第28話 勇者SIDE 帰郷

可笑しい…


いつも旅先にまで届く親父からの金の無心の手紙が届かない。


良い物ではない。


見ればいつも腹が立ったが…来ないのは可笑しすぎる。


俺の親父は…正直言わせて貰えば『意地汚い』金使いが荒く碌な物じゃない。


お金欲しさに『あんな女でも嫁』にした位だ。


幸い、俺は勇者のジョブを授かる前から、中心人物だったから揶揄う人間は少なかった。


だが、それでも、何回も嫌な思いをした。


俺に勝てない人間が陰口でを叩く…『便所の子』と…


俺の母親は別人で彼奴は只の後妻だ。


それでも義理とはいえ母親…嘘ではない。


息子の将来を考えたらあの後妻は無い。


だが…血の繋がりは怖い…そんなクズな父親でも最後の最後で嫌いになれない。


こうして俺はクズな父親からの手紙を受け取り…いくばくかの金を送金している。


その手紙が届かなくなった。


それ処か…


「送金が出来ないだと…」


「はい、どうやらその口座は凍結されたみたいです」


まさか、あの馬鹿…税金も払わず奴隷落ちでも…いや可笑しい。


彼奴は俺の親父だ。


もし、そうなるとしても…領主から俺の元へ手紙位は来るはずだ。


◆◆◆


「カイト可笑しいわ、お母さんの手紙が届いてないの」


「私も同じだ」


「私も、今までこんな事はなかったわ」


可笑しい、可笑しすぎる。


俺は兎も角、三人の親はちゃんとした親だ。


どう考えても奴隷落ちなんて考えられないし、三人の手紙に対してちゃんと返事をくれていた。


全員の親と連絡がつかないという事は『村で何かが起きた』に違いない。


リヒトも気になるがそれ以上に今は村が気になる。


全員の親と連絡がつかない…一体何が起きているんだ。


「俺の方も連絡がつかないんだ…それ処かお金も振り込めなかった」


「本当なの、それ」


「ああっ本当だ」


この世界の口座の管理はギルドがしている。


冒険者ギルドの口座どうし送金が出来るシステムだ。


勿論、俺の親は冒険者ではないが、冒険者ギルドで登録をして送金がしやすいようにしていた。


それが出来ないとなると、何か起こった可能性が高い。


「なぁ、悪いが皆も親元に送金してみてくれないか?」


「「「うん」」」



「どうだった?」


「可笑しいわ、送金が出来ないの」


「私も同じ」


「それだけじゃ無いよ…調べたら口座そのものが無くなったって」


「本当か?!」


「本当だよ」


冒険者ギルドの口座という物は奴隷落ちしても凍結される事はあるが無くならない。


無くなるという事は当人が亡くなった事を意味する。


「三人の親と俺の親が亡くなったなんて話は聞いて無い」


「普通は何だかの話がある筈だわ」


「そうだよ、剣聖の特権で何があったのか聞きだそうとしんだけど駄目…向こう側のギルドで規制が掛っていて、こちら側では知る事が出来ないんだって」


ヤバいな…俺達の知らない所で『村』に何か起きているのかも知れない。


クズな親父だが…俺にはただ一人の親父だ。


それより、この三人が気になる。


「カイトどうしよう…母さんに何かあったんだよ」


「下手したら魔族に殺されているのかも知れないよ」


「それは無いよ…それなら絶対にギルド経由で連絡がある筈だから…ただ私達の想像を超える何かが起きていて、危ないのは間違いないと思う」


俺は兎も角、この三人はこんな心配事を抱えていたら仕事にならない。


これは解決しないと不味いな。


「空竜艇を使えば、そんなに時間は掛からない…1回村に戻ろうぜ…問題が無ければ、謝れば良い…かなりきつく怒られると思うが家族を見捨てるより余程良いさ…もし問題があったら大変だ」


「そうね…その時は私も謝ってあげるわ」


「私も土下座でもなんでもする」


「私も謝るから…今は村へ急ごう」


嫌な予感がした…だから俺達は怒られるの覚悟で故郷に帰る事を決意した。





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