にではあるが、この世界で生きる覚悟がついてきた。


 遠くの方で鐘の音が鳴った。


 俺は急いで雑巾をかたづけ外に出る準備をする。


 カインさんの所へ行くためだ。


 俺はもらったローブを被り外へ出る。

 鍵をかけたことをしっかり確認すると外を走り出した。


 この世界で生きる覚悟を決めるためしていることがある。


 それは戦闘訓練だ。


 カインさんは週に5日衛兵の仕事をしている。


 俺は彼が仕事を終えた後、衛兵が使える訓練所で彼から戦闘訓練を受けていた。

 2日に1回。2時間ほどの訓練だ。


 勿論たったそれだけの時間で強くなれるわけではないが、何もしないよりはましだ。

 訓練所にはすぐについた。


 俺は息を整え許可証を見せ訓練所に入る。


「お疲れ様です!」


 俺はできるだけすれ違う人に会釈と挨拶をする。

 よそ者だからか俺の印象は悪い。


 少しでも良くするためには挨拶は欠かせないだろう。


 訓練所についてすることは走り込みと素振りだ。

 カインさんが来るまで訓練室を走っては、教えてもらった型の素振りを決まった回数行う。これの繰り返しだ。


「坊主、やってるかー!」

「カインさん!お疲れ様です!」


 カインさんが来た。


 カインさんが来た後は彼とひたすら模擬戦を行う。

 棍と呼ばれる長い木の棒で行うのだが、カインさんは勿論普通にあててくる。


 手加減されているため重症にはならないがめちゃくちゃ痛い。


 しかし、死ぬよりはましだ。

 俺はこの世界で生き残るためにも我慢しながら訓練を行った。


 それに訓練を終えた後、カインさんは優しく褒めてくれる。


 愛のある鞭だと思うとこの訓練も耐えることができた。


 また、たまにカインさんの部下であるビルキさんとも模擬戦をしている。

 彼女はカインさんと違い厳しいが、最近は少し褒めてもらえるようになった。


 今日もまた、カインさんと訓練を行った。


 勿論ボコボコにされたが訓練を終えた後、カインさんは重要な話があると『勇者の安らぎ亭』に連れてきてもらった。


 いつものシチューを食べた後、カインさんは俺に本題を話し始める。


「セカイ、そろそろ冒険者になれ」

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