第30話 リヒトの戦い①


「リヒト殿だな…我々は聖教国の聖騎士だ、ちょっと来て貰おうか?」


やはり来たか。


しかし、京姉が居ないこのタイミングを狙って来た…という事はカイト絡みだな。


「断る…そういう訳にはいかないんだよな?」


「すまない、これは強制だ…ついて来てくれないなら、あの女がどうなるか考えろ」


脅し…今の俺には尤も痛い脅迫だ。


「解った!着いて行く…」


悪いがこれで聖教国も俺は敵とみなすからな…


◆◆◆


態々中央教会にまで俺を連れてくるって事は…かなりの大物が動いている…そう言う事だ。


面倒だな…最低でも大司教…場合によっては教皇絡みだ…


不味いな…


「これは、これはリヒト殿、よくぞ参られた」


最悪だ、ロマーニ教皇だ。


考えられる最悪のパターンだ。


実質この国のトップ…いや考え方によってはこの世界のトップだ。


「教皇様、私は自ら此処に来たのではありません。無理やり連れて来られたのです」


「まぁまぁ、固い事言わずとも…察しの良い貴方なら此処に連れて来られた意味も解っているのではないですか?」


ハァ~どうせカイト絡みだ。


「さぁ~なんの事か解りません…勇者パーティの離隊の事であれば円満離隊ですから問題ない筈です…王国にも書類を提出しています」


「確かに…書類上不備はありません…ですが、勇者様達が困っているのです、助けてあげて貰えませんか? 勿論、無料じゃありません、ローアン記録水晶を…」


「はい、教皇様…」


「この映像を…これこそが教会が貴方に払う対価です」


そこには故郷の村人が虐殺されていく映像があった。


「これは…」


「貴方の大切な人を迫害し汚した者は教会の名の元に全てこの世から消しました…どうですこの対価なら、納得して頂けると思います」


これは確かに好ましい事だが…対価として成立していない。


京姉の事を知っている人間は他に最低5人居る。


カイト達勇者パーティと他ならぬ教皇だ。


俺が京姉と離れる事は考えられない。


その状態で勇者パーティと行動を共にしたら…京姉の事を知る4人と一緒に行動する事になる。


最悪だ…


3人は兎も角カイトは女癖が悪い…


全てがマイナスだ。


やるしかない…此処が俺にとっての魔王城だ。


失敗したら全てを失う。


京姉を地獄の生活に戻す位なら…命を懸ける。


頭の中に意味もなく『死ぬのには良い日だ』それが浮かんだ。


多分、意味は違う。


大きく息を吸い込み…叫んだ。


「勇者の里を皆殺しにした逆賊ロマーニーーーッ! 成敗致すーーっ」


そのまま一足飛びに近づきロマーニ教皇の首を跳ねた。


「「「「「貴様ぁぁぁぁぁぁーーーーー」」」」」


聖騎士が動くが、間に合わず…ロマーニは悲鳴を上げる暇もなく首がこぼれる様に落ちた。


此処からが勝負だ。


「ローアン大司教…教皇ロマーニは気が触れて勇者の里を皆殺しにした…その証拠がこれだーーーっ! 勇者の母は居ないが他の三職の親は健在だった…映像で異教徒として殺されていたが…女神が四職の親に異教徒を選ぶわけがない…女神の目が曇っているか、教皇が気が触れたかしか考えられないーーっ」


周りは黙っている。


そのまま走っていき、ローアン大司教に近づく。


此奴は聖教国で2番目の地位があり『勇者絶対主義者』でもある。


此処をつく。


『教皇になるチャンス…勇者の里を襲撃した犯罪者を見逃すのか』


耳元で小さな声で囁いた。


俺がやれるのは此処迄だ。


「貴様、教皇様を殺すなど…生きて此処を出られると思うなよ」


「万死に値する」


どう動くローアン大司教…動かないなら『斬り殺す』しかない。


流石の俺でも…死ぬしかない…


「俺は逆賊を斬っただけだーーーーっ」


頼むから動いてくれ...


「静まれーーーっ…リヒト殿は無罪だ…私達はそこの者に騙されて勇者の里を襲ってしまった…それを正してくれたのだ…寧ろ感謝を言うべきだ」


勝った。


ローアンは…


彼奴も『勇者絶対主義』だ、勇者の故郷を襲った事で勇者に嫌われたくない筈だ…これでそれをロマーニにそれを押つける事が出来る。


そしてその討伐をに自分が加わったとも言える。


更にこれで『次期教皇』につける。


これに気がつくか…食いつくか…賭けだったが…どうやら勝ったようだ。


「「「「「「「「「「はっ」」」」」」」」」」


「ハッ」


聖騎士が剣を下げたのでこちらも剣を下げた。



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